風になりたい

自作の小説とエッセイをアップしています。テーマは「個人」としてどう生きるか。純文学風の作品が好みです。

恐るべき吉林人(連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』第141話)

2012年12月10日 06時15分15秒 | 連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』

 
 吉林省は中国東北三省の真ん中にある省。省都は長春だ。緯度はだいたい日本の北海道くらいで、昔でいう満州平野の真ん中にある。長春はおだやかな感じのいい街だ。人ものんびりしている。
 北海道くらいの緯度に位置していて、しかも内陸なものだから、十一月くらいから最高気温がマイナスになり、真冬になると氷点下三十度になったりする。とても寒いところだ。
 寒いから酒を飲んで温まる。
 酒を飲まなくては体が温まらない。
 職場に吉林人の同僚がいて、しょっちゅう一緒に仕事をするのだけど、なんでも彼は、地元に帰った時にはアルコール度数が五〇数度もある白酒を茶碗へなみなみと注いで友達と乾杯するのだそうだ。もちろん、文字通り杯を飲み干すのである。茶碗一杯分の白酒をひと息に飲み干して、すぐにまた乾杯する。二杯目を飲み干せば、三杯目の乾杯にうつる。そうして、延々と白酒を乾杯し続ける。それが彼らの飲み方なのだとか。
 彼といっしょに日本出張へ行った時、日本の本社の人たちに夕食をご馳走になったのだけど、その時、彼は本社の酒豪Sさんと飲み比べをした。ビールを何杯も乾杯でイッキ飲みして、サワーも次々と一気に飲み干しておかわりし続けた。飲み放題コースをお願いしておいてよかった。それはともかく、酒豪で鳴らしているSさんもかなわず、最後はとうとうダウンしてしまった。
「強すぎるよお。なんであんなに飲めるんだよお」
 と、Sさんはつぶやきながら眠りこんでしまった。完全に潰れてしまった。
 一方、吉林省の彼は、
「ビールもサワーも薄いですから、まだまだ飲めますよお」
 と陽気にはしゃいでいる。ほんとうに、彼はまだまだ飲めそうだった。
 恐るべき吉林人。さすが白酒を茶碗に注いで鍛えただけのことはある。
 


(2011年12月4日発表)
 この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第141話として投稿しました。 『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/

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