今日またニューガイが入って来た。Cバラックは収容人員を遥かに超えパンク状態だ。ベッドの間は全て埋まっている。今では通路にも5つの寝床が作られていた。ネットを追い出されたぼくの寝床もそのひとつだ。通路の左右に勝手に寝床を作っている。バラックの突き当たりはトイレで臭いし汚い、入口の方は鉄格子で冷たい風が入って来る、勢い真中あたりに寝床が集中する。左右の寝床が平行した場所の通路は幅50cmくらいしかない。トイレへの行き帰りパタパタとサンダルの音がした。ネットの中と違って通路は風が通るので寒い、しかし思ったほど蚊はいなかった。ここのベッドは床に直接作り付けた長方形の石のような硬い物で出来ているので蚊が隠れる場所がない。アシアナのベッドは一応病院用に作られていてベッドの下の暗い所に蚊がいた。その蚊を表に出さない為に12月だというのに天井の扇風機を回していた。12月でも水溜りがあれば蚊は繁殖する。最高気温が連日40度を超える5月から8月のモンスーンまでの間は乾期で土地は乾燥してしまう。
夕方6時施錠される。夕食の準備をしていると後ろにある鉄格子の窓からフィリップスがぼくを呼ぶ。素早く2パケとビリ3本をぼくが受け取ると彼は消えて行った。どうして彼は施錠時間が過ぎているのに外に出られるのか?ぼくには分からなかった。だが彼は毎日そのやり方でぼくにスタッフを渡した。たぶん彼はスタッフをキープする時間を最小限にしているのだろう。施錠直前に彼はBバラックで用意されたスタッフとビリを受け取り施錠の合図、鉄格子を打ち鳴らすガンガンという金属音がするとCバラックの窓に来てスタッフをぼくに渡す。それが済むと彼は何食わぬ顔でAバラックに戻って行く。ぼくは素早くスタッフをブリーフの中に隠し夕食を待った。