アンティマキのいいかげん田舎暮らし

アンティマキは、愛知県北東部の山里にある、草木染めと焼き菓子の工房です。スローライフの忙しい日々を綴ります。

マンガ「あとかたの街」

2015-08-13 11:49:05 | 映画とドラマと本と絵画
   前に紹介した、シベリア抑留者を題材にした漫画「凍りの掌」(コチラ)の著者・おざわゆきの最新作。ただいま3巻まで出ています。

   前作は著者の父親の体験がもとになっていますが、本作は、名古屋出身の母親の体験が主軸になっています。母親は太平洋戦争末期、国民学校高等科の生徒として学徒動員に駆り出されていました。

   話は昭和19年春からはじまります。街には働き手の男性がどんどんいなくなり、女性の進出が目立ちます。でも、主人公はそこに戦争の影を見ることもなく、「女車掌さん、かっこいい!」と憧れる子供にすぎませんでした。そんな無邪気な少女が、知らず知らず戦争の惨禍に巻き込まれていく様子が描かれています。

   彼女たちは、「銃後の守り」をすべく、徐々に、日常生活を戦時色に塗り替えられていきます。たとえば、戦時国債を購入するよう主人公宅にやってきた「大日本国防婦人会」の会員。彼女に対して、主人公の母は頑として「買えない」といいつづけます。相手は「買わない人は非国民だ」とののしるような行動に出ますが、母は、「お金がないのだから。買えないものは買えない」と、態度を変えません。

   根負けして相手は帰るのですが、そのときの捨て台詞がひどい。

   「そういや お宅は全員女の子やったね。出征してお国に貢献できるような男の子を一人も生まんと、ようお天道様の下 堂々と歩けますなあ」

   この「大日本国防婦人会」(終戦末期には国防婦人会と改名)は、しばらく前のNHK連続ドラマ「ごちそうさん」でも登場しました。闇物資を隠匿しているのではないかと、岡っ引きのようなことをするいやな存在として描かれていました。

   憲兵はもちろん怖かったはずですが、彼らににらまれる前に、町内の婦人会や在郷軍人会の会員たちにやり玉に挙げられることが怖かった、とはよく聞く話です。彼らがどれだけの権限を持っていたか知りませんが、街角ではさみを持って立ち、派手な格好をしたりパーマをかけてたりした女性たちの「指導」をしていたともききます。在郷軍人は学校の軍事教練も担当し、もっと高圧的だったようです。

   いまも、地方都市や田舎では機能している隣組は、戦中に生まれました。岡本一平(岡本太郎の父)が作詞したことで有名な隣組の歌は、政府の命令でつくられたものです。江戸時代の五人組同様、相互監視制度の一つとして使われました。

   本作は、死に至る危険や物資がどんどんなくなる恐怖とは別に、日常生活を監視され、自粛せざるを得ない状況に追い込まれる気持ち悪さ、息苦しさがよく描かれています。

   19年の12月には、巨大大地震が。その直後、名古屋市内の軍需工場への空襲が始まります。そして次の巻はいよいよ名古屋大空襲の話になるようです。安保法制の参院での審議が中断されたまま、70年目の終戦記念日を迎えることになりそうですが、どういう考えを持つにしろ、とにかく現実がどうであるか、よく知っておくべきだと私は思います。

   
コメント
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