鹿未来は今宮神社の地下で起きたことを知らない。
ごりっ。
ごりっ。台座が動いていく。
あの時は、この下に血をためる壺がおいてあった。
「あっ、これは」
ぼっかりと空洞が開いた。
鹿未来は見た。
声を張り上げる。
「妖狐はやはり……まだ完全に蘇ったのではないのですね」
「阿倍一門の呪術をもって泰成が封印した狐、いかに妖術に長けているとはいえ、そうたやすく実体化はできないはずです。わたしたちが見ていると思いいこんでいるのは、すべて妖狐が投射する幻しにすぎません」
「なんということができるの。実体化できなくても、これだけの情報操作ができるとしたら」
「この世は平安の闇に、妖狐が現れたらもどされてしまいます。それを憂いた先祖がわたしたちをこの地に住まわせたのです」
「わたしが蘇ったのも、この妖狐と戦うためだった」
「廟への穴があきました。階段が朽ちています。注意して下りてください」
生け贄台から滴った少女メグミの血が棺の上部にある紋章。
妖狐の牙をむきだした口のあたりにしたたっている。
あの少女を助けたい。
なんとしても、救いたい。
罪のない少女だ。
ケイコだっておなじだった。
妖狐玉藻の再臨のために犠牲となろうとしていた。
少女たちを生け贄として。
肉体を復活させようとしている。
根性がゆるせない。
牙は千年の埃が血でぬぐわれたため、浮彫りされたときのように白くひかっていた。
ここに横たわるものは、死体ではない。
封印されたリービングデッドだ。
仮死状態にある、蘇る時をうかがっていた玉藻なのだ。
「恐らく、妖狐の牙そのものをうめこんだのだ」
廟の中に安置されている棺そのものも光っている。
金箔におおわれている。
高貴の人の棺だった。
「銀でおおえばよかったのに」
鹿未来がつぶやいた。
「よくわかっているじゃないの」
ふたりの耳に金属音がひびいてきた。
「わたしは再誕した。蘇った。千年の闇の底から少女の血と体を生け贄として蘇った。千年の眠りから目覚めたのだ。復讐の時はきた。那須火山の次は浅間山だ。そして富士山を噴火させて見せる。地龍はみなわたしの味方だ。わたしに付き従うものに幸あれ。いま若い娘に血を全部飲み干せば、わたしの蘇りは完璧なものになる。肉体に再び春が訪れる。わたしは若い男の精を思う存分吸収できる。さらに強い肉体と復讐のための堅固な意思がわたしのものとなる。さあ娘を生け贄にするのだ」
常の人であったら発狂する。
それほどの高音だった。
鼓膜がさけそうな音だ。
「玉藻。妖狐浮揚の術」
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あの時は、この下に血をためる壺がおいてあった。
「あっ、これは」
ぼっかりと空洞が開いた。
鹿未来は見た。
声を張り上げる。
「妖狐はやはり……まだ完全に蘇ったのではないのですね」
「阿倍一門の呪術をもって泰成が封印した狐、いかに妖術に長けているとはいえ、そうたやすく実体化はできないはずです。わたしたちが見ていると思いいこんでいるのは、すべて妖狐が投射する幻しにすぎません」
「なんということができるの。実体化できなくても、これだけの情報操作ができるとしたら」
「この世は平安の闇に、妖狐が現れたらもどされてしまいます。それを憂いた先祖がわたしたちをこの地に住まわせたのです」
「わたしが蘇ったのも、この妖狐と戦うためだった」
「廟への穴があきました。階段が朽ちています。注意して下りてください」
生け贄台から滴った少女メグミの血が棺の上部にある紋章。
妖狐の牙をむきだした口のあたりにしたたっている。
あの少女を助けたい。
なんとしても、救いたい。
罪のない少女だ。
ケイコだっておなじだった。
妖狐玉藻の再臨のために犠牲となろうとしていた。
少女たちを生け贄として。
肉体を復活させようとしている。
根性がゆるせない。
牙は千年の埃が血でぬぐわれたため、浮彫りされたときのように白くひかっていた。
ここに横たわるものは、死体ではない。
封印されたリービングデッドだ。
仮死状態にある、蘇る時をうかがっていた玉藻なのだ。
「恐らく、妖狐の牙そのものをうめこんだのだ」
廟の中に安置されている棺そのものも光っている。
金箔におおわれている。
高貴の人の棺だった。
「銀でおおえばよかったのに」
鹿未来がつぶやいた。
「よくわかっているじゃないの」
ふたりの耳に金属音がひびいてきた。
「わたしは再誕した。蘇った。千年の闇の底から少女の血と体を生け贄として蘇った。千年の眠りから目覚めたのだ。復讐の時はきた。那須火山の次は浅間山だ。そして富士山を噴火させて見せる。地龍はみなわたしの味方だ。わたしに付き従うものに幸あれ。いま若い娘に血を全部飲み干せば、わたしの蘇りは完璧なものになる。肉体に再び春が訪れる。わたしは若い男の精を思う存分吸収できる。さらに強い肉体と復讐のための堅固な意思がわたしのものとなる。さあ娘を生け贄にするのだ」
常の人であったら発狂する。
それほどの高音だった。
鼓膜がさけそうな音だ。
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