7月1日に閣議決定された集団的自衛権の行使についての憲法解釈は、戦争への道を開く暴挙としか言いようがない。憲法上集団的自衛権は否定されてきたにもかかわらず、それを容認する憲法解釈を閣議決定したものだ。それはまさに立憲主義の破壊につながる。憲法9条を真っ向から否定する行為でもある。集団的自衛権行使についての解釈変更は全国民の総意に基づくものでなければならず、手続きを踏んだ憲法を改正する以外にはない。
「国民安保法制懇」は、安倍首相の私的諮問機関である「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)が、「限定的に集団的自衛権を行使することは許される」として、憲法解釈の変更を求める「提言」を5月1日安倍首相に提出した。即日、安倍首相は記者会見を開き、集団的自衛権行使容認の方向性を明言し7月1日にはそれを閣議決定した。
これに異論を唱える学者の方々が「本家・安保法制懇」の向こうを張って結成したのが「国民安保法制懇」。2014年9月29日に「閣議決定の撤回を求める声明」を発表し政府に提出した。
その抜粋
《7月1日の閣議決定は、地球全体にわたる「グローバルなパワーバランスの変化、技術革新の急速な進展、大量破壊兵器などの脅威等」の事象を抽象的に並べるにとどまり、日本との関係でどのような国際情勢・安全保障情勢の現実の変化が集団的自衛権行使を必須とするのかをまったく明らかにしていない。それにもかかわらず、集団的自衛権を否定すべき論拠によって、それを容認する正反対の結論を支えようとする無理な論法を押し通した結果、この閣議決定の内容は、その意図も帰結もきわめて曖昧模糊としており、“見る者の視点によって姿の変わる鵺(ヌエ)とも言うべき奇怪なもの”と成り果てている。》と結んでいる。
鵺(ヌエ)については5日の朝日新聞「天声人語」をそのまま使わせて戴く。
「妖怪といっていいのだろう。頭は猿、胴は狸、尾は蛇、手足は虎、声はトラツグミに似た獣を鵺という。平家物語や世阿弥に登場する。転じて、正体不明な人物や物を指すようになった。」
鵺(ヌエ)とはまさに言い得て妙がある。曖昧模糊たる集団的自衛権の定義と解釈、その範囲。今後どのようになっていくことだろう。不安がつのる。立憲主義に基づき、姑息な閣議決定ではなく、堂々と憲法改定の手続きを進められることを総理に望む。