田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

魔闘学園 麻屋与志夫

2008-10-01 10:20:27 | Weblog
鹿未来は今宮神社の地下で起きたことを知らない。
ごりっ。
ごりっ。台座が動いていく。

あの時は、この下に血をためる壺がおいてあった。

「あっ、これは」
ぼっかりと空洞が開いた。

鹿未来は見た。
声を張り上げる。
「妖狐はやはり……まだ完全に蘇ったのではないのですね」

「阿倍一門の呪術をもって泰成が封印した狐、いかに妖術に長けているとはいえ、そうたやすく実体化はできないはずです。わたしたちが見ていると思いいこんでいるのは、すべて妖狐が投射する幻しにすぎません」
「なんということができるの。実体化できなくても、これだけの情報操作ができるとしたら」
「この世は平安の闇に、妖狐が現れたらもどされてしまいます。それを憂いた先祖がわたしたちをこの地に住まわせたのです」

「わたしが蘇ったのも、この妖狐と戦うためだった」

「廟への穴があきました。階段が朽ちています。注意して下りてください」

生け贄台から滴った少女メグミの血が棺の上部にある紋章。
妖狐の牙をむきだした口のあたりにしたたっている。

あの少女を助けたい。
なんとしても、救いたい。
罪のない少女だ。
ケイコだっておなじだった。

妖狐玉藻の再臨のために犠牲となろうとしていた。
少女たちを生け贄として。
肉体を復活させようとしている。
根性がゆるせない。         

牙は千年の埃が血でぬぐわれたため、浮彫りされたときのように白くひかっていた。  
ここに横たわるものは、死体ではない。
封印されたリービングデッドだ。

仮死状態にある、蘇る時をうかがっていた玉藻なのだ。

「恐らく、妖狐の牙そのものをうめこんだのだ」

廟の中に安置されている棺そのものも光っている。
金箔におおわれている。
高貴の人の棺だった。
「銀でおおえばよかったのに」
鹿未来がつぶやいた。
「よくわかっているじゃないの」

ふたりの耳に金属音がひびいてきた。
「わたしは再誕した。蘇った。千年の闇の底から少女の血と体を生け贄として蘇った。千年の眠りから目覚めたのだ。復讐の時はきた。那須火山の次は浅間山だ。そして富士山を噴火させて見せる。地龍はみなわたしの味方だ。わたしに付き従うものに幸あれ。いま若い娘に血を全部飲み干せば、わたしの蘇りは完璧なものになる。肉体に再び春が訪れる。わたしは若い男の精を思う存分吸収できる。さらに強い肉体と復讐のための堅固な意思がわたしのものとなる。さあ娘を生け贄にするのだ」

常の人であったら発狂する。
それほどの高音だった。
鼓膜がさけそうな音だ。

「玉藻。妖狐浮揚の術」






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