「中年太り」なぜ起こる?…日本の研究チーム、
肥満治療の突破口を発見
「食欲調節」担う視床下部のニューロンの末端にある一次繊毛
年を取るほど短く…食事のカロリーを下げると再生
特に食事量が増えたわけでもないのに、中年になると急に太る人は多い。米国では、50歳の人は若い時より平均で15キロも太っているという国立衛生研究所の統計がある。老化によって基礎代謝が低下するから、というのが定説だ。筋肉量と活動量が減るから食事量が同じでもエネルギーがあまり消費されず、体内に脂肪として蓄積されるというわけだ。しかし、中年太りを招く生理的過程が科学的に究明されていたわけではない。
名古屋大学が中心となった日本の研究チームが、ラット実験によって、脳の視床下部のニューロン(神経細胞)で起きる変化が中年太りにつながることを明らかにし、国際学術誌「セル・メタボリズム」に発表した。
アーモンドほどの大きさの視床下部は新陳代謝と食欲を調節する脳の領域で、大脳の内側の左右に並んでいる視床の下にある。研究チームは、視床下部のニューロンの末端に触角のように生えている一次繊毛に注目した。この繊毛には、栄養の過剰を感知し、新陳代謝と食欲を調節して肥満を予防する「メラノコルチン4型受容体(MC4R)」というタンパク質がある。すべての細胞には繊毛があるが、ニューロンには1つずつ一次繊毛がある。
視床下部のニューロンの繊毛が縮む
実験では、ラットが年を取れば取るほど一次繊毛が短くなることでMC4Rの機能が弱まり、それが体重の増加を誘発することが発見された。一次繊毛が肥満に関与するということはすでに知られている事実だが、一次繊毛の長さが年を取るにつれて短くなることが確認されたのは初めて。
まず、ラットの脳にMC4Rがどのように分布しているかを調べた。その結果、MC4Rが視床下部のニューロンの特定の部分のみに集中的に存在することを突き止めた。
続いて、生後9週の若いラットと6カ月の中年のラットの脳の一次繊毛の長さを測定した。すると、中年ラットの繊毛は若いラットの繊毛よりはるかに短いことが分かった。これは、中年ラットの新陳代謝と脂肪燃焼の能力が若いラットより劣るということと一致する結果だ。
次に、ラットに様々な栄養で構成される餌を供給し、ラットの繊毛にどのような変化が起きるかを調べた。その結果、高カロリーの餌を摂取したラットの繊毛はより速く、低カロリーの餌を摂取したラットの繊毛はよりゆっくりと短くなることを発見した。
低カロリーの餌の供給で繊毛が復活
研究を率いた中村和弘教授は、「私たちはヒトでも似たようなしくみが働くと考えている」とし、今回の発見は根本的な肥満治療法の開発に役立ちうるとの期待を示した。
興味深いのは、年を取るにつれて短くなっていった繊毛が、2カ月間にわたって低カロリーの餌を摂取させたところ、再び伸びたことだ。
研究チームはまた、遺伝子工学技術を用いて繊毛のより短いラットを作り出し、実験をおこなった。すると、ラットの餌の摂取量が増加し、新陳代謝が低下することを発見した。続いて、このラットの脳にレプチンというホルモンを投与した。レプチンは食欲を低下させるホルモンだ。ところが驚くべきことに、ラットの食欲はまったく落ちなかった。繊毛が短くなったことで、レプチンが本来の機能を発揮できなくなっていたのだ。
論文の第一著者である大屋愛実博士は「レプチン抵抗性と呼ばれるこの現象は肥満患者によく見られるもので、長い間その原因が明らかになっていなかった」と語った。
肥満患者は脂肪組織がレプチンを過度に分泌するため、飽食シグナル分子であるメラノコルチンの作用を慢性化させる。研究チームは、これが老化に関係する繊毛の短縮化を促進することで、メラノコルチンが本来の機能を果たせなくさせ、肥満の悪循環を招くと解釈した。
研究チームは、総合的に老化につれて繊毛が短くなることがラットの中年太りとレプチン抵抗性を誘発するとの結論を下した。
まさにここに肥満の予防や治療の突破口があるとみられている。中村教授は、「適切な食習慣によって繊毛の短縮化を防止すれば、年を取っても脳の抗肥満機能を正常に保てるだろう」と述べた。
また、老化による退行は別の一次繊毛でも起こり得て、それが様々な病気の原因となる可能性があると報告された。
*論文情報
Age-related ciliopathy: Obesogenic shortening of melanocortin-4 receptor-bearing neuronal primary cilia
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