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流野精四郎&東澤昭が綴る読書と散歩、演劇、映画、アートに関する日々の雑記帳

コラボレーションの力

2010-06-15 | 読書
 すでに1年以上も前に出た本なのだけど、ビジネス書の棚で見つけた「凡才の集団は孤高の天才に勝る~『グループ・ジーニアス』が生み出すものすごいアイデア」を面白く読んだ。キース・ソーヤーという経営コンサルタントでワシントン大学の心理学・教育学部教授の著作である。
 その中で著者は、かつては一人の天才が創造したと信じられていた各種のイノベーションや歴史的に名高い発明や発見が、実際には目に見えないコラボレーションから生み出されているということを実証的に述べている。

 例えば、シグムント・フロイトは精神分析学の創始者とされているが、その数々のアイデアは、同僚たちの幅広いネットワークから誕生したものだ。
 さらに、クロード・モネやオーギュスト・ルノワールに代表されるフランス印象派の理論は、パリの画家たちの深い結びつきから生まれた。近代物理学におけるアルバート・アインシュタインの貢献は、多くの研究所や学者チームの国際的なコラボレーションが母体となっている。
 このように偉大な発明はすべて、小さな閃きの長い連鎖、様々な人々からの情報提供と深い意見交換を契機として生まれたものなのである。
 著者は、ポスト・イット(付せん)がどうやって生まれたか、ATMやモールス信号がどのようにして発明されたかについても順次述べていく。当初のアイデアは、コラボレーションの助けを得て、やがて次のアイデアを導き出し、それとともに当初のアイデアは思いもかけないような意味を帯びてくる。
 このようにコラボレーションは、小さな閃きを互いに結び合わせ、画期的なイノベーションを生み出すのである。

 法政大学教授で江戸文化研究者の田中優子氏は、昨年3月の毎日新聞に書いた書評で、このコラボレーションを江戸時代の都市部で展開していた「連(れん)」になぞらえている。
 「連」は少人数の創造グループで、江戸時代では浮世絵も解剖学書も落語も、このような組織から生まれた。個人の名前に帰されている様々なものも、「連」「会」「社」「座」「組」「講」「寄合」の中で練られたのである。

 もっとも革新的なものが、もっとも伝統的で日本的なものと呼応していると感じることは、なんと私たちを勇気づけ、鼓舞してくれることか。