田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

美香のfirst kiss/超能力シスターズ美香&香世 麻屋与志夫

2011-02-11 12:24:55 | Weblog
14

アンデイが窓ガラスに映った。

「なんども……声かけた……新宿の夜景を見ていたのですか」

美香ははずかしくて。
ふりかえることができなかった。
廊下の行き止まりにつくられたコーナーだった。
雑誌ラックには乱雑に週刊誌が並べられていた。

美香は左手をかまえていた。
窓の外の夜景にむかって指剣をかまえていた。

それが……。

肩の傷をいたわっているためか。
前につきだした人差し指と中指。
からは、青く燃えたつ剣は現われなかった。
右上腕部の肉をマスターvampireの鉤爪で抉られた。
肉片をもっていかれたためか。
傷が完治していないためでもあるのか。
青い炎がでない。
ガス切れのライターみたい。
チョロっと小動物の舌のような形をみせて、直ぐ消えてしまう。
なんども、ためしてみた。
念をこめて指をかまえ。
チョロ。
それでおわり。
泣きたくなった。

わたしにはもう指剣を呼び起こす念の力はないの。
わたしの能力は枯渇してしまったの。

「どうした、美香。なにが心配なのですか」
「わたしもう、指剣を使えないかも……」
「そんなことはありません。傷が痛むからです。
体が痛むとこころも弱くなるからだよ」

アンデイが美香を笑わそうとしている。
わざと文脈のみだれたことばを使っている。
ソファだけなのでアンデイが美香のとなりにすわった。

もうそれだけで、美香はこころがさわいだ。
2人だけだ。

ほかのことは、あまり気にならない。
ふたりだけの世界。

アンデイのことだけが。
身近にいるアンデイのことばかり。
おもっている。

「それで憂い顔ですか。それで悲しい顔してたのですね」
「わたしもうだめ」

アンデイが美香を胸にひきよせた。
髪をなでてくれた。
アンデイの胸の動悸が美香の頬に伝わってくる。

「なにもしないでいる時間には、
なにもかんがえないで過ごすのがイイのです。
わたしはそうしてきた」

アンデイにとってなにもしないでいる時間ってどういうものなのかしら。
早すぎた埋葬にあったとき。
それとも棺桶のなかでの冬眠。
そんなの伝説。
そんなことがあるわけがない。
ただ、たしかなことはアンデイがながいこと生きつづけているということ。
そのあいだには、うんざりとするほどのアンニュイにみちた時間があったはずだ。
いまが、その時間でないことを美香は祈った。

「美香といるとたのしいですよ」
「よかった。ホントなの」
「マジ。たのしいです」

アンデイの手が美香の手に重ねられた。

「元気だして」

抱き寄せられた。
アンデイの唇が美香の唇にふれた。


 今日も遊びに来てくれてありがとうございます。
 お帰りに下のバナーを押してくださると…活力になります。
 皆さんの応援でがんばっています。

にほんブログ村 小説ブログ ホラー・怪奇小説へにほんブログ村