葛(くず)と言えば、畑沢では嫌われ者でした。特に杉に絡みつくと杉への日当たりが極端に悪くなるだけでなく、蔓(つる)が幹を捻じ曲げてしまいます。葛はマメ科の植物なので、窒素の栄養素は、自分の根に共生させている根粒バクテリアから調達します。それだけに成長が良くて、絡み付かれた樹木よりも成長力が旺盛です。同じように蔓となる植物でも、藤は花がきれいなので、マメ科植物なのにそれなりに好かれています。また、ヤマブドウも秋に美味しい果実を提供しますし、蔓が篭などの材料になりますので、貴重な扱いを受けています。ところが、葛は飢饉の時に根に蓄えた澱粉が食糧になるぐらいで、通常は何の役にも立ちません。その結果、山林を荒らす悪役扱いです。杉の造林地での手入れでは、葛の除去が大きなウエイトを占めています。畑沢では、「くず」とは発音せずに、「くぞ」と発音されています。しかし、7月30日に背中炙り峠古道で、葛の花に出くわしてしまいました。敢て近づこうという気持ちがありません。それでも初めて葛の花をま間近に見ることができました。
よく見ると、葛の花は藤の花とは全く逆に咲いています。藤の花の房は垂れ下がって、上から順に咲いていきます。ところが、葛の花の房は力強く上に向って立ち上がっています。そして、下から順に咲いています。藤の花のように垂れ下がるのは、重力に逆らわない自然で省力的な方法のようですが、葛は全く逆に進化したようです。スビタレにはできない力強い生き方です。とても「くぞ」などと軽蔑されるような植物ではないような気がしてきました。
さらに、よく見ると花弁は毒々しいとも言えるぐらいの色です。たくましい生命力が感じられます。これほどのふてぶてしさを私は持ち合わせていません。もしも、私が葛ほどの度胸があったならば、…。いや、そのようなことはありようがありません。
一つ思い出しました。葛は役に立っていました。私たちの子供時代には、牛や山羊を草が生えている所に連れて行き、紐を鉄の棒などに縛り付けて、勝手に草を食べさせていました。その時、葛が生えていると牛や山羊は喜んで葉を食べていたような気がします。葛は窒素分を多く取り込んでいますので、タンパク質をより多く持っていたのかもしれません。動物たちには素晴らしい食糧だったのでしょう。