田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

吸血鬼の故郷  麻屋与志夫

2008-10-27 08:57:15 | Weblog
屋根だけがある渡り廊下なので容赦なく闇が充溢していた。
闇と同化していた。  
外と均等な闇に支配された廊下を足で探りながら進む。

すこしでも怯むとわたしまで闇にとりこまれてしまうような恐怖を押さえて進んだ。

その果てに道場と呼ばれている建物がある。

いままで、閂で堅く閉ざされていた扉。
年代ものの黒光りする檜の分厚い扉。 
それが開放されている。
道場には一族の女たちが襷鉢巻きで集合していた。 
そのかず、およそ25名。
「持ち場に散って。わたしもすぐに正門前にいきます」
「美智子……これは……」
「なにもきかないで。あなたは、ここにいてモニターを見ていて。なにか異変があったら携帯で連絡して。そして、この戦いを記録して。民俗学者の目でさいごまでみとどけてくださいな。さようなら……」
いうよりはやく、妻は女たちを追ってとびだしていった。
妻はわたしに毅然とした態度で命令した。 
わたしは道場にとじこめられた。
扉は内側からではびくともしない。
堅牢な扉はわたしが妻と参戦するのを拒んでいる。
妻は死ぬ気だ。 
あいては異形のもの。
人狼だ。 
妻だけを死なせるわけにはいかない。
共に戦いたい。

50インチのモニター映像。
森が身悶えしている。屋敷林が裏山の森が風に吠えている。  
黒髪颪のはげしい風のせいばかりではない。
異形のものの侵攻をうけて闇の底で樹木がさわいでいる。 
モニターで見ていると音声ははいらないが、まちがいなく森は吠えている。
異形のものに同調してか、あるいは違和感を覚えてかはわからないが、あきらかに森は震えているのだった。
だが予想に反して、森からわきでたのはわたしを追跡してきたジャンバー男だけだった。    
門を飛び越せないとあきらめ裏手の森から攻め込んできたのだ。
なにか、わたしは拍子抜けした。
森の奥からはひしひしと群れてくる人影がモニターに映ると期待していたのだ。
わたしは、それでもあわてて門の方角を守りに出たはずの妻に携帯で状況を急報する。
森からわき出た男は二足歩行が困難なようすではないか。  
蟹股にとなり、腰のあたりで湾曲がみられる。
顔が鼻からつき出す。
はやばやと狼の形態をとり森をぬけて裏庭の果樹園に走りこんでくる。
道場の扉が外から開かれ祥代が飛び込んでくる。
「パパ。刀もってきたわ。インターから歩いてきたの」
祥代の目は薄い桜いろに変わっていた。




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吸血鬼の故郷   麻屋与志夫

2008-10-27 00:43:42 | Weblog
本田青年とわたしの妻が並んでいる。              

「わたしはお父さんを見捨てないから」

祥代の声がエコーする。                  

10

「本田さんとは婚約しただけでした。そうきいています。彼が結核におかされたので破談にしたと……」

いまごろ、なにをきくのかという態度で門倉が応えた。 
わたしのことなど歯牙にもかけないといった態度だ。 
無視されている。

わたしの塾が東部犬飼地区の塾につぶされたのも、妻が年をとらないのも……妻の親たちが太陽にあたり火膨れで死んだのも……すべて理解した。
犬飼地区は昔から石裂家とは敵対関係にある。
両墓制をとり『埋め墓』へ納棺するのに蓋になぜ釘で打ちしないのか。

早すぎる埋葬を恐れてのことだ。

死者がよみがえることが信じられている。

だがすべてを理解したからといってどうなるものでもない。

いや、むしろ知り過ぎたわたしをこの街のひとが簡単に逃がしてはくれないだろう。          
この街のひとのこころはひからびた踵みたいだ。
わが屋敷を踏みにじり、荒野にもどそうとしているのだ。 

妻たちの種族との交配によって、東台地の犬飼地区とはちがった文化圏を形成してきた恩義をわすれて。東の人と結託しわたしたちを滅ぼそうとしている     
またわたしたち種族を北の那須が原に追い詰める気なのだ……。        
「美智子たいへんだ。人狼が活動をはじめた……」
なにがどうなっているのか、動転してしまった。

妻に連絡した。
凶暴な人狼とどう戦えばいいのだ。
「わかっている。猫が虐殺されているときいて、すぐぴんときたの。道場にきて」
「なにいっているんだ。東京にいるんじゃないのか」
「祥代があなたのところに駆け付けるといって品川の家をでた。そのすぐあとを追ってきたの。みせたいものがあるの。すぐにきて」

だれも近寄らなかった古色蒼然とした建物。 

長い渡り廊下で母屋とつながっている。

渡り廊下をひとりで歩いている。

周囲は闇だ。



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