Hei!(「ヘイ」って読んで「やあ」って意味)~義務教育世界一の秘密

義務教育世界一の国の教師養成の実態を探る旅。フィンランドの魅力もリポート!その他,教育のこと気にとめた風景など徒然に。

教育の本質をあらわす言葉~培う

2007年05月30日 | Weblog
日本の言葉には,とてもいいものがある。今日は,教育の本質を見事に言い表している言葉を取り上げよう。「培う(つちかう)」だ。

「培う」①草木の根に土をかけて育てる。培養する。〈文明本節用集〉
    ②能力や性質を養い育てる。育成する。「学力を―・う」「向上心を―・う」(広辞苑・第五版より)

一般には①の意というより,むしろ②の意で使われることが多いだろう。広辞苑で例に挙げられたように,「学力を培う」「向上心を培う」また「感性を培う」など。しかし,①の意にこそ,この語のそもそもの成り立ちが示されているという。

そう教えてくれた先輩によると,漢字としての「培」の成り立ちは「ものがふくれる,土を乗せかける」である。だから「培う」とは,「草木の根元に土を乗せかけもりあげる」ことから来ているという。また,訓読みとしての「つちかう」の成り立ちは「土で養(か)う」とのこと。

だから,「能力や性質を養い育てる」という意に使われるときも,「土をかける」という行為の意を映しているという。「ただ育てるって言うんじゃないよ」と先輩が話してくれた記憶をざっとたどってみよう。
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草木を生長させるのに,芽や枝やつぼみを無理矢理引っ張り出そうとする人がいますか?もちろん,いないでしょう。ではどうするか・・・そう,根に土をかけ水をやるのです。では,時間がかかるのになぜ土や水をかけるのか。結果を出すには手っ取り早く思われる「引っ張り出す」という無理矢理の行為は,草木を傷つけその命を絶ってしまうからに他なりません。草木はもともと育つ力を持っており,我々にはその「自ら育つ力」がうまく働くように,根に土をかけ水をやるといった,いわば環境を整えることしかできないのです。それが「培う」ことの本質です。

転じて考えれば,人間の育ちでも同様。教師はまず子どもたちが草木と同じように生来育つ力を持っていることよく自覚すること。そして草木の根に土をかけるのと同じように,子どもが自ら学びたいと思えるような内発的動機付けなど指導の工夫をすること。うまくできれば,子どもたちは自ら伸びる存在になるでしょうね。逆にもし子どもに対して「自ら育つ存在」としての眼差しと理解がなく訓練中心の知識注入などをしたとすれば,それは草木の芽や枝やつぼみを無理矢理つかんで引っ張り出すのと同じこと。学ぶ存在としての子どもを殺してしまうに等しいでしょう。「培う」から見えてくる教育のあるべき姿を忘れないようにしたいものですね。
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うまくいかないなぁと痛感することが最近多いが,それでも肝に銘じて工夫をし続けていきたいと思う。
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教員採用試験の推薦制度

2007年05月21日 | Weblog
前回教員採用試験に関することを書いたが,実は今年,京都市教委が面白いことをしている。

http://www.edu.city.kyoto.jp/kyoshokuin/

この大学・大学院推薦制度では,教員として優れた実践力を発揮することが期待できる者を学長が推薦し,第1次試験を免除するという。対象となる校種と教科は小学校,中学校(数学・理科),高等学校(数学・理科・工業(電気・電子・機械・建築・土木))であり,残念ながら現在のところは限られている。しかし,このような方法は結果として優秀な人材の確保につながり,ひいては地域の子どもたちに質の高い教育を保障することにつながると思う。教員志望の大学生・大学院生が教員としての適性や能力を持っているかどうかを知っているのは,彼らの学びの日常を知っている大学の教員に他ならないし,学長名で推薦する以上は本当に適性のある人物を推薦せざるを得ないからだ。

京都市教委では,その他にも社会人チャレンジ推薦制度で「民間企業又は官公庁等」の代表者からの推薦者を受ける社会人枠(小学校,中学校(国語・社会・数学・理科・音楽・美術・保健体育・技術・家庭・英語),高等学校(国語,数学・理科・英語・工業(電気・電子・機械・建築・土木))養護教員)を設けるなど,これまでとは違ったユニークな選抜が行われる。京都市だけでなく他の自治体でも,これまでの前例にとらわれない柔軟な対応で優秀な教員を採用して欲しいものだ。
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広島県教委・広島市教委の英断

2007年05月19日 | Weblog
広島県教委・広島市教委が,今年度の教員採用試験のやり方の変更を発表した。変更の要点は下記のように3点,英断だと思う。

Websiteには次のように掲載されている(5/11更新最新版,以下引用)。
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●広島県・広島市教員採用試験が変わります!

■その1■大学院等で修学している場合,修了まで採用を1年延期できます!

 すでに教員免許を所有している方が,広島県・広島市教員採用試験を受験し,採用候補者として名簿登載された場合で,本人が大学院等(*)で修学されているときには,その修学を継続できるよう,名簿登載期間を1 年間延長できることとします。
(*)大学院等には,国内大学の研究生,科目等履修生,海外の大学・大学院での修学を含みます。

   ↓

大学院等で高い知識や技能の習得に取り組みながら,広島県・広島市の教員採用試験にチャレンジ。名簿登載となれば,許可を得て,1年間名簿登載期間を延長。安心して勉強を続けることができます。

■その2■今年度の第2次試験受験者は,来年度の第1次試験を免除します!

今年度実施の広島県・広島市教員採用試験において,第1次選考試験に合格し,第2次選考試験を受験した方が,来年度,同一校種・教科を受験する場合,第1次選考試験が免除され,第2次選考試験から受験できます。

   ↓

第2次選考試験に向けて,じっくり実践的指導力の向上等に力を注ぐことができます。

■その3■今年度の採用試験では,「小論文」を行わないことにしました!
今年度実施の広島県・広島市教員採用試験では,これまで第1次選考時に実施していた「小論文」(90 分)を行いません。
また,「教職に関する専門教育科目」の試験時間を80 分から100 分に拡大します。

   ↓

時間にゆとりをもって試験に臨むことができるようにしました。

* 詳しくは,「平成20 年度広島県・広島市公立学校教員採用候補者選考試験受験案内」をご覧ください。
(お問い合わせ)広島県教育委員会事務局管理部教職員課(電話082-513-4924)
広島市教育委員会事務局学校教育部教職員課(電話082-504-2199)
(引用ここまで)
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何が英断かって,「例年」に変更を加えたことそのものにもあるが,何より一番は■その1■,教員(候補者)としての学びを保障するように配慮したことだ。教員採用試験の合格者が既に教員免許を持った人物で,かつ現在国内外の大学院や大学の研究生,科目等履修生として学んでいる場合,名簿登載期間を1年間延長できるという。

これはつまり,教員としての専門性を高めるための大学での学びを,就職との板挟みで途中退場しなくっていいってことだ。進学をあきらめずにしっかりと学び,教員としての基礎学力をさらに高めてから教員になって欲しいとのメッセージと前向きに捉えることもできるだろう。県教委は「全国でも初めての試み」としているが,団塊の世代が大量退職することに対応した優遇措置などと斜めに見るのではなく,積極的に評価したい。

「大学の学びなんて教員の資質に関係ないよ,現場の数とか経験とかがモノを言うんだ」っていう人もいるだろう。しかし本当にそうだろうか。教職経験の豊富さとその蓄積は多くのことを教えてくれるが,だからといってそれだけを頼りに判断するのは偏っており,そんな教育者は残念ながら子どもに対する見方が狭く対応の引き出しが少ないと言わざるを得ない。教育学や心理学によって人間を知り,教科教育法などによって人間をよりよく変化させる教科固有の方法や内容を知ることは教員にとっての基礎学力であり,その高さは厳しく問われなければならないだろう。現場主義の先生が批判する大学の「理論」は,決して現場と無関係なのではない。過去や現在の現場の事例や経験から導き一般化されるとともに,新たなる事例の検討と修正を繰り返して到達した智慧の体系であり,数人数十人の経験の蓄積とは比較にならないほどの膨大な情報と厳しい検証によって成立していることを忘れてはならない。

もちろん目の前の子どもたちはいろいろな意味で個性的であり多様そのものだ。だから一般論を全ての子どもに一律適用することはできない。求められていることは,理論で明らかにされた傾向を知り十分にふまえつつも他方でそれに縛られすぎず,実践現場の複雑さに合わせた適用・変化をさせていくこと,目の前の事実をふまえた個別の細やかな対応を行うことに他ならない。私は世界から注目されるフィンランドの子どもたちの学力の高さはこのような教育実践によって支えられていると見るが,今年発表された広島県教委・広島市教委の英断は,これらを日本において実現する一つの支えになってくれると思う。
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