1996年1月1日
インドの旅もこれが最後になるだろう、できるだけ多くの友人に会っておきたい。まず二ナとフレッドに会うためピクニックGHへ行った。3階に上がると左にちょっと広いフロアーがある。3階は正面と左奥にツインの2部屋があるだけだ。3階に上がって真直ぐ進むと屋上へ上る細い階段がある。屋上には個室はなくドミトリーだけでアフリカンの溜まり場になっていた。3階の正面が二ナとフレッドが住んでいた部屋だ。ノックしようとすると左奥の部屋から女の声がする
「トミー、トミー、助けて」
左の部屋から二ナの声がする、しかしどこから呼んでいるのか分からない、ドアは閉まっているのだ。良く見るとドアの横に縦に細長い小窓がある、そこに二ナは顔を押しつけぼくを呼んでいた。彼女は小窓から出した手でドアを探っている。
「トミー、こっちへ来て、助けて」
ドアは外から鍵が掛けられていた。
「鍵はどうしだ?」
「ランジャンよ、気がついたら鍵が掛けられていた。鍵を開けて、お願い」
インドの鍵は合鍵かピッキングでもしないと開けられない。
「駄目だ、鍵は開けられない」
「ねぇ、トミー、わたしシックなの。スタッフを頂戴、少しだけで良いの」
「二ナ、分かるだろう。ぼくはスタッフを止めている」
小窓から二ナの顔が見える。髪は解れ、目の縁は汚れと涙で黒ずんでいた。涙を流しながら一生懸命に外の鍵を開けようとしていた。
ぼくは叫びそうに悲しかった。二ナを助けることができない。
「フレッドが、フレッドがスタッフを持っているわ。貰ってきて、早く、早くお願い」
二ナは禁断の苦しみに落ちている。フレッドに会った。
「シックなんだ」
鼻水が流れている。袖で何度も拭いて口の回りは鼻水と涎で汚れていた。目はとろんとして
「シックなんだよ、俺も。皆シックだ」
「どうしたんだ、フレッド。何があったんだ、お前らしくない」
「スタッフは今夜、手に入る。今夜だ。それまではない」