ここ最近、このブログでは、モスクワピースフェス関連の話が何度か続いています。
そこで、ゴーリキー・パークという旧ソ連のバンドの名前が出てきました。
ストーンズ記念日の記事では、彼らは今何を思っているのかというようなことを書きましたが……それで、ふと思い立って調べてみると、なかなか興味深い事実がいろいろ出てきました。今回は、そのへんのことを書いてみようと思います。
まず、ゴーリキー・パークの現在についてですが、彼らはなんと、昨年活動を再開しています。
ただ、メンバーチェンジがあり、ロシア人とアメリカ人の混合バンドになっているということです。
そこでベースを弾いているのが、マルコ・メンドーサという人なんですが、この人は、アメリカ人です。
セッションミュージシャンをやりつついろんなバンドにワンポイントリリーフ的に在籍したりする感じの人のようで、たとえばホワイトスネイクでベースを弾いていたことがあるとか……
そして、2021年ジャーニーのライブでベースを弾いている動画がありました。ジャーニーも、ときどき内紛みたいなことを起してメンバーチェンジということがあるバンドですが、2020年ごろ地味にベースの件でもそういうことがあって、もめてる最中だったのでサポートベーシストに入ってもらったみたいな感じでしょうか。
参考までに、その姿を確認できる動画を。
Journey - "Any Way You Want It" - Live Video from Lollapalooza 2021 | @journey
で、そこでベースを弾いていたマルコ・メンドーサがゴーリキー・パークのベースになってるということなんです。
その新生ゴーリキー・パークの初ライブという動画があります。
Группа ПАРК ГОРЬКОГО / GORKY PARK (6 песен). Фестиваль Российского Рока SNC-35. Москва, 28/08/2022
思い出していただきたいのは、これが去年の話だということです。
去年の8月なので、ウクライナ戦争の真っ最中。そこで、ロシア人とアメリカ人の混合バンドがモスクワでライブをやることなどできるのか? と思うんですが、やっているのです。
ドラムは本来のメンバーではない人がサポートでやっているようですが、ベースはマルコ・メンドーサが弾いています。
一年前にジャーニーでベースを弾いていた人が、戦時中のロシアでライブをやってるというのがにわかに信じがたいのですが……しかし、これはやはり、マルコ・メンドーサなのです。左肩に「愛」という漢字のタトゥーが入っていて、それが目印です。
昨年の8月となると、アメリカ人がロシアに入国するのは何かいろいろ面倒がありそうに思われます。しかも、ミュージシャンという特殊な形態とはいえビジネスとしてとなれば……
私が推測するに、おそらくマルコ・メンドーサのポジションはサポートでやるわけにはいかなかったということがあるものと思われます。
この動画をみるかぎり、このバンドでのマルコは中心的な存在のようにも見えます。曲作りにも参加していて、リードボーカルをとることも。なので、一時的なサポートメンバーで補うことができず、なんとしてでも本人が入国する必要があったのではないかと。
そのマルコが曲作りに加わり、リードボーカルをとっている曲にChurch of Rock'n'Roll というのがありました。
俺は毎日教会にいくんだ
ロックンロールの教会にね
という歌。
おふくろはいつもいう それは悪魔の歌だと
頭も魂も失って 脳みそもいかれちまうと
おやじはいう そいつは音楽じゃなくてただのノイズだと
だけど俺はいつだって、そいつを選ぶのさ
エルヴィスにチャック・ベリー、ビートルズにローリングストーンズ
オービソンにヘンドリクス、デルタ・ブルースにスティーヴィー・レイ・ヴォーン
やつらが教会を建てた ロックンロールの教会を
俺のいうことをよく聞いてくれよ
俺はいつだってルールを破る 自分のやり方でやるんだ
なかなかオールドロックンロールファンの心をくすぐる歌詞じゃないでしょうか。
もう一曲、このステージで注目されるのは、Peace in Our Timeという曲。
これはファーストアルバムの収録曲であり、ボン・ジョヴィのジョン・ボン・ジョヴィ、リッチー・サンボラのコンビがゴーリキー・パークに提供した曲です。
そのオーディオ動画を以下に。
先述したボン・ジョヴィの二人がバックコーラスで参加し、サンボラはギターも弾いているとのことです。
Peace in Our Time
こんな歌詞です。
扉を叩くんだ
誰かいるか? ちゃんとわかってるやつが
それともお前は、空が落ちてくるのを待ってるだけの
ただの悲劇の英雄気取りなのか?
俺は小洒落た絵を描くためにここいるんじゃない
目を開けてみろよ
平和が必要なんだ ささやかな平和が
俺たちは生き抜かなければ
俺たちの時代に平和を 俺たちの心に平和を
誰もが十字架を背負ってるのさ
教えてくれ 俺たちはここからどこへ行くのか
俺の心には平和が必要なんだ
俺たちの時代には平和が必要なんだ
聞きようによっては、ロシア国民をアジっているようにも聞こえます。
いまのロシアだったら、この歌をやるのも相当な覚悟が必要だったんじゃないでしょうか。
さらにもう一つの注目ポイントとして、途中、バンド創設時のボーカルであるニコライ・ノスコフもゲスト出演しています。
この人が星条旗をあしらった衣装で登場しているのも、意味深です。
ゴーリキー・パークの再結成、そしてこのライブは、ウクライナ戦争に異を唱えるべくいまのロシアでやれるぎりぎりのことをやったということなんじゃないか……そんなふうにも思えます。
前回、ウクライナ戦争のさなかで披露されたスコーピオンズの
Wind of Change
を紹介しましたが、かつてモスクワにおける平和の祭典でスコーピオンズと共演したゴーリキー・パークがそれに呼応しているかのようです。復活した鉄のカーテンの向こう側で……
で、タイトルのモスクワ・コーリングなんですが、これはゴーリキー・パークの曲です。
去年このブログで紹介したウクライナのバンドの「キーウ・コーリング」というのがありました。あれはクラッシュのカバーでしたが、「モスクワ・コーリング」はゴーリキー・パークのオリジナルです。もちろん、そのタイトルはクラッシュの「ロンドン・コーリング」を意識したものでしょう。
その動画。
GORKY PARK ` MOSCOW CALLING | Valmiera, Latvia, 1998
今回の再結成以前にも、ゴーリキー・パークは一時的な再結成というのを何度かやっているようで、そのうちの一つです。
ついでにもう一曲、ゴーリキー・パークの曲を。
前回の記事で、モスクワピースフェス出演アーティストらによるコンピレーションアルバムを紹介しましたが、ゴーリキー・パークはこのアルバムにも参加していて、フーのMy Generation をカバーしています。
スコーピオンズのI Can't Explain と同様、彼らはこの曲を自身のレパートリーにしていて、MVがあります。
GORKY PARK ` MY GENERATION | Official Video, 1990
My Generation はフーの代表曲であり、このブログのタイトルも半分はここからきています。
お前たちがなんといおうと、俺は俺のやり方で勝手にやる……そんな歌でした。
それはまさに、ロックンロールの教会の教えです。
体制に盲目的に従っているだけでは、いずれとんでもない地獄の淵に引きずり込まれてしまうかもしれない。秩序自体が間違っているときもありうるのだから、秩序に抗うことが正義になるときもある……それこそが、ロックンロールの触媒作用なのです。
そのエネルギーが欠如していたことが、ロシアの現状につながっているんじゃないでしょうか。
ゴーリキー・パークは、なんとかそこに風穴を開けようとしているのではないか。彼らもまた、「ロックを信じる者」であるがゆえに……
フーの後裔といえるバンドの一つであり、「ロンドン・コーリング」を歌ったクラッシュの The Call Up という歌を以前このブログで紹介しました。
召集に応じないのもお前次第だ
俺は死にたくなんかない
というこのスタンスが、この30年の間にロシアで培われているべきものだったのでしょう。
ゴーリキー・パークの活動再開は、今からでもそのスピリットをロシアに注入しようということなんじゃないでしょうか。