田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

愛のことばはいらない/超能力シスターズ美香&香世 麻屋与志夫

2011-02-10 07:10:10 | Weblog
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テラスのはるか彼方は道路になっていた。
道路の向こう側には、TWIns、先端生命研究所の新しい建物があるはずだ。
美香の席からは見えない――。

ふいに、救急車の赤ランプが美香の視界をよぎった。
一瞬だった。
少し遅れてピーポピ……という音がひびいてきた。
まえから、きこえていたのかもしれない。
美香に耳には入らなかった。
車は、建物の影にかくれた。
その先には、救急車搬入口がある。
サイレンの音はしばらく前からきこえていたにちがいない。

アンデイがなにかはなしかけている。
テラスでくつろいでいた何人かのひとが。
音のしたほうをふりかえった。

車はもう見えない。
警笛の余韻だけ――。

アンデイがなにかはなしかけている。
美香はなにも応えられないでいる。
胸が熱くなってきて、なにも声にだせないでいる。

いままでに感じたことのない情感に身をゆだねていた。
なにもはなしていない。
なにもいえないでいる。
それでも、アンデイのそばにいて……幸せ。

……テーブルには紙カップが3個ならんでいた。
1つだけきれいにのみほされていた。
あとの2つにはまだかなりコーヒーがのこっていた。

美香はカップに手をのばしたが途中でやめた。
アンデイがテラスを横切って消えていく。
あとを追おうとしたがやめた。

さようなら、またくるよ――。

アンデイの意識が、彼のこころの声が美香の内側で木霊していた。
美香のこころにあたたかな声があふれた。
美香のころはアンデイのこころがみたしていた。

美香はアンデイのこころを夢中で読みとっていた。
なんてやさしいこころなのだろう。
美香は涙ぐんでいた。

愛しているなんてことばはいらなかった。
それでもじゅうぶん幸せだった。


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