1年半前に一度訪れたことのあるハッピーマウンテン。幸山明良さんが切り開いた山に牛を放ち、育てている山です。昨年再訪の計画をたてたのですが、パンデミックのため断念。先月やっとかないました。
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以前は、幸山さんが開墾した山に牛は放たれていましたが、いまは、山のふもとに囲いをつくり、一か所に居住(?)。山の放牧場はただいま、牧草を育てている最中だそうで、いずれはまた前のように山のあちこちの草を食べながら行き来できるようにするのだそうです。
1年半前より頭数は増え、現在雌6頭に雄が一頭になりました。雄はまだ少年。もうじき青年になり生殖可能になるのだそうです。
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牛とともに彼が飼育しているのはチャボをはじめとする鶏。牛にとってはなくてはならない存在です。
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牛にたかる無数のアブ。そのアブを好んで食べるのが鶏。背中を襲うアブをたたいて鶏にやると大喜びします。この日一緒に行った子供たちは、じきにアブたたきに熟達し、鶏に餌をたくさん供給できました。
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牧場内にしかけた罠にかかったり、近隣で仕留めたりした害獣の肉のうち人間の食べない部分も、鶏の大好物。細かく切って与えます。
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以前もさせてもらったカウカドリング。手のひらを握るか広げるかして最初に牛の鼻先にもって行き、匂いを嗅いでもらう。彼女は私のからだを嗅ぎまわり、しばらくすると、そのまま私の膝に顔をうずめました。「もう友達になりました」と幸山さん。牛の腹から背に向かってなでてやると喜ぶというので、あちこちを撫でさすりました。私が慣れたせいか、前よりリラックスして身を預けることができました。牛の鼓動が聞こえます。気持ちいい。
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のんびり育った牛はゆったりと人間を受け入れてくれるのだな、と思っていたら、そうとは限らないこともごくたまにあるとか。「人間が先輩風を吹かせているといやがります」と、幸山さん。居丈高だったり乱暴だったりすると、牛は敏感に分かるのでしょう。匂いも関係しそう。整髪料や合成洗剤、柔軟剤、化粧品の匂いの強い人も、嫌がられるかもしれないなと思いました。
私が寄りかかっている牝牛の名前はリツ。昨年牧場内の崖で滑り落ちて重症を負い、再起が危ぶまれましたが、幸山さんの看病で一か月後に立ち直り、その後、ひとつきかかってリハビリ完了。背中には重症を負ったときの傷が今も残っています。
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唯一一頭だけいる雄は、ひときわ活発。雄は気が荒く、人間の手では御しがたいので、いま大抵の酪農家は牡牛を飼わずに人工授精で子牛を出産させています。
でも、幸山さんがおっしゃるには、牡牛がいるかいないかでは、牛の集団行動にはっきり差が出るのだとか。牝牛と子牛だけだとクマが襲いに来るそうですが、一頭でも雄がいると、敬遠するのだそうです。場内の移動は順番が決まっていて、その順番があることで秩序が守られ、いざというときの助けになるのだそう。「一頭だけだとパニックになる。牛は群れでないと生きられない動物なのです」
幸山さんはただいま、一頭だけいる少年牛を、心優しくたくましい牡牛に育てることに力を入れています。
牧場内は、3年前開拓を始めたときは一面の笹原でした。その笹原を牛が食べ、場内は徐々に本来の多様性を取り戻しはじめました。
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大きな葉にびっくり。桐の葉です。毒草のタケニグサもあちこちに。大きくておどろきました。牛糞のおかげか、土地が肥えているのでしょう。
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前にはなかったゲル。なかでコンサートや小さな集会のできる広さがあります。
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寝泊まりもできます。
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マウンテンツアーは、牛を含めたこの山の自然を見て触って匂いを嗅いで楽しむ会。この日のツアーの最初は、キノコ栽培している湿り気のある場所から始まりました。途中の道には、牛たちが好んで食べている笹が。まだまだあちこちに群生しています。
幸山さんに勧められて、笹の先っぽの芽を出したばかりの葉を食べました。柔らかくて甘い。いけます。整腸作用があって、これを食べると便の切れが良いのだそう。野雪隠のおり、笹ならその辺にあることが多いから手ごろな拭き紙になりそうです。ただし柔らかい葉に限りますが。いいことを聞きました。
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案内されたのは、苔が育つにふさわしい場所。よく見ると異なる種類の苔がいろいろ育っています。
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こちらに来て無類の苔好きとなった幸山さんは、苔テラリウムのワークショップも開いています。
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こちらは、ハッピーマウンテンの周辺にある散策路。作られたばかりらしい立派な桟道が、歩きやすくて格好よくて、楽でした。
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ソヨゴです。近くにアブラチャンもあったのですが、写真を撮り忘れました。ソヨゴは昨年ある染色家の方法で手順を踏んで染めたらいい色が出ましたが、アブラチャンも染め材料になりあmす。以前一度だけ染めことがあるのですが、アルカリ抽出できれいな茶色っぽいピンクが出ました。薬効もあるようで、今度どこかで見つけたらハーブウォーターにしてみたいと思っています。
トラノオも咲いていました。
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乾燥した牛糞。前に来た時も驚きましたが、全く匂いがない。食べるものがいいとこんなに匂いが違うのかと感動しました。こちらはだいぶ土と馴染んだ糞のようです。
問題のある飼料を一切食べていない牛糞は、肥料としては貴重品。
冬場、このあたりは他の草が全部枯れても笹だけは豊富。だから、牛の主要の食べ物は固い笹です。その笹を分解できる胃袋が反芻によってつくられ、何億ものバクテリアが住み着きます。そしてそれがたんぱく質に合成され、植物だけ食べているにもかかわらず、立派な筋肉を作るのだそうです。
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ハッピーマウンテンの頂上。前方は南信州の山々です。ところどころカラマツが。この日、下界は相当な暑さだったと記憶していますが、こちらは別天地。
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ここで昼食を取りました。
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差し上げた黒パンを、いつも身に着けている鉈で切る幸山さん。ワイルド!
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2か所に設置されたブランコ。ブランコなんて久しぶりに乗ったので、漕ぐ、という行為をあえてしなくてはちゃんと揺れないことをすっかり忘れて、ただぶらぶら揺れていました。それでも、十分楽しかった。写真は友人。
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枯れかけたカラ松も。でも、下から幾本も枝が伸びてきています。針葉樹でこういう光景は珍しいように思います。
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崖にあった木。切ったら、年輪に偏りができていることがわかりました。手前は年輪の幅が広く、向こう側は狭い。土のある方は太り、少ないほうはやせ気味? こうして、木は倒れないよう、バランスをとって立っていたのだなとわかります。
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昨夜通ったシカの足跡らしい。
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ウリハダカエデというのだそうです。蛇のような柄にぎょっとしましたが、名前を聞いて得心。確かにシマウリそっくりです。
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昨年だったかに、土砂災害に見舞われた林道。こういうところは、道を作るために水みちを無理に寸断したために災害に見舞われるのでしょう。自然に流れるようにしておけば、壊れるということもなかったのではないかと思います。
この土石流が発生したため、下の沢筋に意外なことが起こりました。粘土質の基岩という石が現れたのです。幸山さんにとっては、怪我の功名というか、うれしい出来事です。
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粘土質のこの石、いわゆる「クレイ」にちかいものらしい。幸山さんは、このところ石鹸も歯磨き剤も使わないで、この石を使っています。石をちょっと水に浸けてこすると、黄色いクリーム状になります。手に塗ると、心なしかすべすべするような。彼はこの石で土器を作るワークショップも開催しています。機会があれば、参加してみたい。
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地元の中学生たちが作ったツリーデッキ。地元の子供たちは、山の近くにいながら山で遊んだことはほぼなかったはず。それがハッピーマウンテンの誕生によって、山を近しく感じられるようになったのではないかとおもいます。
前に来た時にはなかったこうした人工物が、森のところどころにあります。ひとの手の入った自然の森は、安らぎを覚えます。
今は子供の牛たちが近い将来母牛になったら、母乳を分けてもらって、乳しぼりやバターづくり、生クリームづくりなどのWSができたら、たのしそう。ふもとには石窯も作ったそうなので、搾りたての牛乳を飲みながら、焼き立てのパンに出来立てのバターを塗って食べたら、もういうことなし。1年半前に訪れたときよりさらに、これからが楽しみのお山になりました。
ハッピーマウンテンでは、随時、放牧場内の見学やワークショップを開いています。詳しくはホームページをご覧の上、幸山さんにお問い合わせください。(長野県根羽村の山地酪農「ハッピーマウンテン(Happy Mountain)」 (happy-mountain.life)