北朝鮮が何をしても、安保理で5カ国が一致した結論にたどり着けない状況になっている。対北朝鮮政策への国際的な共同対応やアプローチがもはや作動しなくなっているのだ。

2024-03-07 10:48:27 | しらなかった
 
 

朝中ロの三角再結束…

トランプと金正恩の賭博的な談判は再演されるのか(1)

登録:2024-03-07 01:43 修正:2024-03-07 09:18
 
[ハンギョレ21]カバーストーリー_トランプ大統領が来る? 
キム・ヨンチョル元統一部長官インタビュー 
「ダイナミックな南北関係? 
偶発的衝突の可能性を弱めるべき」
 
 
2019年のハノイ朝米首脳会談の決裂は、米中戦略競争の激化の時期と重なる。2019年にハノイで会談した米国のトランプ大統領と北朝鮮の最高指導者、金正恩氏/AP・聯合ニュース

 ドナルド・トランプ政権時代の朝鮮半島情勢は、まさに激動していた。同政権初年の2017年には一触即発の情勢の中で「戦争危機説」が沸騰し、2018年には南北首脳会談に続く史上初の朝米首脳会談の実現で、「冷戦解体」と「平和体制」に対する期待が非常に高まった。しかし2019年2月にベトナムのハノイで再会した朝米の首脳は、何の成果も出せずに会談を終えた。その後、南北-朝米関係は急速に冷却期に入り、最近では「戦争危機説」が再登場する状況にまで追い込まれている。「トランプ政権第2期」が現実のものとなれば、朝鮮半島情勢はどう変わるのだろうか。

 「ジョー・バイデン政権の『交渉の安定的な不在』に疲れた人たちは、トランプ政権時代の予測不確実性が躍動的に状況を変えうると期待しているようだ。現実はまったくそうではない。外交・安保は予測可能性を高めることが戦略的に最も重要だ。不確実性が高まるということ自体が安保にとって脅威となるからだ」

 キム・ヨンチョル元統一部長官(仁済大学教授)はハンギョレ21のインタビューでこのように語った。そして「朝鮮半島をめぐる国際秩序は従来とはまったく異なる。トランプ政権が再登場しても第1次政権時代とは状況がまったく異なるだろう」との見通しを示した。また「今は偶発的衝突を防ぐための細心の努力が切実に求められている」と強調した。インタビューは2024年2月26日午後に、キム元長官が理事長を務める「韓半島平和フォーラム」のソウル汝矣島(ヨイド)事務所で行われた。

 
 
        キム・ヨンチョル元統一部長官=キム・ジンス記者//ハンギョレ新聞社

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グレーゾーンにおける朝ロ、朝中の経済協力

-北朝鮮は韓国に向けて「敵対的な二つの国家論」まで主張している。これまでは見られなかった状況だ。

 「現在、南北をつなぐ対話のチャンネルはすべて断絶している。南北関係が大きく悪化した李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)両政権の時代も民間のチャンネルは存在したし、当局同士の間接的な対話も行われた。水面下の情報機関同士のチャンネルはもちろん、民間、赤十字、軍事、政府同士のチャンネルなど、あらゆる接触の窓口が完全に断たれたのは、1972年の7・4南北共同宣言の発表以降で初めてだ。さらに、朝米などの国際的な対話の窓口も閉ざされたままだ。北朝鮮が「敵対的な二つの国家論」を掲げたのは、このような情勢を反映したものだ。今や軍事境界線を南北の小分断線ではなく、東アジアの大分断線にするということだ。かつてとは質的に異なる」

-朝鮮半島をめぐる国際情勢も急変しているが。

 「短期的にみれば米中協力時代が終わったということで、長期的にみれば第2次世界大戦後に作られた戦後秩序を意味する『ヤルタ体制』が終わりを告げたということだ。ガザ地区戦争などの中東問題についてもそうだが、特に北朝鮮問題に関する国連安全保障理事会の5つの常任理事国間の合意システムはすでに破壊されている。北朝鮮が何をしても、安保理で5カ国が一致した結論にたどり着けない状況になっている。対北朝鮮政策への国際的な共同対応やアプローチがもはや作動しなくなっているのだ。

 ハノイでの朝米首脳会談の決裂は、米中戦略競争が激化した時期と重なる。『ハノイ・ノーディール』さえなかったら、米中戦略競争の中にあっても朝鮮半島問題は最小限の協力が可能な空間として残っていただろう。結局、北朝鮮は外交・軍事分野だけでなく経済分野でも、『北方』で生存を追求する方向に向かった」

-朝ロ、朝中の協力が急激に強まりつつある。

 「安保理制裁は違法と合法との間のグレーゾーンが非常に大きい。この部分については、各国に有権解釈の裁量権がある。ロシアは北朝鮮と同様に制裁を受けているため、グレーゾーンを積極的に解釈する可能性が高い。そのうえ、安保理が本来の機能を果たせていないことで、制裁の履行に対する評価にも悪影響を及ぼしている。

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の2023年9月の訪ロ後、急激に密着している朝ロの経済協力は、このようなグレーゾーンを中心として行われる可能性が高い。朝中貿易とは異なり、朝ロ貿易にはいわゆる『比較優位』がある。ロシアの極東地域は労働力を、北朝鮮はエネルギーや食糧などを必要としている。互いにやり取りできるものがあるから、経済協力は双方にとって利益となる。3月15~17日に予定されているロシアの大統領選挙が終われば、ウラジーミル・プーチン大統領は平壌(ピョンヤン)を訪問するとみられる。両国とも制裁対象であるため、制裁から脱するための協力もあり得る。

 朝中貿易は性格が異なる。中国は米国に代わって『国際規範の担い手』になろうとしている。可能なら違法な行動は取らないだろう。ただし中国も『グレーゾーン』を積極的に活用する可能性がある。朝中貿易は基本的に商業的な基礎というより、親戚訪問や国境貿易のかたちが主流だ。朝中国境そのものが一種の『共同国境』であるため、その気になれば海上と鉄道を通じた公式な貿易とは異なる、統計に表れないかたちで行われる余地が大きい」(2に続く)

(1の続き)

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オバマ、バイデン両政権の「戦略的忍耐」のその後

-最近は、朝中ロの三角関係の中の「3つの二国間関係」に注目すべきだと強調なさっているが。

 「冷戦時代、朝中ソの三角関係の中で、北朝鮮は中ソ紛争を積極的に利用した。大国にはさまれた小国が大国同士の対立状況において戦略的利益を得た独特の事例だった。今は状況がまったく異なる。世界的なレベルで米ロ、米中の戦略競争が強まっているため、3つの二国間関係が初めて好循環している。朝鮮半島周辺の秩序の新たな特徴の一つだ。

 特に軍事分野の協力が加速するとみられる。韓米日3国間の軍事協力の強まりに応じて、朝中ロの3国間でも上海協力機構(SCO)などを通じた軍事協力が強まると考えられる。朝鮮半島周辺で中ロの共同軍事訓練が拡大しつつあるではないか。北朝鮮がこれに積極的に便乗することで、軍事協力の規模や頻度が拡大する可能性がある」

-トランプ前大統領が共和党の次期大統領候補に事実上確定した。

 「大きな枠組みでみれば、バラク・オバマ政権の『戦略的忍耐』とバイデン政権の『戦略的忍耐シーズン2』に対する失望は大きい。そのため、トランプ政権の再発足が招く不確実性はむしろ『交渉の安定的な不在』より有利になりうるとの主張が登場している。まったくそうではない。外交・安保は予測可能性を高めることが戦略的に非常に重要だ。不確実性が高まるということ自体が安保にとって脅威となる。米国の対北朝鮮政策で重要なのは、韓国政府の対北朝鮮政策だ。オバマ政権の『戦略的忍耐』は、李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)両政権が北朝鮮に対する強硬政策を取ったことが大きく影響した。言い換えれば、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の対北朝鮮強硬策のせいで、たとえ第2次トランプ政権が発足したとしても、大きな変化を作り出すのは容易ではない。

 ハノイ会談がなぜ決裂したのかを再確認する必要がある。問題を解決する際に重要なのは、双方の立場の調整だ。それを通じて信頼が高まり、関係が改善していかなければならない。ボトムアップ外交とトップダウン外交はどちらか一つを選択するというものではない。首脳同士のサプライズイベントは写真は撮れるが、後続の実務交渉なしには一歩も先に進むことはできない。そのような面で、尹大統領の外交はトランプ前大統領に似ている。これでは、すべてがハノイ会談のようにならざるを得ない」

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米国が負担要求を強めてくる可能性

-「第2次トランプ政権」が現実化すれば、1期目のように朝米の「賭博的な談判」が展開されると考えるか。

 「外交というものは『カード』が多ければ多いほど有利だから、『政治的な対面』はありうる。局面によっては朝米の首脳が再び握手することもあり得るだろう。北朝鮮には、最高指導者が過度に権限を行使する特有の交渉のやり方がある。北朝鮮では『ハノイ・ノーディール』に対する責任が強く問われた。朝米が再び会談するとすれば、北朝鮮ははるかに強硬に原則的に交渉に臨むだろう。『ハノイの記憶』が脳裏に刻み込まれた金正恩(キム・ジョンウン)委員長も、何かが確実に保障されない状況では交渉に応じないだろう。

 ハノイ会談当時、米国は北朝鮮との交渉をめぐって国内政治的な利益を優先した。トランプ前大統領が北朝鮮の核施設の撤去のような「スモールディール」よりも「ノーディール」の方がましだと判断したのもそのためだ。今は北朝鮮が核武装の水準を以前より大幅に高めており、朝中ロの三角体制が外交、軍事、経済分野で円滑に作動している。米国の北朝鮮との交渉は2019年よりはるかに難しくなっている。

 韓米間で対北朝鮮政策の調整が必要だが、尹錫悦政権の基調が存在するため、それも容易ではない。かといってクリントン-金泳三(キム・ヨンサム)政権の時代のように、朝米は雪解けするが南北関係は雪解けしないという状況は生じないだろう。結局、第2次トランプ政権は北朝鮮に対する強硬政策に同調しつつ、防衛費分担金、拡大抑止や戦略資産展開のコストなどについて要求を強めてくる可能性が高い。韓米合同軍事演習のコストも同様だ。

 さらに、米国の主導する国際的事案についてのコストや負担の分担も要求してくる可能性がある。例えば、アフリカのソマリア海域に派遣された清海部隊の作戦範囲をホルムズ海峡や紅海などの紛争地域にまで広げることを要求してきたらどうするか。清海部隊の派兵は国会の批准を受けて行われたのだから、直ちに国内政治的に対立が生じざるを得ない」

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経済的側面を念頭に置くべき

-朝鮮半島危機論が再び横行しているが。

 「北朝鮮の主張する『敵対的な二つの国家体制』が抱える問題の本質は、『敵対的』という表現だ。これを『平和的』へと変えなければならない。北朝鮮は自ら核保有国だと主張している。韓米間には拡大抑止がある。両者とも『核抑止』を前提としているということだ。全面戦争が起きれば全員が死ぬ、いわゆる『相互確証破壊(MAD)』の状況だ。

 軍事的緊張が長引けば長引くほど、偶発的な衝突の可能性は高まる。両者が核で向かい合っている状況においては、局地的な衝突が起きても、両者とも全面戦争に打って出ることはできない。通常兵器による紛争が増加する可能性が高いということだ。インドとパキスタンの事例がそうだ。北朝鮮の核保有に対抗して韓国も核武装すべきだ、という主張の最も重要な論理的誤りもそこにある。核武装がかえって通常兵器による局地的な紛争をあおる環境として作用しうるということを念頭に置くべきだ。だから、偶発的衝突の可能性を下げることが最も重要だ。対北朝鮮強硬論の国内政治的な効果ばかりを考えるのではなく、経済的側面も念頭に置くべきだ。軍事的緊張が長期化し、交渉の可能性が低くなればなるほど、金融市場への影響が強まる。この30年あまりの北朝鮮核危機にあっても『朝鮮半島ディスカウント』は作動したことがない。緊張が高まれば、外交的努力がその後を追ったからだ。今はそうではない。しかもマクロ経済指標が思わしくない。『コリアディスカウント』の可能性が高いということに政府は気づいてほしい」

チョン・インファン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
 
 

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