田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

吸血鬼の故郷

2008-10-22 08:35:52 | Weblog
妻はわたしがやる気を起こしたと思ったのだ。

狭い横穴式石室の羨道を棺桶を押して進む。
あたりは黴臭くじめじめしていた。

玄室はすぐそこのはずだ。 
台座の下では小さな車輪ががたがたと古典的な回転音をたてていた。
さらに進と天井がたかくなった。

天井が高くなったのは入り口付近のように土壁がくずれてないからだった。
天井が高いのではなく足下が低くなったのだ。
足下は切り石が敷き詰められている。

天井も両側の内壁も漆喰で塗り固められていた。
わたしはヘルメットにとりつけられたライトで周囲をみまわした。

壁には絵がえがかれていた。

絵がぶれていた。  

ゆらいでいた。

わたしがふるえていたからだ。

全身がかたむくほどふるえていた。

野干にのった女人が長刀をふるって戦っていた。
それも、武装軍団とよばれるほどの女人の群れだった。
戦場の鬨の声が聞こえてくるような臨場感があった。
おどろいた。立ち止まってしまった。

一刻もはやく納棺したい。
わたしは目にした戦乱のさまを脳裏の深く刻みこんで先をいそいだ。
ただ、長刀で戦う対象がえがかれていないのがなんとも奇異だった。
大地に死体や白骨は累々とつみかさなっいた。
腐敗屍骸像(とらんじん )ともよばれるべきその図から、そのものたちがなんであったかは読み取れなかった。

民俗学の徒としてはまたとない経験をしているのだが、薄気味悪かった。

ふるえながら先に進んだ。 

両親を納めた棺桶を玄室まで押していくのは入り婿の役目ときまっているからと半ば強要されての行為だった。

大学の剣道場で彼女と会ってしまったことを呪った。

真っ黒に日焼けして死んでいた両親の死体が目の前に浮かぶ。 
ここでネをあげるわけにはいかない。

親戚のものが横穴の入り口で見張っている。
どんなことがあっても、玄室に棺桶を納めてこなければいけないのだ。

この地方には民族学的にみても希有な両墓制が存在いている。
両墓制というのは埋葬する『埋め墓』と『シキバカ』詣り墓に別れている。
詣でるのは、石碑をたてるのはシキバカのほうでそこには遺体は埋葬されていないのである。
わたしは埋め墓の玄室にむかって棺桶を運んでいるのだった。




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