猫にあいたい。わたしがときおり帰省する理由だ。
猫の餌代こみで執事の塚本の女房に世話をたのんでいる。
猫のめんどうをみてくれる女たちは大勢いる。
入り婿の立場であるわたしなりの気配りだ。
彼女は夫婦で娘たちともども、家族ぐるみで住みこんでいる。
塚本が歳はとったが、執事として留守の家を守っいる。
家の中をクリーンにしておくにはまだまだひとでがたりないくらいだ。
妻の家系につながる家族が広大な屋敷内のあちこちに住んでいる。
住んでいるはずなのだが、めったに顔をあわせることはない。
こちらからたずねていくこともしない。
わたしですら一そっくり住みついているような敷地とわが家の正確な部屋かずや間取りなどわからないしまつなのだ。
広い屋敷なので正確には何匹猫がいるのかわからない。
わたしたちが上京する前から飼っていた、ブラッキ、ミユ、ムック、チビ、武蔵はだいぶ老齢になっている。
それこそ、本田と同じくらい。
人間でいえば80才くらいにはなるだろう。
だが、猫は腰もまがらない。
顔にしわもよらない。
わたしが、帰ってくると広い庭や部屋のどこからともなくあらわれて足下にまとわりつく。
しばらく、居間でテレビをみながら猫とじゃれていると携帯がなった。
「ブラッキたち元気にしている」
わたしは膝にのっていたミユの耳元に携帯をもっていった。
ミユは妻の声をきいた。
すぐそばにいると思ったらしい。
辺りをみまわす。
ニャーオと一声ないた。
「いまのは、ミユよね。かわいい」
わたしの猫好きもかなりのものだ。
妻の猫への偏愛は、もうビョウキ。
かたときも猫をはなしたことがない。
よく猫はなにもない空間にむかって、鼻をピクピクさせてうなることがある。
そんなときは、たいへんなものだ。
わたしにみえないものが、猫にはみえるのよね。
かわいい、とだきしめて涙ぐむ。
夜になっても風はおさまらなかった。
いつであったか、妻とこうした黒髪颪の日に買い物にでかけたことがあった。
妻の頬に細かいメナシができておどろいたことがあった。
寒冷地の日光や那須の山々から吹き下ろす風だ。
ひとなでされただけで氷の鑢でこすられたようなものだ。
妻のきめの細かいなめらかな肌が荒れてしまった。
ともかく化粧に命をかける妻なので、頬にできた細いヒビにすっかり恐怖を覚えたらしい。
いくら曇り日で日焼けする心配はないからとさそっても、二度と黒髪颪の吹きすさぶ街にでようとはしなかった。
紫外線にあたって日焼けするのもだいきらいなので、どう説得ししても日中散歩につれだすのはたいへんなことだった。
次の日は、風もおさまった。
冬の日にしては穏やかな日差しがヨーカドー前の駐車場に日溜をつくっていた。
わたしは、車から降りて、なにか期待するような目を彼方にむけた。
本田老人はきていなかった。
餌をくれる老人がきていないので、猫は駐車場の隅の駐輪場の周辺を歩きまわっていた。
老人の姿を探している。
老人の来訪を期待している。
応援のクリックありがとうございます

猫の餌代こみで執事の塚本の女房に世話をたのんでいる。
猫のめんどうをみてくれる女たちは大勢いる。
入り婿の立場であるわたしなりの気配りだ。
彼女は夫婦で娘たちともども、家族ぐるみで住みこんでいる。
塚本が歳はとったが、執事として留守の家を守っいる。
家の中をクリーンにしておくにはまだまだひとでがたりないくらいだ。
妻の家系につながる家族が広大な屋敷内のあちこちに住んでいる。
住んでいるはずなのだが、めったに顔をあわせることはない。
こちらからたずねていくこともしない。
わたしですら一そっくり住みついているような敷地とわが家の正確な部屋かずや間取りなどわからないしまつなのだ。
広い屋敷なので正確には何匹猫がいるのかわからない。
わたしたちが上京する前から飼っていた、ブラッキ、ミユ、ムック、チビ、武蔵はだいぶ老齢になっている。
それこそ、本田と同じくらい。
人間でいえば80才くらいにはなるだろう。
だが、猫は腰もまがらない。
顔にしわもよらない。
わたしが、帰ってくると広い庭や部屋のどこからともなくあらわれて足下にまとわりつく。
しばらく、居間でテレビをみながら猫とじゃれていると携帯がなった。
「ブラッキたち元気にしている」
わたしは膝にのっていたミユの耳元に携帯をもっていった。
ミユは妻の声をきいた。
すぐそばにいると思ったらしい。
辺りをみまわす。
ニャーオと一声ないた。
「いまのは、ミユよね。かわいい」
わたしの猫好きもかなりのものだ。
妻の猫への偏愛は、もうビョウキ。
かたときも猫をはなしたことがない。
よく猫はなにもない空間にむかって、鼻をピクピクさせてうなることがある。
そんなときは、たいへんなものだ。
わたしにみえないものが、猫にはみえるのよね。
かわいい、とだきしめて涙ぐむ。
夜になっても風はおさまらなかった。
いつであったか、妻とこうした黒髪颪の日に買い物にでかけたことがあった。
妻の頬に細かいメナシができておどろいたことがあった。
寒冷地の日光や那須の山々から吹き下ろす風だ。
ひとなでされただけで氷の鑢でこすられたようなものだ。
妻のきめの細かいなめらかな肌が荒れてしまった。
ともかく化粧に命をかける妻なので、頬にできた細いヒビにすっかり恐怖を覚えたらしい。
いくら曇り日で日焼けする心配はないからとさそっても、二度と黒髪颪の吹きすさぶ街にでようとはしなかった。
紫外線にあたって日焼けするのもだいきらいなので、どう説得ししても日中散歩につれだすのはたいへんなことだった。
次の日は、風もおさまった。
冬の日にしては穏やかな日差しがヨーカドー前の駐車場に日溜をつくっていた。
わたしは、車から降りて、なにか期待するような目を彼方にむけた。
本田老人はきていなかった。
餌をくれる老人がきていないので、猫は駐車場の隅の駐輪場の周辺を歩きまわっていた。
老人の姿を探している。
老人の来訪を期待している。
応援のクリックありがとうございます
