青空には雲一つない上天気。この日、人吉では夏日を迎えたという。熊本でも日中の気温は23度を超えた。
夏を思わせる陽気に浮かれたわけではないが、折から藤崎台球場で行われるだろう「春の九州高校野球熊本大会」準決勝を見ようと老人夫婦がそろって球場へ出かけた。年を取ると物忘れがひどくなる。今日は高校野球の休養日だということを夫婦ともにすっかり忘れており、球場について初めて今日は試合のないことを初めて知った。球児たちの元気な声がまったく聞こえない静かな球場が前にある。
さてどうしよう。夫婦が顔を見合わせた。お城のさくらはまだ早いが、立ち入り禁止となっている熊本城の中で唯一入ることのできるのは二の丸広場。そこにはちらほら花見の客が見えるものの、にわか仕立ての花見というわけにもいかない。城内の加藤神社にはお参りができる。お参りして家に帰ろうとしたのだが、その途中で城内にただ1つ開いている監物台植物園があることを知った。
熊本市では70歳以上の老人に市内の交通費が割引される「さくらカード」が支給されている。そのカード、水戸黄門の印籠ではないが、熊本城や細川刑部邸、夏目漱石の旧邸や動植物園などを無料で利用できる。監物台植物園もその一つ。無料ということもあって、初めてではないが久しぶりのことそこでしばらく時間を過ごすこととした。
目からうろことはこのことか。入口からすぐのところに大きな枝垂れ(しだれ)さくらが満開の花を咲かせていた。ヨシノさくらに一足先んじての満開だ。予期せぬ思わぬ花見だ。気も心も癒されたことはいうまでもない。
園内のたくさんの樹々や草々には一つ一つに丁寧な説明板がついており、知っている木もあれば初めて観る木も沢山あり、ここはまるでたくさんの樹木の素晴らしい学校、勉強には持ってこいのところ。全く予期せず楽しい春の1日をすごすことができた。
ただ、園内から眺める地震で傷んだ熊本城の天守閣の痛々しさには心が痛む。1日も早い復興を心から願うばかりだ。