ロック探偵のMY GENERATION

ミステリー作家(?)が、作品の内容や活動を紹介。
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Yusuf Islam - Peace Train

2020-01-08 18:27:46 | 音楽批評


イラクの米軍基地をイランがミサイル攻撃しました。
いよいよ、緊張が高まっています。
アメリカのトランプ大統領は明朝声明を出すとしていて、事態が大きく動く可能性もあります。

しかしこのブログでは、これまで同様、あくまでも戦争に反対する立場を貫きたいと思います。

戦争にNOということで、前回はCCR の曲をとりあげましたが……今回は、Yusuf Islam のPeace Train という曲を紹介しましょう。

ユースフ・イスラム……

キャット・スティーヴンスといったほうがとおりがよいでしょうか。

ジミー・クリフやMr.BIGなどがカバーしたWild World という曲で有名な人ですが、1979年代にイスラム教に改宗。ユースフ・イスラムという名前で活動するようになりました。

そんなユースフが、Peace Train という歌を歌っています。
本人の公式サイトから、動画を貼り付けておきましょう。


Yusuf / Cat Stevens - Peace Train (Live at Market Hall, South Africa)

タイトルを直訳すると「平和の列車」。

歌詞は、次のようなものです。
動画ではちょっと歌詞が変っている部分もありますが。


  僕はこのところ幸せなんだ  
  これからやってくるよいことを考えて
  そして僕は信じている
  いつの日か それはやってくると 

  僕はこのところ笑顔なんだ
  一つの世界を夢見て
  そして僕は信じている
  いつの日か それはやってくると
 
  いつの日かそれはやってくる
  僕を家へ連れて帰っておくれ
  さあ 平和の列車よ
  
  暗闇の淵から
  平和の列車がやってくる
  いつの日か それはやってくる

“お花畑”といってしまえばそれまでですが、この曲では悲しい現実も歌われています。

  僕はこのところ泣いてるんだ
  こんな世界の現実を考えて
  どうして僕らは憎みあわなくちゃいけないんだ
  どうして僕らは幸福のうちに生きられないんだ


私がこの曲を知ったのは、いまから十数年前のこと。
『HOPE』というアルバムにおいてでした。

 


これは、ちょうどイラク戦争の頃に発表された、イラクの子どもたちを支援するチャリティアルバムです。
再三いっていますが、思い出してほしいのは、イラクや、アフガニスタンのことなんです。
武力を行使した結果、それらの国がいまどうなっているのか。勇ましいことをいっている人たちには、そこを考えてもらいたいと思います。




John Fogerty - Fortunate Son

2020-01-06 14:29:54 | 音楽批評

イランとアメリカの間で緊張が高まっています。

にらみ合いのような状態は去年からありましたが……
大統領選をひかえ、トランプ大統領が冒険外交としての戦争というカードに手を出してしまう可能性は、現時点でかなり高くなっているといえるでしょう。共和党の先輩であるブッシュJrが散々批判されながらも再選されたのは、戦時中という状況だったからといわれます。何が何でも再選を目指すトランプ大統領が、その再現を狙うのは、ありそうなことです。
そして、その戦争は、世界に深刻な影響をもたらすおそれがあります。
米軍がいくら強いといっても、イラクやアフガニスタンといった軍事的弱小国でも敵を抑え込めていないのが実情です。まして、イラク、アフガンに比べれば強大なイランと戦えば、深い泥沼が待っているでしょう。それを考えたらイランとの戦争などできない道理ですが、自分の再選のためならそれをやってしまいそうなのが、トランプという人の恐ろしいところです。

そんな状況で、今回は、硬派系音楽記事としてジョン・フォガティの Fortunate Son を紹介します。

もともとは、ジョンが在籍していたCCRの曲ですが、ソロでもよく歌ってるようです。

John Fogerty - Fortunate Son (Live)

内容は、直球ストレートの反戦歌。

映画『ダイ・ハード』のたしか4で、マクレーンがこの歌を聴いてるシーンがありました。
そのとりあわせにはちょっと違和感もありますが……これだけハードにロックして反戦を歌ってくれるというのも、なかなかのものです。

  旗を振るために生まれてくる奴らもいる
  ああ、あの赤と白と青のやつさ
  Hail to the Chief をバンドが歌い始めれば
  連中はお前に大砲の照準をあわせるのさ

  俺じゃない そいつは俺じゃない 俺は上院議員の息子じゃない
  俺は幸運な息子じゃない

  財産をもって生まれてくる奴らもいる
  連中は生きるのに苦労しない
  だけど徴税人が戸口にやってきたときには
  家はがらくた市のようさ

  俺じゃない そいつは俺じゃない 俺は億万長者の息子じゃない
  俺は幸運な息子じゃない

  星降る目を受け継ぐ奴らもいる
  やつらはお前を戦争に送り出し
  どれだけのものを差しださなければならないんだとお前が問えば
  奴らはこう答えるだけ――「もっと、もっと、もっと!」

  俺じゃない そいつは俺じゃない 俺は軍人の息子じゃない
  俺は幸運な息子じゃない


一応解説を加えておくと、Hail to the Chief というのは、アメリカで大統領が登場するときに演奏される曲です。また、「星降る目」(Star spangled eye) というのは、星条旗を意識した表現でしょう。タイトルのFortunate Son という言葉も、たしかイディオム的な意味を持つ言葉だったと思いますが……度忘れしてしまったうえ、ググっても見つかりません。まあ、「幸運な息子」という直訳で、いわんとするところは十分に伝わるでしょう。

前にも一度書いたと思いますが、マイケル・ムーア監督が『華氏911』という映画を撮ったときに、作品にインスピレーションを与えた曲を集めたアルバムというものが発売されています。

 
 
そのアルバムにも、この曲が収録されていました。

そもそもは1969年に発表されたもので、ベトナム戦争当時のアメリカを批判する歌だったわけですが、それがイラク戦争で歌われる。そして、いまもなおそのアメリカ批判がそのまま通用してしまう……これは、アメリカという国の病理としかいいようがありません。

いま、全米各地で反戦デモが行われているようですが、さすがに過去の歴史に学んで、愚かな戦争を事前に止めてもらいたいところです。




『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』

2020-01-04 11:46:45 | 映画
 


映画スターウォーズのエピソード3『シスの復讐』を観ました。

なんで今さら、という話なんですが……

スターウォーズの最新作が公開されていて、昨年暮れの『アメトーク』で、スターウォーズ芸人をやっていたりして、これはちょっと復讐してから観に行った方がいいな、と。

私はこれまで、2、4、5、6を観ているという変則的な観方をしていたので、まだ観ていない1と3を、正月休みを利用して観たという次第です。

で、新三部作の最終作にあたる『シスの復讐』です。

スターウォーズシリーズの大ファンという人が、この作品を観て「もう二度とスターウォーズを観ない」といったという話を聞いたことがありますが……
たしかに、エピソード1~3だけを観れば、おそろしく後味の悪い物語です。
三部作の三作目ということでいろんなストーリーが絡んでいますが、そのことごとくが、考えうるかぎり最悪の結末を迎えるバッドエンドなのです。
その後の4~6があることが救いになるわけですが、それがなかったら実にひどいストーリーということになるでしょう。

ただ、共和制が解体されて帝国ができるという大枠については、4~6がある以上、観る側にも予測されていることです。

戦乱のなかで、共和制があっさりと崩壊していく。
パルパティーンが銀河帝国の成立を宣言したとき、ナブーのアミダラ女王は「自由は死んだ、万雷の拍手の中で……」とつぶやきます。

この筋立ては、当時のアメリカ社会を批判するもののようにも感じられました。たしか公開当時もそういう議論があったように記憶しています。
戦争を利用し、暗黒面の勢力が共和制を崩壊させ、帝国ができあがる……それは、イラク戦争にむかっていくアメリカの姿に重ねあわされているのではないか、と。

おりしも、イランをめぐる情勢が一気に緊迫の度を高めています。

イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を米軍が殺害したことで、米イラン間の戦争は、現実味を増してきました。

この2020年というタイミング――
弾劾に危機感を持ったトランプ大統領が、大統領選挙にむけ、戦争を“人気取り”に利用しているのではないかという指摘もあります。これは、かつてのブッシュJr.大統領もいわれていたことでした。
歴史は繰り返すのか。
この時期にスターウォーズを観て、そんなことを考えさせられました。



夏樹静子『第三の女』

2020-01-03 20:37:41 | 小説
 

夏樹静子さんの『第三の女』という小説を読みました。

もちろん、ミステリー古典キャンペーンの一環です。
“古典”といえるかどうかはわかりませんが、「フランス犯罪小説大賞」なるフランスの賞を受賞したということもあって、名作といえるでしょう。

(※以下、『第三の女』の内容に触れています。極力ネタバレは避けるように書いていますが、勘のいい人には重大なヒントになる可能性もあります。未読の方はご注意ください。)

扱われるのは、いささか変則的な交換殺人。

作品の導入部分で、フランスで出会った二人の日本人が、交換殺人の契約を交わします。
二人とも、殺したい相手がいる。
お互いがその相手を交換して殺せば、人間関係から捜査線上に浮かび上がることはない……そういう殺人です。

それだけならば、以前このブログでも紹介したハイスミス『見知らぬ乗客』の二番煎じということになります。
である以上、それだけであるはずはない。まあそこに何か一ひねりぐらいくわえてくるんだろう。こちらとしてはそういう感覚で読んでいくんですが……
しかし、そういう展開にはならないのです。
最後に、予想外の真相が明かされます。
話が先に進むにつれて、『第三の女』というタイトルの意味が読者の頭のなかにちらつきはじめますが、それもまた、ある種のミスリーディング。ネタバレになるので詳細は控えますが、よほどのミステリー上級者でも、この真相には驚かされるでしょう。
しかも、単にミステリーとしての意外性があるというだけでなく、その悲劇性が深い余韻を残します。ミステリーの一つの理想形ともいえる作品ではないでしょうか。


ここで、夏樹静子という作家について書いておきましょう。

この人は、一時福岡に住んでいたこともあって、福岡ゆかりの作家として、福岡市文化賞や福岡県文化賞をもらっていたりもするようです。そういう意味では、私にとってご当地作家ということにもなります。

その作風は、ミステリーにおける王道系といえるでしょう。
『Wの悲劇』や、『そして誰かいなくなった』など、ミステリーの古典に着想を得つつ、独自性を出していくというところがポイントです。

若いころには江戸川乱歩や横溝正史をよく読んでいたということで、そこからも王道をいっていることはわかるでしょう。
そんなわけで、乱歩賞に応募し、二度最終候補に残っています。受賞はしていませんが、二度目のときに受賞したのがかの森村誠一さんで、もうそういうレジェンドの時代なわけです。

そして、夏樹静子という作家を語る上でもう一つ触れておくべきなのは、その兄の存在でしょう。
兄は五十嵐均という人なんですが、この方は松本清張とともに霧プロダクションを設立するなど、日本のミステリーを裏方で支えてきた人です。
ご自身も『ヴィオロンのため息の―高原のDデイ』という作品で横溝賞を受賞し、作家としてデビューしています。そのときの選考委員に森村誠一さんがいたというのも、因縁めいたものを感じさせます。

また、この兄妹はエラリー・クイーンとの親交でも知られます。『Wの悲劇』で用いられたトリックは、フレデリック・ダネイも、前例のないものだろうと賞賛したといいます。
その『Wの悲劇』は、いうまでもなくクイーンのドルリィ・レーン・シリーズにならったものなわけですが……X、Y、ZときてWにしたのは、数学で文字をおく場合にはその順番になるからということにくわえて、Woman の頭文字ということもあるのだそうです。そう考えると、『第三の男』をもじって『第三の女』というタイトルも、同様の趣向かと思われます。女性の社会進出みたいな点でも時代に先駆けていた人といえるかもしれません。もっとも、現実の日本ではジェンダー格差が過去最低の121位という状況があるわけですが……