ロック探偵のMY GENERATION

ミステリー作家(?)が、作品の内容や活動を紹介。
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薩摩剣八郎さん、死去

2023-12-18 23:25:21 | 日記


薩摩剣八郎さんが死去したというニュースがありました。

薩摩さんは、ゴジラの「中の人」。
平成ゴジラシリーズのスーツアクターとして知られています。
第一シリーズでも出演はありましたが、そこではゴジラではなく敵怪獣役として。あの『ゴジラ対ヘドラ』のヘドラ役をつとめ、それ以降の第一期作品で敵怪獣として活躍。84年版『ゴジラ』からはゴジラのスーツアクターとなり、『ゴジラVSデストロイア』にいたるまでの第二シリーズ全作でゴジラ役をつとめました。
第二シリーズというのは私にとってリアルタイムであり、私のなかにあるゴジラ像は薩摩剣八郎さんのアクションに負っていることになります。ミスター・ゴジラとして知られる初代の中島春雄さんとはまた一味違って、人間っぽくない重厚な動き……ゴジラにとって第二の黄金期といえる時代を築いた功労者の一人といえるでしょう。奇しくも、今年はゴジラの新作が発表されたわけですが……時代の移り変わりを象徴しているといえるかもしれません。
薩摩さんにとってゴジラシリーズ最後の出演作となった『ゴジラVSデストロイア』は、ゴジラの死を描いた作品でした。この映画について薩摩さんは、最後まで夢を与えて死んでいくような、死に方にもそんなロマンがほしい、ということをインタビューで語っておられました。まさにそれは、ご本人にもあてはまることかもしれません。ご冥福をお祈りしたいと思います。



銀河鉄道デザインWAONカード

2023-12-15 23:38:12 | 日記

こんなカードを手に入れました。




WAONカードです。

WAONをいずれ使ってみようかなと思っていたんですが、そのWAONデビューに際して、このカードを入手しました。

ご当地カードというものがあり、北九州のカードとして、このデザインがあるのです。
このブログでは松本零士先生の話がちょくちょく出てきますが、今年は先生の訃報もあり……しかしこうして、WAONのカードにもなっているように、松本零士作品は深く愛されています。ご当地カードのバリエーションをざっとみても、漫画のキャラがデザインされているカードはほとんどないようです。それだけ、松本零士という漫画家の存在感が大きいということでしょう。

また、これらのご当地カードは、単にデザインがご当地というだけでなく、カードで支払われた金額の一部を当該地域の社会事業に寄付するという仕組みになってるんだそうです。
イオンといえば、植林活動なんかもやっていて、それを題材に谷川俊太郎さんが「木を植える」という詩を書き、それに曲をつけて小室等さんが歌っている歌なんかもあります。
所詮企業のPR活動といってしまえばそれまでですが……まあ、やらない善よりやる偽善という言葉もあります。そういった取り組みをしている企業を応援するのもいいんじゃないかと思いました。会計の際にこれを取り出すのがちょっと恥ずかしいというのはあるんですが……



今年の漢字は「税」

2023-12-12 23:05:13 | 時事

今年の漢字は「税」ということです。

増税が話題になったからということでしょう。

「増税メガネ」と揶揄される総理のほうは定額減税を強調しているようですが……問題なのは、税金を減らすかどうかということではなく、むしろ税として集めた金をどう使うかということでしょう。そこが納得できれば、あまり文句は出ないはず。
防衛増税は賛否がわかれるかもしれませんが、万博の費用は膨らみ続け、政治資金パーティーで裏金がどうこうなどといっていたら、そりゃあ納得はいかないという話になります。
また最低を更新したという支持率を上げたかったら、ケアしなければならないのはそういうところでしょう。

ここで名曲を一曲。

ビートルズの Taxman です。
前にちょっと紹介したトリビュートアルバムのバージョンで。
今年このブログでよく出てきたトニー・レヴィンがベースを弾き、スティーヴ・ルカサーがギターを弾いています。

Taxman

 あなたは1で私は19
 だって私は税金取りだから
 5%は少なすぎるというなら
 全部とらないだけでも感謝しなさい

 車に乗るなら道路に課税
 座りたいなら座席に課税
 寒いのなら熱に課税
 散歩するなら足に課税
 
 なんのために金がいるかなど訊かないことです
 もっと払いたくないならね

この歌詞が大げさなジョークにも聞こえないのが今の日本じゃないでしょうか……

さらにもう一曲。
忌野清志郎率いるタイマーズの、ずばり「税」です。

Zei  

 教えてほしいぜ 税のゆくえを
 そんなにカネ集めてどうすんだい
 俺にギターを買ってほしいぜ
 税税税税 贅沢しないぜ
 税税税税 困るぜ重税

まさにそのとおりでしょう。




国体明徴声明

2023-12-08 22:07:41 | 日記


今日は12月8日。

太平洋戦争開戦の日です。
というわけで、今年もまた、近現代史記事を書こうと思います。


今回とりあげるのは、昭和10年、天皇機関説排撃、そしてその先にある「国体明徴声明」です。


これは、一言でいえば「天皇機関説」という法学思想が軍部や右翼によって攻撃にさらされ、憲法解釈が無理矢理に変更された……という一件です。

「天皇機関説」とは、天皇の大権は天皇個人に属するのではなく、憲法下における制限された機能に過ぎない、とする考え方。
立憲君主制という政体においてはごく標準的な発想であり、大正デモクラシーの時代には広く認められた学説だったといいます。

しかし、その「通説」だった天皇機関説が、激しい攻撃にさらされます。
天皇機関説は国体に対する反逆であると貴族院議員が主張し、主唱者である美濃部達吉を攻撃。さらに美濃部は不敬罪で告発され、その著者は発禁となってしまうのです。

ここには、蓑田胸喜という人がかかわってきます。
滝川事件でも名前が出てきたあの人です。
彼は、青年将校たちがやったようなことを学問の世界で展開していきます。その一環として、天皇機関説排撃キャンペーンを主導するのです。

そしてさらに、眞崎甚三郎の名前も出てきます。
以前「相沢事件」の話で登場した眞崎甚三郎です。
相沢事件も、同じ昭和10年の話。天皇機関説排撃キャンペーンが起こり始めたときには眞崎はまだ教育総監の立場にあって、教育総監として国体明徴の訓示を行います。これに続いて文部省も訓令を発し、天皇機関説を否定しました。この流れで、国会でも二度にわたる国体明徴声明が出されることになり、天皇機関説は息の根をとめられます。滝川事件で学問の自由が破壊されたのに続き、法の世界もめちゃくちゃにされていくのです。


一方、「天皇機関説」と対立する側は「天皇主権説」を主張します。
天皇は憲法下における一機関ではなく、一個人としての天皇という存在にこそ日本の主権があるとする考え方です。
これを提唱したのは、上杉慎吉。彼は「七生会」という団体を主宰していて、この組織には岸信介なんかも出入りしていました。

しかし、ここで問題なのは、こうして「天皇主権」を唱える勢力が本当に天皇に敬意を払っているのかということです。

実は、ほかならぬ昭和天皇自身が天皇機関説への攻撃を苦々しくみていました。
この時期在郷軍人会が機関説否定のパンフレットを全国に配布するということをやっていましたが、この行動について昭和天皇は次のように語ったといいます。

軍部にては機関説を排撃しつゝ、而も此の如き、自分の意思に悖る事を勝手に為すは即ち、朕を機関説扱と為すものにあらざるなき乎

天皇機関説を排撃しながら、その一方で天皇自身の意思に反することを勝手にやるというのは、結局天皇を機関扱いしているのと変わらないではないか――実にもっともな批判です。

つまりは、天皇主権を唱える人たちの主張は、実は天皇その人の意向に反しているという根本的矛盾を抱えているのです。

昭和天皇は眞崎甚三郎も煙たがっていたといわれますが、それで眞崎は、戦後になって昭和天皇を批判するようなことをいったりしています。そうなってくると、この人たちは本当に天皇に対する敬意を持っているのかと疑問に思われても仕方がないでしょう。

まあ百歩譲って「主君の考え方が間違っているから臣下として諫言しなければならない」という考え方は成立するかもしれませんが、戦前の右翼活動家はそんなレベルではありません。場合によっては天皇を退位させて自分に都合のいい別の天皇を擁立しようとする動きをみせてもいたといいます。これがあったために、昭和天皇も彼らを正面から制することができなかったという部分があるでしょう。
自分の主張に反する天皇は退位させて、自分に都合のいい天皇を立てる……これは、おそろしく不敬な態度ではないでしょうか。

結局のところ、彼らのいう「天皇主権」とは、「天皇の権威を利用して自分たちのやりたいようにやる」という意味でしかないのです。そして戦前昭和史は実際そのように推移していきます。その結果が敗戦で焼け野原となるのは当然ともいえるでしょう。



Tom Waits, Ol'55

2023-12-06 20:56:02 | 音楽批評


今回は音楽記事です。

最近大物バンドのフェアウェルツアーという話がたくさんあって、そのなかで「爺さんたちのポンコツ道中」なんてことをいいましたが……そんなことを書いていて、トム・ウェイツのOl'55という曲を思い起こしました。

実はトム・ウェイツも今年でデビュー50周年であり、Ol'55が収録されているデビュー・アルバム『クロージング・タイム』は今年で50周年を迎える名盤ということになります。
そのシリーズの流れにも乗っているということで、今回はトム・ウェイツについて書こうと思います。


フェアウェルツアーをやっている、あるいはやっていたバンドというのがいくつかあるわけですが、なかでもとりわけ、イーグルスがかかわってきます。
というのも、このOl’55はイーグルスがカバーしていて、彼らの代表曲の一つともなっているのです。
そのイーグルスバージョンを載せておきましょう。

Ol' 55


トム・ウェイツは、アイルランド出身のシンガーソングライター。
その独特なしわがれ声と音楽世界は強烈な個性を持ち、“酔いどれ詩人”の異名をとっています。一般的な知名度はあまりないと思われますが、いわゆるミュージシャンズミュージシャン的な存在で、ミュージシャンの間では強くリスペクトされています。
このブログで今年登場してきたアーティストを中心に、それらの例をいくつか挙げてみましょう。


ラモーンズ。
ラモーンズがトム・ウェイツの I Don't Wanna Grow Up という曲をカバーし、トム・ウェイツもまたラモーンズのトリビュートアルバムに参加しているという話を書きました。その記事ではトム・ウェイツのオリジナルバージョンを載せていましたが、ここでラモーンズのカバーバージョンも載せておきましょう。

Ramones - "I Don't Wanna Grow Up" - Hey Ho Let's Go Anthology Disc 2

ブルース・スプリングスティーン。
今年デビュー50周年で“同期”にあたるスプリングスティーンも、トム・ウェイツへの強いリスペクトを表明しています。
ライブでトム・ウェイツのJersey Girl をカバーした音源がありました。

Jersey Girl (Live at Giants Stadium, E. Rutherford, NJ - 8/22/1985)

ロッド・スチュワート。
彼も、トム・ウェイツの曲をいくつかカバーしています。同じ“酔いどれ系”のよしみもあるかもしれません。
そのなかからDowntown Train の動画を。

Rod Stewart - Downtown Train (Official Video)  

スティーヴ・ヴァイ。
ヴァイは、トム・ウェイツとのコラボを熱望しているということです。
そのために、John the Revelator という曲をレコーディング。

Steve Vai : John The Revelator / Book Of The Seven Seals

トラディショナル的な曲ですが、このデモ音源をトム・ウェイツに送ってコラボを打診したそうです。
しかし、トム・ウェイツの返事はノー。
これはヴァイがどうこうというよりも、基本的にトム・ウェイツはほかのアーティストとのコラボといったことはしないようです。まあ、とはいえ、スティーヴ・ヴァイとトム・ウェイツというのはイメージとして結びつきがたいところはありますが……ただし、ヴァイへのアンサーという意味合いもあってか、トム・ウェイツも同じ曲のカバーを後に発表しています。

Tom Waits - "John The Revelator"


ここで、日本に関する話題を一つ。

今年の10月、新宿で「第一回トム・ウェイツさんと酔いどれる会」というものが行われたそうです。
本人が来たわけではありませんが、音楽評論家の萩原健太さんなどを迎えて、トム・ウェイツの曲を聴きながら酔いどれるという……遠い日本でそんなことが行われるぐらい、トム・ウェイツは世界的なアーティストなのです。

そんなわけで、もう少しトム・ウェイツのカバーを列挙してみましょう。

ロバート・プラントとアリソン・クラウスによる Trampled Rose。

Robert Plant & Alison Krauss - "Trampled Rose"

ジョーン・バエズによるDay After Tomorrow。
バエズは、世代的にはトム・ウェイツよりもちょっと前の人ですが、そういう人にもリスペクトされているのです。

Day After Tomorrow

エルヴィス・コステロによる「夢見る頃はいつも」。
トム・ウェイツの代表曲の一つです。

Innocent When You Dream

ウィリー・ネルソンによる Picture in a Frame。
ウィリー・ネルソンといえば、トム・ウェイツよりも数世代前の、もはや神話上の人物ともいえるブルースの巨匠。そんな人も、こうやってトム・ウェイツをカバーするのです。

Picture In A Frame

今年亡くなったジェーン・バーキンもトム・ウェイツの曲をカバーしていました。

Alice
 
女声でもう一曲、ノラ・ジョーンズによる The Long Way Home。
この雰囲気は、トム・ウェイツ本人に近いものがあるかもしれません。

Norah Jones-The Long Way Home


ここで、アルバム『クロージング・タイム』について。
『クロージング・タイム』は今年50周年ということで、その他の50周年名盤と同様、やはり再発盤が出ています。(それにくわえて、アルバムタイトルにひっかけて、アルバムジャケットを使った「閉店/開店お知らせボード」なんてものも売られているんだとか)。
このアルバムのときはまだデビュー当初で、後の時代ほど声がしわがれてはいませんが、独特の雰囲気はすでに醸し出されています。場末の酒場感というか……まさに、酔いどれ詩人の世界です。
で、アルバムの一曲目に収録されているのがOl'55です。
55年型の古い車に乗って、暁のハイウェイを走るという歌……そこに、時流に流されずに自分自身の道を行くというような姿勢を読み取ることもできるかもしれません。
ここで、本人バージョンの音源も載せておきましょう。
1999年のパフォーマンスということで、声はもうかなりしわがれています。

Tom Waits - Ol' 55 (Live on VH1 Story Tellers, 1999)


トム・ウェイツといえば、今年はアイランドレコード時代のアルバム5作品がデジタルリマスターで再発ということもありました。

そのなかには、名盤と名高い『Rain Dogs』も含まれています。
このアルバムには、ローリング・ストーンズのキース・リチャーズが参加していました。このこともまたトム・ウェイツがミュージシャンの間でリスペクトされている証でしょうが、さらに本作は、後のUKロックにおける超大物にインスピレーションを与えてもいます。
その大物とは、レディオヘッドのトム・ヨーク。
当時17歳の少年だったトム・ヨークはこのアルバムにすっかり魅了され、「トム・ウェイツは、1985年に本物であろうとする何よりも、はるかに本物に感じられるダークさとユーモアを持ったキャラクターを演じていた 」と語っています。
ウィリー・ネルソンから、トム・ヨークまで……トム・ウェイツをリスペクトするアーティストは実に幅広く、それでいて、そこには通底する何かがたしかにあります。
そう……トム・ウェイツは、たしかに本物なのです。

最後にもう一曲、Tori Amos によるカバーで、Time。

Time

 マチルダは尋ねる
 “これは夢? それとも祈り?”

  俺が戻ってくるまで
  バイオリン弾きにはひまをやってくれ

  時がたてば、どんな夢にも聖者が宿るのさ……

この詩情に酔いどれてください。