田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

血を吸われた家族/超能力シスターズ美香&香世 麻屋与志夫

2011-02-02 10:47:36 | Weblog
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 あたりまえの住宅地がとぎれる場所。
 普通の住宅地にオフィス街がせまっている場所。
 日常の生活空間に異界がまざりあった場所だ。
 家庭のぬくもりも、ひとの住む気配さえ途絶えた場所だった。

 当たり前の、ふつうの人が日常的に昼の間は行き来する道だ。
 大勢の人の目に毎日その住宅はさらされている。
 しかし、その家から瘴気がふきだしているのをだれも感じない。
 そこが異界であることを知らない。

 百子たちは正面玄関からむぞうさにはいった。
 これだけ近寄れば、相手は吸血鬼だ。
 ひとの気配は感じている。
 百子たちの動きは気づかれているはずだ。
 忍びこむ必要はない。
 自宅の玄関をはいる気軽さ。
 なにげなく扉を開けた。
 
 美香には実に新鮮な恐怖。
 おののき。
 そして怒り。
 吸血鬼が人間の血をのむのをはじめて見た。
 いや、さきほども見た。
 美智子の母の襟足から血だらけの唇をはなした獏を目撃している。

「あなたたちも、一杯どうですか」

 コウジが駈けつけ三杯といったところだ。
 ここまで逃げてきた。
 息切れを潤している。
 まだ顔には眼つぶしの粉末がこびりついている。
 赤ワインを飲む気安さだ。
 ワイングラスから。
 さも美味しそうに血を飲んでいるのだった。
 人間の血を吸う。飲む衝動からは逃れられない存在。
 吸血行為。
 そのことには、なんのためらいもない。
 DNAのなかに脈々としてながれる本能。

「美味しいですよ。どうですか」
「ふざけるな」
「百子。なにかおかしい。おかしいよ」

 美香がコウジをリーデングしようとした刹那。
 奥のとびらが吸血鬼を吐きだした。
 腕から白い管を垂らした少女。
 その先に輸血用のパック。
 でも逆だ。
 抜き取った血を溜めている。

「あっ、あの子。テレビで見た行方不明の子。たしか……」
「川野辺カオル。カオルです。助け……て」

 美香の全身が青白く光輝をはなった。
 指剣をかまえる時間も惜しかった。
 そのまま少女を捕まえている吸血鬼に体当たりをくわせた。
 吸血鬼はふっとんだ。出てきた扉に背中を打ちつけた。
 それだけではない。
 見よ。
 融けだした。
 ジィっと液体が沸騰するような音。
 見る間に、青い塊となった。
 灰となる。
 百子がコウジとふたたび対峙している。
 兆子がカオルを抱き起している。

「奥の部屋にまだいる」

 カオルがか細い声で訴える。

「いるって、だれがいるの」

 リーデングはできなかった。
 カオルは気を失ってしまった。
 美香は扉の奥にはいった。
 隣室のベッドはミイラのようにやせ細った家族。
 この家の家族らしい。
 両親。ふたりの娘。
 かなり長いこと血をすわれていた。
 でも、まだ息はある。

「助かるから」

 励ましのことばをかけながら縛めをとく美香だった。



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