屋根だけがある渡り廊下なので容赦なく闇が充溢していた。
闇と同化していた。
外と均等な闇に支配された廊下を足で探りながら進む。
すこしでも怯むとわたしまで闇にとりこまれてしまうような恐怖を押さえて進んだ。
その果てに道場と呼ばれている建物がある。
いままで、閂で堅く閉ざされていた扉。
年代ものの黒光りする檜の分厚い扉。
それが開放されている。
道場には一族の女たちが襷鉢巻きで集合していた。
そのかず、およそ25名。
「持ち場に散って。わたしもすぐに正門前にいきます」
「美智子……これは……」
「なにもきかないで。あなたは、ここにいてモニターを見ていて。なにか異変があったら携帯で連絡して。そして、この戦いを記録して。民俗学者の目でさいごまでみとどけてくださいな。さようなら……」
いうよりはやく、妻は女たちを追ってとびだしていった。
妻はわたしに毅然とした態度で命令した。
わたしは道場にとじこめられた。
扉は内側からではびくともしない。
堅牢な扉はわたしが妻と参戦するのを拒んでいる。
妻は死ぬ気だ。
あいては異形のもの。
人狼だ。
妻だけを死なせるわけにはいかない。
共に戦いたい。
50インチのモニター映像。
森が身悶えしている。屋敷林が裏山の森が風に吠えている。
黒髪颪のはげしい風のせいばかりではない。
異形のものの侵攻をうけて闇の底で樹木がさわいでいる。
モニターで見ていると音声ははいらないが、まちがいなく森は吠えている。
異形のものに同調してか、あるいは違和感を覚えてかはわからないが、あきらかに森は震えているのだった。
だが予想に反して、森からわきでたのはわたしを追跡してきたジャンバー男だけだった。
門を飛び越せないとあきらめ裏手の森から攻め込んできたのだ。
なにか、わたしは拍子抜けした。
森の奥からはひしひしと群れてくる人影がモニターに映ると期待していたのだ。
わたしは、それでもあわてて門の方角を守りに出たはずの妻に携帯で状況を急報する。
森からわき出た男は二足歩行が困難なようすではないか。
蟹股にとなり、腰のあたりで湾曲がみられる。
顔が鼻からつき出す。
はやばやと狼の形態をとり森をぬけて裏庭の果樹園に走りこんでくる。
道場の扉が外から開かれ祥代が飛び込んでくる。
「パパ。刀もってきたわ。インターから歩いてきたの」
祥代の目は薄い桜いろに変わっていた。
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闇と同化していた。
外と均等な闇に支配された廊下を足で探りながら進む。
すこしでも怯むとわたしまで闇にとりこまれてしまうような恐怖を押さえて進んだ。
その果てに道場と呼ばれている建物がある。
いままで、閂で堅く閉ざされていた扉。
年代ものの黒光りする檜の分厚い扉。
それが開放されている。
道場には一族の女たちが襷鉢巻きで集合していた。
そのかず、およそ25名。
「持ち場に散って。わたしもすぐに正門前にいきます」
「美智子……これは……」
「なにもきかないで。あなたは、ここにいてモニターを見ていて。なにか異変があったら携帯で連絡して。そして、この戦いを記録して。民俗学者の目でさいごまでみとどけてくださいな。さようなら……」
いうよりはやく、妻は女たちを追ってとびだしていった。
妻はわたしに毅然とした態度で命令した。
わたしは道場にとじこめられた。
扉は内側からではびくともしない。
堅牢な扉はわたしが妻と参戦するのを拒んでいる。
妻は死ぬ気だ。
あいては異形のもの。
人狼だ。
妻だけを死なせるわけにはいかない。
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50インチのモニター映像。
森が身悶えしている。屋敷林が裏山の森が風に吠えている。
黒髪颪のはげしい風のせいばかりではない。
異形のものの侵攻をうけて闇の底で樹木がさわいでいる。
モニターで見ていると音声ははいらないが、まちがいなく森は吠えている。
異形のものに同調してか、あるいは違和感を覚えてかはわからないが、あきらかに森は震えているのだった。
だが予想に反して、森からわきでたのはわたしを追跡してきたジャンバー男だけだった。
門を飛び越せないとあきらめ裏手の森から攻め込んできたのだ。
なにか、わたしは拍子抜けした。
森の奥からはひしひしと群れてくる人影がモニターに映ると期待していたのだ。
わたしは、それでもあわてて門の方角を守りに出たはずの妻に携帯で状況を急報する。
森からわき出た男は二足歩行が困難なようすではないか。
蟹股にとなり、腰のあたりで湾曲がみられる。
顔が鼻からつき出す。
はやばやと狼の形態をとり森をぬけて裏庭の果樹園に走りこんでくる。
道場の扉が外から開かれ祥代が飛び込んでくる。
「パパ。刀もってきたわ。インターから歩いてきたの」
祥代の目は薄い桜いろに変わっていた。
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