ロック探偵のMY GENERATION

ミステリー作家(?)が、作品の内容や活動を紹介。
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エマソン、レイク&パーマー「聖地エルサレム」(Emerson, Lake and Palmer - Jerusalem)

2023-06-13 20:33:00 | 音楽批評


今回は、音楽記事です。

最近はプログレ系の話をずっとしていて、キング・クリムゾン、ピンクフロイド、イエス、ジェネシスというこの界隈の大物が登場してきました。これらをまとめて「プログレ5大バンド」などという言い方があるわけですが、その5大バンドの最後の一つとなるのが、エマソン、レイク&パーマーです。
というわけで、今回はこのELPについて書こうと思います。

エマソン、レイク&パーマーは、キース・エマソン、グレッグ・レイク、カール・パーマーの3人によって結成されたバンドです。

3人の名前をそのままつなげてグループ名としているわけですが、これはベック、ボガート&アピスのような感じで、メンバー各自が名の知れた人たちだからこその命名法でしょう。
グレッグ・レイクは、一時キング・クリムゾンに在籍していた人で、クリムゾン・キングの宮殿の使徒といえる人物。
キース・エマソンとカール・パーマーも、結成時点で名を知られていて、鳴り物入りで登場した感があります。
ゆえに、ファーストアルバムからチャートアクションは好調で、二枚目のアルバムでチャート一位を獲得し、以降のアルバムも軒並みトップ3にランクインする成績を継続していました。


さて、ここで「今年で50周年を迎える名盤」という流れを踏襲します。

1973年に発表されたアルバム『恐怖の頭脳改革』です。

 
自身で設立した「マンティコア・レコード」からリリースされた最初のアルバムで、代表作の一つに数えてよいでしょう。

エイリアンシリーズで知られるギーガーがアルバムアートワークを担当。アルバムタイトルは、ドクター・ジョンの曲名からとられたものであり、卑猥な意味をもつスラングでもある……音楽とは直接関係ないこういった部分でも、プログレの味を出しています。

一曲目に収録されている「聖地エルサレム」は、ウィリアム・ブレイクの詩に曲をつけた合唱曲がもとになっています。

Jerusalem (2014 Stereo Mix) (First Mix)

イギリスではかなりポピュラーな歌になっているようですが、もとがブレイクの詩であり、しかもその詩はジョン・ミルトンを描いた預言詩の序詞……というのは、やはりプログレの聖歌にふさわしいといえるでしょう。

ここにいたるまでのELPの軌跡を振り返ってみれば、そのことはよくわかります。


セルフタイトルのファーストアルバム。
一曲目の「未開人」は、バルトークの曲をもとにしています。クラシック要素というのは、プログレの重要な側面の一つです。
「ナイフ・エッジ」は、ヤナーチェクとバッハの曲を混淆した作品でした。

Knife-Edge (2012 - Remaster)


セカンドアルバム、『タルカス』。
これも、名盤と評されている作品で、ELPの代表作を一つ挙げろといわれたら、これを答える人も多いでしょう。
このアルバムのコンセプトについて、グレッグ・レイクは、「総合的逆進化論、つまり〈破壊〉ってことなんだ」と語っています。こういう何をいってるのかよくわからない感じが、いかにもプログレらしくてよいです(けなしているわけではありません)。
A面丸ごと使って一つの組曲「タルカス」となっています。

Tarkus (i. Eruption / ii. Stones of Years / iii. Iconoclast / iv. Mass / v. Manticore / vi....

プログレではおなじみの趣向。この組曲の小題には、「予言者」「ミサ聖祭」といった言葉が並びます。そして「アイコナクラスト」というのも。これは「偶像破壊者」という意味で、かつてビザンツ帝国で行なわれた偶像破壊運動をモチーフにしたものでしょう。こういった雰囲気が大事なのです。

クラシックを扱うとなれば、数百年単位の歴史がからんできます。
さらにビザンツ帝国の云々という話になれば、数千年にわたる世界史を俯瞰することになるという、壮大なスケール感が出てくるのです。先述した「聖地エルサレム」がプログレの聖歌にふさわしいというのは、そういうことです。


そして、ライブアルバム『展覧会の絵』
ここでは、ムソルグスキーの「展覧会の絵」(というタイトルの曲)をとりあげています。
「展覧会の絵」をそのままやっているわけではなく、自身の曲もまじえつつという感じです。
この曲の最後にあたる「キエフの大門」の動画を貼っておきましょう。

The Great Gates of Kiev (Live At Newcastle City Hall, 1971)

今では「キーウ」と呼ばれるようになったキエフ……アルバムではこの後「モスクワの音楽」といってチャイコフスキーの「くるみ割り人形」をやってます。それでまたウクライナ戦争を連想したりするんですが、こういうふうになるのは決して偶然ではありません。数百年、数千年の世界史を踏まえていえるからこそ、常にどこかで現代を反映することにもなるのです。


グレッグ・レイクは、ELPについて「自分達の音楽はまじめさと娯楽のバランスの上に立っている」というようなことをいったそうですが、これはまさにプログレというジャンルの核心をとらえているんじゃないでしょうか。
もちろん娯楽としての音楽はあっていいんですが、プログレであるからには、そこに留まらない何かがあってしかるべきではないかと。
前にキング・クリムゾンの記事で書きましたが、プログレは単にエンタメではない何かをもっているべきなのです。だから、ロバート・フリップの夫婦漫才に憤慨する人がいるわけです。

「まじめさと娯楽のバランス」が絶妙であり、リスナーにもそれが広く受け入れられていたのが1970年代前半であり、プログレにとって幸福な時代だったということでしょう。
しかし、そのバランスはやがて崩れていきます。「娯楽」のほうに傾いていくのです。この変化が、ジェネシスにおいてはピーター・ガブリエルの脱退、イエスにおいてはバンドの分裂というかたちで表れたのではないか……そして、ELPもまた、この時代の流れと無縁ではいられませんでした。
あるいは、プログレの栄光と挫折をもっとも象徴しているのは、ELPかもしれません。

その表出が、『ラヴ・ビーチ』です。

Love Beach (2017 Remaster)

このジャケットで、「ラヴ・ビーチ」というタイトル……突然ビーチボーイズみたいになってしまうのです。
ビーチボーイズが『ペットサウンズ』で見せた変化と逆のことでしょう。方向としては逆でも、リスナーにはやはり当惑をもたらしました。そして、このアルバムを最後にELPは解散するのです。

チャートの成績でいうと、『ラヴ・ビーチ』は最高48位。
決して悪くはありませんが、『恐怖の頭脳改革』まではベスト5に入り続けていたことを思えば、ぱっとしない成績です。
チャートアクションと作品の良しあしとは必ずしも相関しないと私は思ってますが、この作品に関しては、やはり時代の流れに変におもねろうとして失敗してしまったということなんじゃないでしょうか。
ちなみに、その前作『四部作』で、チャートの最高位は20位。このへんでもう斜陽感はあったわけですが、そこで思いきってイメチェンしてみたら裏目に出て、ますます悪化してしまったというおなじみのパターンでしょう。


その後再結成もありましたが、再結成して発表したアルバムは、特に注目されることもなく、あまり評価されてもいないようです。
これもやはりビーチボーイズと同様で、時代の変化にアジャストしきれず、中途半端な方針転換をしてしまったことが、致命的にイメージを悪化させてしまった部分があるでしょう。ひとたびそういう状態になると、もうなにをやってもうまくいかないという……

時代の変化にアジャストするという点では、ELP解散後にカール・パーマーが参加したエイジアがうまくいった例といえるでしょう。
このバンドの名前は最近の記事で何度か出てきました。80年代風のサウンドにぐっと寄せていくことで、エイジアは成功したのです。そしてここには、グレッグ・レイクも一時的に参加しました。


ここで、『恐怖の頭脳改革』の話に戻りましょう。

ELPのその後もふくめて振り返れば、『恐怖の頭脳改革』の時点ですでに低迷の兆候は見えていたのかもしれません。

初期のELPは結構なペースでアルバムを発表していましたが、『恐怖の頭脳改革』はそれまでに比べればかなり間隔をおいてリリースされました。その背景には、キース・エマソンが音楽的な行き詰まりを感じていたことがあるともいわれます。
そういったことも踏まえると、『恐怖の頭脳改革』によって、エマソンはもうある種の枯渇を感じていたのではないかとも思えます。プログレの方向性を掘り進めていこうにも、もうそれができないという……
『恐怖の頭脳改革』はELP全盛期の最後のアルバムともいわれますが、このアルバムを期にELPが低迷期に入り、イメチェンに失敗してバンド自体が消滅してしまうという流れは、そのままプログレというジャンルの盛衰に重ねあわせられるのかもしれません。



ロックの日 プログレ特集

2023-06-09 22:44:59 | 日記

今日6月9日は、ロックの日。

ということで、毎年恒例のロック動画祭りをやっていきたいと思います。

最近はプログレ系の話をしているので、今回のテーマはプログレ。
意外なメンツの組み合わせや、意外なカバーも登場します。


一発目はこれ。
キング・クリムゾンの記事で貼ろうと思って忘れていた、デヴィッド・ボウイのカバーHeroes です。
今年になってこのブログではこの歌を複数の違うバージョンで紹介してきましたが、キング・クリムゾンもやってました。

Heroes (King Crimson London 3rd July 2000)

このときは、エイドリアン・ブリューがギターボーカル。お得意の効果音風ギターを随所にはさんできます。
後方でクールにギターを弾いているのはロバート・フリップ。この姿からは、夫婦漫才など想像もできません。


Genesis の記事で紹介した「眩惑のブロードウェイ」。
ジェネシス脱退後、ピーター・ガブリエルがソロでやっている動画がありました。
ここではなんと、トニー・レヴィンがベースを弾いています。

Peter Gabriel - The Lamb Lies Down On Broadway (Rockpalast TV 1978)



ピンクフロイド「戦争の犬たち」……なんですが、ほぼイントロ部分のみの動画。
よくわからないんですが、ライブでスクリーンに上映した動画ということなんでしょうか。

Pink Floyd - Dogs Of War (Concert Screen Film 1987)

この曲は、ロジャー・ウォーターズが脱退し、ギルモア中心の体制になって最初のアルバム『鬱』に収録されています。
ボブ・ディランの「戦争の親玉」のように、戦争の背後で金を儲ける者たちを告発する歌。やはり、ロジャー・ウォーターズだったらこんなふうにはならないだろうと思います。
実際、ウクライナ戦争においては、ギルモアがいちはやくウクライナへの連帯を表明してロシアを非難したのに対し、ロジャー・ウォーターズは逆にロシアを擁護しているという……プログレ気質も、変な方向にこじらせるとよくないという話です。



キング・クリムゾン一家ジョン・ウェットンとビル・ブルフォードを中心に結成されたUK。
プログレを発展継承しようという意図が感じられるグループです。そういう意味では、UKという大上段に構えたバンド名も、その気負いを表しているのかもしれません。
ブルフォード在籍時の貴重な映像が、たまたま今日公開されていました。(ひょっとすると期間限定かもしれませんが)

U.K. - In The Dead Of Night (Official Video)  

鳴り物入りで登場し、実際に活躍もしたバンドでしょう。
しかし、同じくクリムゾン一家のイアン・マクドナルドやイエス一家のリック・ウェイクマンといった大物の参加を画策したものの実現せず、ブルフォードもファーストアルバムのみで脱退……と、意気込みが空回りしてしまった観は否めません。


似たようなプログレ系スーパーバンドとして、エイジアがあります。
キング・クリムゾン、イエス、ELPのメンバーが結集したこのバンドは、商業的にも大成功しました。
代表曲 Heat of the Moment 、東京公演の動画です。

Asia - Heat Of The Moment (Live In Tokyo)

音楽的には、プログレからだいぶ離れた印象もあります。
それゆえの商業的成功ということもいえるんじゃないでしょうか。まあ、そもそもプログレなんぞというのは、知る人ぞ知る、辺境的音楽というのが本来あるべき姿なのかもしれません。


東京公演といえば……
先日プログレギタリスト列伝でも紹介したスティーヴ・ハケットの東京公演。
そこでは、ボブ・ディランの「見張り塔からずっと」なんかもやってました。

All Along the Watchtower (New Studio Track)

ギタリスト列伝でも紹介したとおり、ジョン・ウェットンとイアン・マクドナルドというクリムゾン一家の大物が参加しています。


さらに、大物たちの共演を続けましょう。
単体のバンドではありませんが、プログレ系の大物を集めたProg Collective という プロジェクトがあります。
その第四弾となる最新アルバムから一曲。
サイモン&ガーファンクルのカバー「サウンド・オブ・サイレンス」です。
現在イエスでボーカルをつとめているジョン・デイヴィソンと、現イエスのベース、ビリー・シャーウッドが参加しています。

Sounds of Silence

このプロジェクト、参加メンバーや取り上げている曲は、さすがにプログレといえないだろうというものも多く含まれています。この曲もその一つでしょう。まあ、かつてのイエスでもサイモン&ガーファンクルの「アメリカ」をカバーしたりはしてましたが……


プログレの大物の共演ということでいえば、大昔にも例があります。
キング・クリムゾンがイエスのジョン・アンダーソンをゲストボーカルに迎えた「リザード」です。

King Crimson - Lizard (Prince Rupert Awakes / Bolero / The Battle Of Glass Tears / Big Top)

賛否の別れる作品ですが、私はこういう感じは好きですね。
後のレディオヘッドなんかにもかなり影響を与えているんじゃないでしょうか。


ここから、直近の記事で名前が出てきたリック・ウェイクマンにフォーカスしていきます。

リック・ウェイクマンは、デヴィッド・ボウイの「スペース・オディティ」をカバーしています。
ソロでもやってますが、ギターボーカルを迎えた動画がありました。

Chris Hadfield & Rick Wakeman Space Oddity

この動画でギターを弾きながら歌っているクリス・ハドフィールドという人は、宇宙飛行士だそうです。
カナダ人初の宇宙飛行士で、国際宇宙ステーション(ISS)の船長をつとめ、ISSでこの歌を歌って中継するなんてことをしていたんだとか。


上の動画は、Starmus というフェスティバルのものです。
科学をもっと身近に感じてもらおう、というようなイベントで、その一環として大物ミュージシャンを呼んできてライブということをよくやっており、リック・ウェイクマンはここで常連になっているようです。
プログレという音楽は、そういうSF的なところとも親和性が高いのでしょう。
そのStarmus のチャンネルに、ブライアン・メイをゲストとして迎えた動画がありました。
QUEENをプログレとはいわないでしょうが、ブライアン・メイは天文学の博士号も持つという人なので、このイベントにぴったりの人材といえます。

Rick Wakeman & The English Rock Ensemble - Live at Starmus, special guest Brian May (Full Concert)

2時間以上のステージですが、ハイライトは最後の3曲でしょう。
クイーンの「39」から、ウェイクマンのソロ曲、そして最後は、イエスの Starship Trooper でしめくくります。


ついでなので、Starmus からもう一曲。ちょっとプログレというところからははずれますが……
車いすの天才科学者スティーヴン・ホーキンスが死去した際、追悼ということで、Who Wants to Live Forever をやっていました。

Who wants to Live Forever - A tribute to Stephen Hawking, Starmus V Concert in Switzerland

リック・ウェイクマンは、ここでも鍵盤を弾いています。クイーンでブライアン・メイが作った曲なので当然ブライアンもいるわけですが、なぜかここではギターを弾かず歌のみの参加。その代わりといってはなんですが、スティーヴ・ヴァイがギターを弾いています。なかなかレアで豪華な組み合わせではないでしょうか。


最後に、RUSH。
SFとか宇宙の神秘といった方向性の曲として、Cygnus X-1というのがあります。

Rush - Cygnus X-1 (Live In London, 1980 / Audio)

Cygnus X-1とは、はくちょう座Xー1という天体のこと。
ずいぶん前から、ここにブラックホールがあるのではないかといわれてきました。その有無をめぐって、スティーヴン・ホーキング博士が科学者仲間と賭けをしたという有名な逸話があります。

科学とロックは実は似ている、というのが私の持論です。

当初は権威の側からばかげていると批判されたものが、やがて世界を変える……科学の世界では、そういうことがよく起こります。ブラックホールもその一つでしょう。もっと古い典型例が地動説であり、ビートルズの Fool on the Hill はそういう歌だということも以前書きました。プログレという音楽は、ロックの中のそういう要素を強調しているところもあるんじゃないでしょうか。辺境から未来を先取りするイントロン……やはり、ロックンロールにはそういう役割を担ってほしいのです。



ブラックサバスの名曲を振り返る

2023-06-07 23:04:16 | 過去記事

ブラック・サバス「血まみれの安息日」(BLACK SABBATH - "Sabbath Bloody Sabbath" )
今回は、昨日に引き続き音楽記事です。音楽カテゴリーでは、アイアン・メイデン、ジューダス・プリーストと、UK版BIG4のバンドについて書てきました。ことのついでなので、この英国......



過去記事です。

ブラックサバスについて書いています。

最近「今年で50周年を迎える名盤」というシリーズの記事をやっていますが、そのラインナップにはサバスの『血まみれの安息日』も含まれるべきでしょう。

さらにこのアルバムは、先日の記事に登場したイエスとも関係があります。

意外にも思えますが、ブラックサバスとイエスは結成当初から友好関係にあったそうで、アルバム『血まみれの安息日』には、イエスの鍵盤奏者であるリック・ウェイクマンが参加していました。

呼び出されてスタジオに入ってみると、サバスのメンバーは全員酔いつぶれていて、何が何だかよくわからない状態でレコーディングに臨んだということですが……そんななかでウェイクマンが参加した曲 Sabbra Cadabra です。


Sabbra Cadabra (2009 - Remaster)


さらに息子の代にもオジーの呪いがふりかかり……もとい、オジーとの縁があります。
リック・ウェイクマンの息子アダム・ウェイクマンという人がいますが、この人もサバスとかかわりがあります。
ブラックサバスのファイナルツアーにおいて、鍵盤、リズムギターとしてサポートをつとめているのです。
このツアーの模様が映像作品になってます。
下にそのトレーラー動画を貼っておきましょう。最後にメンバー全員であいさつするところで、アダム・ウェイクマンの姿を見ることができます。

Black Sabbath - The End (Trailer)



ついでなので、例によってサバスの曲のカバーをいくつか、思いつくまま気の向くままに……




すっかりおなじみ、フリップ夫妻の夫婦漫才。
もちろんというか、サバスもとりあげています。
何曲かやっているようですが、その中から Children of the Grave。


Toyah & Robert’s Halloween Sunday Lunch - Children Of The Grave



オジー・オズボーンのトリビュートアルバム bat head soup から Paranoid。
モトリー・クルーのヴィンス・ニールがボーカルをつとめ、ドッケンのジョージ・リンチがギターを弾いています。

Paranoid



スラッシュメタルの雄メタリカ。
ロックンロール栄誉の殿堂で、本人たちを前にして「アイアン・マン」のカバーを披露しました。


Metallica: Iron Man (Live) [Rock & Roll Hall of Fame Induction of Black Sabbath]



スラッシュメタル四天王からもう一組。
ANTHRAXによるカバー「血の安息日」です。


Sabbath Bloody Sabbath



パンテラによる Planet Caravan。
パンテラは、ヘヴィ・メタルの正統な継承者といえるバンドだったのではないでしょうか。

Pantera - Planet Caravan (Official Music Video)



最後に、ブラックサバスの話なので、オジーだけではなくディオ時代の曲も。
最近ポール・ギルバートがディオのトリビュートアルバムを出しています。
その中から、サバスの Heaven and Hell。


Paul Gilbert - Heaven And Hell (The Dio Album)





イエス「儀式」(Yes, Ritual)

2023-06-04 20:20:21 | 音楽批評


今回は、音楽記事です。

最近はプログレ系の話が続いてきましたが……その流れを受けて、今回のテーマはYESです。

また「今年で50周年を迎える名盤」というのも引き継ぎ……紹介するのは、1973年にリリースされた『海洋地形学の物語』。

 
先日の記事でちょっと言及しましたが、イエスというバンドも非常に歴が長く、その過程でかなりややこしいメンバーの変遷がありました。
関連する人物は多く、キング・クリムゾンと同様、イエス一家ともいうべきアーティスト群を形成しています。クリムゾン一家が王宮の騎士とすれば、イエス一家は聖家族といったところでしょうか。(※バンド名のYesはイエス・キリストのイエス=Jesusとはまったく関係ありません。念のため)

その軌跡は、ジェネシスと重なるところが相当にあります。
ジェネシス(創世記)とイエスの聖家族……これは、プログレの聖典といえるかもしれません。

その聖典が一つのハイライトを迎えるのが、50年前の1973年ということになります。
ピンクフロイドの『狂気』が大ヒットし、ジェネシスが『月影の騎士』でブレイク。その同じ年に、イエスは『海洋地形学の物語』で初のチャート一位を獲得しました。
その前々作『こわれもの』と前作『危機』で存在感を増していき……後世ではそちらの二作のほうが高く評価されていると思いますが、意外なことに、チャートで初めてトップにのぼりつめたのは『海洋地形学の物語』なのです。
ジェネシス、ピンクフロイド、イエスという3バンドがそれぞれ過去最高のチャートアクションを記録したというのは、やはりこの1973年という時代をなにか象徴しているのではないでしょうか。
ロックをめぐる環境の変化、あるいは、さらに広く社会全体の変化もその背景にあるのかもしれません。

そして、イエスもまたジェネシス、ピンクフロイドと似た軌跡をたどっていきます。
どちらかといえば、ジェネシスにより近いでしょうか。
80年代ふうサウンドへの変化……ジェネシスの場合と同様、商業的な面ではその頃が全盛期ということになるわけですが、やはりこの変化は軋轢を生みます。
イエスの場合はそれが極端な形に出て、バンド自体が分裂状態となってしまいました。
いうなれば、大シスマ……かつてローマカトリックが分裂して二人の法皇が対立したように、聖家族が分裂したのです。
厳密にいえば、メンバーが一人また一人と抜けていき、結果としてほぼ総入れ替え状態になったところで、イエスのかつてのメンバーたちが結集して別バンドを作ったということですが……そうしてできたのが、アンダーソン、ブルフォード、ウェイクマン、ハウ(ABWH)です。イエスのほうに留まったベースのクリス・スクワイアがいないことをのぞけば、ほぼ完全にイエスの復活といえます。ただ、スクワイアが残留するイエスが存在するために“イエス”という名前を使うことができず、単に四人の名前をくっつけたグループ名にせざるをえませんでした。
ベースのスクワイアがいないわけですが、そこでベースを弾いたのが、キング・クリムゾン一家のトニー・レヴィンであることは、ちょっと前にも書いたとおり。その顔ぶれから考えて、プログレという要素を継承したのはABWHのほうだと世間的にも認識されているでしょう。
参考までに、そのABWHの動画を載せておきましょう。
曲は、『こわれもの』収録の Heart of the Sunrise です。

ABWH - Heart Of The Sunrise (Shoreline Amphitheatre, Mountain View, CA 1989)



ここで、『海洋地形学の物語』について。

同年に発表されたキング・クリムゾン『太陽と戦慄』は、イエスから移籍してきたビル・ブルフォードを迎えた最初のアルバム。ということで、イエスにとっては、ブルフォード脱退後、アラン・ホワイトを迎えて制作した最初のアルバムが『海洋地形学の物語』ということになります。

「1973年発表の名盤」ということでやってきわけですが……これまでに紹介してきた諸作品と比較すれば、『海洋地形学の物語』は、名盤とするのには広い賛同を得られないかもしれません。
チャートで一位にこそなっていますが、イエスの歴史全体から考えれば、はっきりいってあまり存在感のないアルバムということになるでしょう。先述したように、その前の二作のほうが名盤という評価が確立しています。

大作主義が極致にいたり、二枚組アルバムの各面が一曲という構成。
レコードの一面丸ごと使って一曲というのはピンクフロイドなんかもよくやっていましたが、二枚組アルバムがすべてそれで二枚組なのに4曲しかないという……これを斬新ととるか、やりすぎととるか、というところでしょう。
そのへんがちょっとどうなのかというのはバンド内でもあったようで、このアルバムはリック・ウェイクマンが脱退するきっかけになりました。
そういう部分からしても、ある種、バンドの転換点であまりうまくいかなかった作品というような印象も受けます。それがチャートで一位になったというのは、プログレというジャンルが勃興しつつあった時期の追い風効果があったためではないかと。

あと、日本盤に関していうと、『海洋地形学の物語』という邦題はいささか原題からはずれてしまっているように思えます。英語でTales from Topographic Oceans というのは、もうちょっとかっこいいというか、神秘的な感じもする言葉の並びなのではないでしょうか。

一応、参考として、アルバムの最後の曲となる「儀式」の動画を。
アルバムタイトルの邦題が微妙だといいましたが、かと思えばRitual で「儀式」という直訳……日本盤を作った人たちのセンスはどうなっているのかと。

Yes - Ritual (nous Sommes Du Soleil) - Symphonic Live

このパフォーマンスは2001年に行われたもので、オーケストラとの共演という趣向。
ドラムはアラン・ホワイトでリック・ウェイクマンは不在ですが、ジョン・アンダーソンが歌い、ギターはスティーヴ・ハウ、ベースはクリス・スクワイアという布陣です。この三人がそろっているだけでも、いわば三位一体の奇蹟、かなりすごいことなんじゃないでしょうか。


ここで、イエスの現在について。

おりしも、彼らは先月ニューアルバムを発表しています。

 

Mirror to the Sky。
新譜発売を受けて、スターレス高嶋さんがハイテンションになっていました。

このブログでは古いアーティストを扱うことが多く、新譜を発表しましたというふうに紹介することはあまりないんですが……これだけ歴の長いレジェンドバンドでそういう話があるというのは、それだけでもすごいことです。

せっかくなので、収録曲の一つ Circles of Time の動画を。

YES - Circles of Time (Official Video)

ドラムのアラン・ホワイトが昨年亡くなったわけですが、以前からサポートドラマーをつとめていたジェイ・シェレンが正式に後任として加入しました。
この交代を抜きにしても、現在のラインナップは結成当初とはまったく違っています。
そもそもアラン・ホワイトも中途加入ですが、最古参のスティーヴ・ハウも何気に初期メンではなく、もはやオリジナルメンバーは一人もいないという状態……まあ、だいぶ前からそういう状態になっており、何十年もやっているバンドはそんなふうになることも少なくないわけですが、さすがに初期メンが一人もいないとなると、そのバンドの看板を掲げていいのかという疑問は出てきます。もはや野球のチームみたいな感覚でしょうか。所属選手は時代によって違っていても、阪神タイガースは阪神タイガースというような……
あるいは、名門レストランみたいなものかもしれません。シェフをはじめとしてすべての料理人が入れ替わっても同じ看板を掲げられるか。味付けやメニューが変っても、そこに貫かれている何かがあるのか……それは、最終的にはリスナーの判断にゆだねられるということでしょう。


最後に、イエスが2017年、ロックンロール栄誉の殿堂入りを果たした際の動画を。
曲は、イエス最大のヒット Owner of a Lonley Heart です。

Yes perform "Owner of a Lonely Heart" at the 2017 Rock & Roll Hall of Fame Induction Ceremony

このセレモニーでRoundaboutをやっている動画を以前紹介しました。
その時点でクリス・スクワイアは死去しており、Roundabout ではRushのゲディ・リーが代役としてベースを弾いていましたが、Owner of a Lonely Heart では、なんとスティーヴ・ハウがベースを弾いています。いろいろあったけれど、そのいろいろを超えて亡き友に捧げるベース……胸熱です。
いっぽう、ギターはトレヴァー・ラビン。この人もイエス一家のギタリストです。最後のほうはジョン・アンダーソン、リック・ウェイクマンと3人で固まる感じになってますが、この3人は、かつてのABWHのような感じで普段から一緒にやっています。そうすると、また一種の分裂状態、いわば小シスマというふうにもとれるわけですが……そうした状況にあって、聖家族が一堂に会している奇蹟がここにあるということです。これは、聖餐の儀式、最後の晩餐とか、そういう貴重な動画なんじゃないでしょうか。



ギタリスト列伝 プログレ編

2023-06-01 21:42:50 | 日記


今日6月1日は、「ソロギターの日」。

ということで、今年もギタリスト列伝というのをやっていきたいと思います。

最近はプログレ系のバンドについて書いているので、今回のテーマはプログレ。
プログレ系統のギタリストたちを、動画とともに紹介していきます。


エイドリアン・ブリュー
キング・クリムゾンに在籍したギタリストの一人。
直近の記事でも書いたように、効果音的なギタープレイでよく知られている。
それが発揮された曲としてよく名があがるのが、Elephant Talk。
ここでは、ギターを使って像の鳴き声を再現している。

King Crimson - Elephant Talk


ロバート・フリップ
キング・クリムゾンの主宰者というべき存在。
プログレの王宮を統べる王といっても過言ではない。
その王者が妻のトーヤとともに夫婦漫才をやっているというのも、直近の記事で紹介したとおり。
そのなかから、Radiohead の Creep をカバーしている動画を。
例によって衣装がアレで、外部サイトでは視聴できなくなっているが……

Toyah & Robert's Sunday Lunch - Creep

この切り取り方だと、「ロバート・フリップがレディオヘッドのCreepをカバーしている」動画としてはいささか微妙な気も……


スティーヴ・ハケット
Genesisのギター。
ただし、中途脱退組。
やはり、ピーター・ガブリエル脱退後ジェネシスというバンドが変化していく方向性に違和感があったのだろうか……
曲は、アルバム『月影の騎士』の収録曲 Firth of Fifth。
ハケットのギターソロが輝くこの曲を、彼は自らのチャンネルで独演してみせている。

Steve Hackett Guitar Firth Of Fith


スティーヴ・ハウ
YESのギタリストとして知られているが、駆け出し時代にはチャック・ベリーのバックでギターを弾いたこともあるとか。
その際チャック・ベリーから「お前は必要ない」と痛烈にダメ出しを受けたというエピソードも。ただし、その後楽屋を訪れて持参したギターを試奏してもらい、今でもそのギターを大切に保管しているという。

イエスもメンバー構成という点ではだいぶややこしい歴史をたどってきたバンドだが、そちらでの活動の傍ら、ハウはプログレ系のスーパーバンドであるASIAにも参加。
キング・クリムゾンのジョン・ウェットン、エマソン、レイク&パーマーのカール・パーマー、そして、イエスからスティーヴ・ハウとジェフ・ダウンズが参加するバンド。
その再結成東京公演での動画を。

Asia - Heat Of The Moment (Live In Tokyo)

ロックミュージシャンは60、70になっても若作りしている人が多い印象があるが、スティーヴ・ハウという人はそういうところがなく、いかにも好々爺という風貌になっている。


ジョン・ペトルーシ
ドリームシアターのギター。超絶技巧の持ち主が集うドリームシアターにおける、不動のギタリスト。
プログレをメタルと融合させて“プログレッシブメタル”を作り上げたといわれるドリームシアター。そこで求められる、プログレッシブでかつメタルなギターは他の追随を許さない。
そのペトルーシが、近年ソロアルバムを発表している。そのタイトル曲がこちら。

John Petrucci - Terminal Velocity (Official Video)

このアルバムには、かつてドリームシアターでドラムを叩いていたマイク・ポートノイが参加。同バンドのメンバーと共同作業するのは、脱退後これが初とのこと。


アレックス・ライフソン
RUSHのギター。“ハードプログレ”とも呼ばれるラッシュ。一般的な知名度はあまり高くないかも知れないが、その音楽的技術と世界観は圧倒的な存在感を持ち、後のミュージシャンに大きな影響を与えた。
ライフソンのギターは、先述のペトルーシに大きな影響を与えたといわれるが、プログレの枠をこえて、レイジ・アゲンスト・ザ・マシーンなどもRUSHに影響を受けているという。
RUSHはすでに事実上解散しており、アレックス・ライフソンは現在Envy of None というユニットで活動している。

Spy House


デイヴ・ギルモア
Pink Floydのギター。
そもそもはシド・バレットが心身ともに不安定な状態だったために、サポートする形でピンクフロイドに参加したが、シドが脱退し、ロジャー・ウォーターズもバンドを去ると、ギルモアがピンクフロイドを背負うことになった。
かつてのバンドメイトであるロジャー・ウォーターズとは、非常に仲が悪い。一時的にロジャー復帰があったものの、仲が悪いのは相変わらずらしい。

そんなギルモアが、昨年ドノヴァンとコラボした曲、Rock Me。

Donovan, David Gilmour - Rock Me

ドノヴァンは、サイケデリックフォークというようなジャンルの人で、ビートルズと共同作業したこともあるというぐらい昔からやっている。ピンクフロイドもその頃から活動していて、やはりサイケデリックフォーク的なところが出発点といえる。このコラボには、長年戦場に立ち続けてきた戦友というような感じがある。



ここからは、猛者たちの共演を。

先述したASIAによるキング・クリムゾンのカバー「クリムゾン・キングの宮殿」。東京でのライブ音源で。

In the Court of the Crimson King (Live in Tokyo)


続いて、スティーヴ・ハケット。
やはり東京で、キング・クリムゾンのカバー、I Talk to the Wind。
昨年死去したイアン・マクドナルドが参加。また、クリムゾン一家としてジョン・ウェットンも。

I Talk to the Wind (Live)


最後に、RUSHのメンバーがフーファイターズとともに2112の冒頭部分を演奏する動画。

Rush, members of Foo Fighters perform "2112: Overture" at the 2013 Hall of Fame Induction Ceremony

ここで最初にドラムを叩いているテイラー・ホーキンスが昨年死去したわけだが、そのホーキンスの追悼コンサートでは、ゲディ・リーとアレックス・ライフソンにデイヴ・グロール(上の動画では最初にギターを弾いている)がドラムを叩いてこの曲をやるという泣かせる趣向も。

Rush & Dave Grohl - 2112 Part 1 Overture & Working Man - Taylor Hawkins Tribute Concert (09/03/22)  

続けて演奏したやはりRUSHのWorking Man では、鬼気迫るギターソロを聴かせてくれる。