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あたりまえの住宅地がとぎれる場所。
普通の住宅地にオフィス街がせまっている場所。
日常の生活空間に異界がまざりあった場所だ。
家庭のぬくもりも、ひとの住む気配さえ途絶えた場所だった。
当たり前の、ふつうの人が日常的に昼の間は行き来する道だ。
大勢の人の目に毎日その住宅はさらされている。
しかし、その家から瘴気がふきだしているのをだれも感じない。
そこが異界であることを知らない。
百子たちは正面玄関からむぞうさにはいった。
これだけ近寄れば、相手は吸血鬼だ。
ひとの気配は感じている。
百子たちの動きは気づかれているはずだ。
忍びこむ必要はない。
自宅の玄関をはいる気軽さ。
なにげなく扉を開けた。
美香には実に新鮮な恐怖。
おののき。
そして怒り。
吸血鬼が人間の血をのむのをはじめて見た。
いや、さきほども見た。
美智子の母の襟足から血だらけの唇をはなした獏を目撃している。
「あなたたちも、一杯どうですか」
コウジが駈けつけ三杯といったところだ。
ここまで逃げてきた。
息切れを潤している。
まだ顔には眼つぶしの粉末がこびりついている。
赤ワインを飲む気安さだ。
ワイングラスから。
さも美味しそうに血を飲んでいるのだった。
人間の血を吸う。飲む衝動からは逃れられない存在。
吸血行為。
そのことには、なんのためらいもない。
DNAのなかに脈々としてながれる本能。
「美味しいですよ。どうですか」
「ふざけるな」
「百子。なにかおかしい。おかしいよ」
美香がコウジをリーデングしようとした刹那。
奥のとびらが吸血鬼を吐きだした。
腕から白い管を垂らした少女。
その先に輸血用のパック。
でも逆だ。
抜き取った血を溜めている。
「あっ、あの子。テレビで見た行方不明の子。たしか……」
「川野辺カオル。カオルです。助け……て」
美香の全身が青白く光輝をはなった。
指剣をかまえる時間も惜しかった。
そのまま少女を捕まえている吸血鬼に体当たりをくわせた。
吸血鬼はふっとんだ。出てきた扉に背中を打ちつけた。
それだけではない。
見よ。
融けだした。
ジィっと液体が沸騰するような音。
見る間に、青い塊となった。
灰となる。
百子がコウジとふたたび対峙している。
兆子がカオルを抱き起している。
「奥の部屋にまだいる」
カオルがか細い声で訴える。
「いるって、だれがいるの」
リーデングはできなかった。
カオルは気を失ってしまった。
美香は扉の奥にはいった。
隣室のベッドはミイラのようにやせ細った家族。
この家の家族らしい。
両親。ふたりの娘。
かなり長いこと血をすわれていた。
でも、まだ息はある。
「助かるから」
励ましのことばをかけながら縛めをとく美香だった。
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これだけ近寄れば、相手は吸血鬼だ。
ひとの気配は感じている。
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自宅の玄関をはいる気軽さ。
なにげなく扉を開けた。
美香には実に新鮮な恐怖。
おののき。
そして怒り。
吸血鬼が人間の血をのむのをはじめて見た。
いや、さきほども見た。
美智子の母の襟足から血だらけの唇をはなした獏を目撃している。
「あなたたちも、一杯どうですか」
コウジが駈けつけ三杯といったところだ。
ここまで逃げてきた。
息切れを潤している。
まだ顔には眼つぶしの粉末がこびりついている。
赤ワインを飲む気安さだ。
ワイングラスから。
さも美味しそうに血を飲んでいるのだった。
人間の血を吸う。飲む衝動からは逃れられない存在。
吸血行為。
そのことには、なんのためらいもない。
DNAのなかに脈々としてながれる本能。
「美味しいですよ。どうですか」
「ふざけるな」
「百子。なにかおかしい。おかしいよ」
美香がコウジをリーデングしようとした刹那。
奥のとびらが吸血鬼を吐きだした。
腕から白い管を垂らした少女。
その先に輸血用のパック。
でも逆だ。
抜き取った血を溜めている。
「あっ、あの子。テレビで見た行方不明の子。たしか……」
「川野辺カオル。カオルです。助け……て」
美香の全身が青白く光輝をはなった。
指剣をかまえる時間も惜しかった。
そのまま少女を捕まえている吸血鬼に体当たりをくわせた。
吸血鬼はふっとんだ。出てきた扉に背中を打ちつけた。
それだけではない。
見よ。
融けだした。
ジィっと液体が沸騰するような音。
見る間に、青い塊となった。
灰となる。
百子がコウジとふたたび対峙している。
兆子がカオルを抱き起している。
「奥の部屋にまだいる」
カオルがか細い声で訴える。
「いるって、だれがいるの」
リーデングはできなかった。
カオルは気を失ってしまった。
美香は扉の奥にはいった。
隣室のベッドはミイラのようにやせ細った家族。
この家の家族らしい。
両親。ふたりの娘。
かなり長いこと血をすわれていた。
でも、まだ息はある。
「助かるから」
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