田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

日光赤薙山/マックラ滝

2008-10-21 11:33:30 | Weblog
    

10月21日 火曜日
●日曜日(19日)日光。「coelacanth3億8千万年の孤独」を書き上げた。魔法iイランドにあとは本登録するだけだ。どんな反響があるか、子どもの頃にもどって遠足の前夜のような興奮を覚えた。
●一夜明け、これはもう日光にでかけないことには、この小説を書き上げた後のさめやらぬ興奮に涼風を入れることはできない。そう判断して、カミサンに「さあ出かけるぞ。日光は霧降隠れ3滝だ」と掛け声をかける。
●涼風は霧降高原のリフト、赤薙山のスロープに吹いていた。生まれて、この年になって、はじめて山の空気をすった。いままで山にのぼらなかったわけではない。わたしの田舎の家のある鹿沼も、いちおう前日光高原といわれる地形にある。都会よりはおいしい空気を毎日吸っている。
●でも、赤薙の風はまったくちがった。水にたとえれば、透明度が違うというところだった。
●紅葉がはじまっていた。
●下山してから、当初の目的地、隠れ3滝に向かった。
●前年、丁字の滝のみで涙をのんで引き返してきた所だ。カミサンがこわくて丸木橋を渡ることができなかった。別ルートがあるというので、今回はPCで検索しておいた。
●「マックラ滝」は薄暗い山影から飛瀑と落ち、霧降川となる。このあたりは、書きあげた「三億」にでてくるのでじぶんが作中人物になったような気分になりたのしかった。
●滝のすばらしさは、カミサンの写真でご覧ください。
●赤薙などのピクチャもカミサンのブログに載っています。ぜひご覧ください。
    http://blog.goo.ne.jp/mima_002
    




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吸血鬼の故郷  麻屋与志夫

2008-10-21 08:38:41 | Weblog
わたしは暗黒の顎を(あぎと )思わせるような横穴の入り口でためらっていた。
一族のものはみなこの奥の壇ノ浦古墳とよばれる地下墓地に埋葬されるのだという。
この北関東の極みにある古墳になぜ壇ノ浦という名称がつけられているのか……?
「ここからさきはあなたひとりで棺を押していかなければならないのよ」
妻が冷酷にいいはなった。
地下納骨所までひとりでいかなければならない。
「わたしたちは、東京の大学の剣道場で知り合い自由な意思のもとに結婚した。あなたはわたしを愛していた。わたしもあなたを愛していた。でもそれだけではわたしたちの愛は完結しないのよ。あなたはあのときからわたしの部族の意思にしたがう運命にあったのよ」
と妻はつづけた。
部族などといわれても、なんのことかさっぱりわからない。
わたしは両親の柩をのせたトロッコのような台座に手をかけたまま逡巡していた。

非情にも暗い穴が目前にせまっている。

「まさかこのままでてこられないって……ことはないよな」
「安心して……なにかあったら台座についたロープを引けばすぐひきもどしてくれるから」
「いままでに……そんなことは起きてないのだろう」
「さあ、どうかしら。わたしがきいているかちぎりでは、ないはずよ」
ますます妻のことばが冷ややかになる。
「あなたこわいの」
 …………………。
「あなた、こわいんでしょう」
「こんな土俗的習慣きいたことがない。おれはシテイボーイだ。怖がらないほうがおかしいよ」
妻は沈黙。
「それは怖いさ。このままなにもかも捨てて逃げたい」
「これは通過儀式なの。親の柩を地下の玄室にひとりで納めにいってはじめてわたしたちの一族の婿としてみとめられるの」 
入り口をふさがれたら。 
横穴の中になにか怪異なものがまちうけていたら。  
ただでさえ閉所恐怖症の気味のあるわたしは、猛烈な恐怖が足下からはいのぼってくるのを感じた。
穴の奥からは湿った悪意を含んだ風が吹き寄せてくる。
巨大な怪物がわたしに息を吹きかけている。
わたしの震えはさらにひどくなった。
まわりの親族のものは、わたしの次なる行為を冷淡に待っている。
わたしはよろけて膝をついてしまった。
それなのに妻は「そうよ。そんなふうにして中腰でおしていけばいいの」
とわたしの次なる行動をそくした




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吸血鬼の故郷  麻屋与志夫

2008-10-21 00:13:56 | Weblog
だれに看取られるでもなく。
ただひとり息をひきとった。

いまごろは親族のものがかけつけているだろう。
と担当の警官に聞かされた。  
本田の出身は……わたしの妻の家の墓地がある酒の谷地区だそうだ。

異臭や猫の鳴き声。
あとでまた、本田の部屋にもどって詮索すればよかつた。

救急車にのって病院まで付き添うべきだった。悔いた。
なにかと後悔ばかりする一日だった。
 
冬は夜の訪れが早い。
街が暗い。
車を徐行させた。
わずかにヨーカドーの辺りが明るんで見えた。
わたしは猫たちのことが気になってしかたがなかった。
トランクにつめこんだ箱の中の猫のミイラもはやく弔ってやりだい。
本田が他界したいま、わたしが猫の保護者になってやらなければならないだろう。天井にいた黒猫が箱を守るかのように付いてきてしまった。 
だが……。
あとはたのむといわれても、なにを依託されたのかわからなかった。
台地にある本田のアパートの窓から鳥瞰した街は……。
暗かった。
夜の闇の底にひっそりと息づいていた。
それでもときおりネオンがまたたく。
それなりに美しかった。
本田老人は毎晩どんな心情で古びたアパートからこの街の夜景を見ていたのだろう。              
「あとをおたのみしゃんす」 
この地方の、やさしいひびきのある方言でたのまれた。
本田にとっての後顧の憂いがどういうものかわからない。
わたしは闇のなかへ急坂を下った。
なにをいいたかったのだろうか?   
なにを託したかったのか? 
わたしは、携帯で妻を呼び出した。
わかやいだ、声が聞こえてきた。
本田が亡くなった。
そうつげても、妻はおどろかなかった。

むりして、早く帰京しなくてもいい。
本田さんの葬式をだしてあげなさいよ。
身内のひとだけではかわいそうよ。
友人代表で会葬してあげて。
なにかちぐはぐな返事がもどってきた。       
 
わたしが、この街に止どまることをねがっているようだ。
このまま東京にもどらなくても、いっこうにかまわない。

わたしには興味がないのか。
わたしは、この忌まわしい街を一刻もはやく去りたかった。
葬儀にでるのはこりごりだ。
 
ガクッと薄闇の中で体がゆらいだ。



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