ロック探偵のMY GENERATION

ミステリー作家(?)が、作品の内容や活動を紹介。
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元オウム死刑囚らの死刑執行に思う

2018-07-07 19:10:14 | 時事
元オウムの死刑囚らに対して刑が執行されました。
 
地下鉄サリン事件から20年以上……

これを“区切り”ととらえられるかは微妙なところですが、とにかく時代が変わったということは感じますね。

どの辺が変わったかというと、テロの背景の変化というか……

地下鉄サリン事件の背後にあったのは、ある種“飽食の末の空虚”だったと思うんです。

そのころ村上龍さんが発表した『空港にて』という連作短編集があって、この作品に地下鉄サリン事件のことが書かれていたりするんですが、そのなかの一編にこんなことが書いてありました。

「普通の人は、一生、普通の人生というカテゴリーに閉じ込められて生きなければならない。そして、普通という人生のカテゴリーにはまったく魅力がないということをほとんどの人が知ってしまった。そのせいで、これから多くの悲劇が起こると思うな」

90年代ぐらいによく「日本は物質的には豊かになったけれど、心は貧しくなった」みたいなことがいわれていました。こういってしまうとなんだか陳腐ですが、一連のオウム事件の背景にあったのは、そういうことだと思うんです。物質的な意味での不足はない。だけど、なにか満たされない……という。

しかし、それから20余年がたち、日本は新しいフェーズに入っているような気がします。
それはすなわち、物質的な豊かさも失われつつあるということですね。
この十数年ほどの間で、“格差”や“貧困”が、無視できない状況になってきています。もう、「物質的には豊かだけど」という前置きも成立しなくなってきてるんじゃないかと思えます。かといって、では精神的な豊かさが回復しているのかといえば、それもどうなんだろうと首を傾げずにいられません。なんだかギスギスしていて、ちょっと何かあるとすぐにバッシング、袋叩き、炎上ということになり、差別や排外主義が蔓延する……
このままいくと日本は、物質的にも精神的にも貧しい、なにもない国になってしまうんじゃないか。昔は金持ちだったけど、バクチに手を出してすっからかんになり、他人の悪口をいいながら余生を過ごす隠居老人のような……
サリン事件に関する死刑執行の報道に接していて、そんなことを感じました。

Bruce Springsteen, Let's Be Friends(Skin to Skin)

2018-07-05 15:45:01 | 音楽批評
今回は、音楽記事です。

以前、歌と愛国心について書いた記事で、ブルース・スプリングスティーンの名前が出てきました。

そこからのつながりで、今回はこのアメリカンロックの“ボス”について書いておきましょう。

ブルース・スプリングスティーンといえば、やはり Born in the USAが有名ですね。
もともとは、そこまで政治的な主張を前面に出すアーティストでもなかったと思いますが、Born in the USAではそういう傾向が強く出ています。同じころのWe Are the World に参加したりしていたのも、うなずけます。

アルバムの Born in the USA 発表後、バックバンドであるEストリートバンドはいったん解散しました。
しかし、それからおよそ20年後に、Eストリートバンドは復活します。
それが、The Rising というアルバムでした。



このアルバムが発表されたのは、2002年。
前年に起きた同時多発テロに触発された曲が多く収録されています。The Rising というタイトルは「立ち上がる」ということであり、テロで受けたダメージから立ち上がろうというメッセージがそこに込められています。

このアルバムに、Let's Be Friends (Skin to Skin)という曲が収録されています。

直訳すると、「友だちになろう」ですね。

まさにそのとおりの歌です。


  君と僕が違うことはわかってる
  歩き方が違うこともわっている
  “過去”を“歴史”にするときがきたんだ
  そうさ、僕らが言葉を交わすことができたなら

  崩さなきゃいけない壁はたくさんある
  一緒なら 一つずつそれができるはずさ

  次のチャンスがいつくるかわからない
  好機はすぐに終わってしまう
  次のチャンスがいつくるかわからない
  好機はすぐにすり抜けていってしまう
  さあ、友だちになろう


ブルース・スプリングスティーンという人は、ここまでストレートな表現をすることはめったにないアーティストだと思いますが、当時は、そうせざるをえないような心境だったということなんでしょう。

当時のアメリカは、同時多発テロのショックから一種のヒステリー状態になっていて、アフガンへの報復攻撃、さらにはイラクへの攻撃に突き進もうとしていました。そのなかで、ボスは融和を歌っていたのです。
その声にみなが耳を傾けていたなら……と思わずにいられません。そうしていれば、その後中東がカオス状態に陥ることもなかったでしょう。

ここで以前の記事で書いた“愛国心”というテーマにもつながってきますが、本当にアメリカ人が国を愛しているなら、イラクへの攻撃は全力で止めるべきでした。
ところが実際には、“愛国心”の名のもとにイラクへの攻撃が行われ、その泥沼の戦いがアメリカの社会に大きな傷をもたらしたのです。

この歌のメッセージは、いまの東アジア情勢にも通ずると思います。

好機はすぐにすり抜けていってしまう。そして、次のチャンスはいつくるかわからない……
いたずらに勇ましいことをいって武力行使なんてことになったら、その後東アジアがカオス状態に叩きこまれることはかなり確実です。それが中東の教訓です。

今朝の読売新聞を見たら、8割以上の人が北朝鮮の非核化に懐疑的という調査が出ていました。
もちろん、非核化はそう簡単にはいかないでしょう。これまでの経緯を考えれば、素直に期待できないのももっともです。しかし、今のこの道しか、進める道、進んでいい道はないんです。

投げ出してしまうのは簡単ですが、これからのことを考えるなら、崩さなければならない壁を一つずつ崩していく努力をするべきでしょう。

日本VSベルギー

2018-07-03 19:30:03 | スポーツ
ロシアワールドカップ、決勝トーナメントの日本VSベルギー戦。

午前三時キックオフですが、私は夜型の人間で、ふつうに起きている時間だったため、テレビで観ていました。


なかなか悔しい負け方でしたね。

2-0になったときは、このまま勝つんじゃないかと思いましたが……壮絶な逆転ゲームでした。
いつだったか、ホークスが日ハムに大逆転優勝を許したシーズンを思い出しました。10ゲーム以上の差をつけたにもかかわらず、土壇場で逆転を許す……ああいう感じでしょうね。監督や選手らが試合後のインタビューで見せたあの放心状態のような感じも納得できます。

しかしまあ、全体的にみて善戦したと思います。

一進一退ながら、日本のサッカーのレベルも着実に上がっていってるんじゃないでしょうか。

あと2,3大会のうちには、ベスト8以上への進出も十分にありうる。そういう感触をみせた今回のワールドカップだったと思います。

長崎の「潜伏キリシタン関連遺産」が世界文化遺産に

2018-07-01 14:31:16 | 時事
長崎の潜伏キリシタン関連遺産が、世界文化遺産に登録されることが決定しました。

長崎がだんだん熱くなってきてますね。
軍艦島もあるし、観光地としてかなり人が集まりそうな予感です。


長崎には、何度か行ったことがあります。

投稿時代には、長崎を舞台にした話を書き、そのロケハンで行ってきました。
また、やはり投稿時代に隠れキリシタンが出てくる話を書いたこともあって、今回の世界遺産登録は感慨深いものがあります。


江戸時代、日本におけるキリシタンは弾圧を受けていました。

しかし一方で、キリシタンの側が日本古来の仏教や神道を貶めたり、寺社を破壊するような活動があったことも指摘されています。
そのことが寺社勢力の怒りを買って、キリシタン弾圧につながっていったという側面があります。
当時はキリスト教の側も他の宗教に対して排他的で、とりわけ多神教に対しては攻撃的な態度をとることもあり、それが根深い宗教対立を生み出していました。
もちろん、だからといって幕府がキリシタンに対して加えた非対称な暴力が正当化されるわけではありませんが……
ともかく、キリシタン弾圧の歴史は、宗教上の無理解や不寛容がいかに悲惨な結果を生むかという教訓です。

その教訓がかみしめられるべき時代に、いまの世界は入ってしまってると思うんですね。

今回、潜伏キリシタン関連遺産が世界遺産に登録されたということには、そういう意味もあるんじゃないか……そんな気がしています。