詩人PIKKIのひとこと日記&詩

すっかりブログを放任中だった。
詩と辛らつ日記を・・

ロープ 戦場の生命線

2021年05月18日 | 映画

1995年、停戦直後のバルカン半島。ある村で井戸に死体が投げ込まれ生活用水が汚染されてしまう。それは水の密売ビジネスを企む犯罪組織の仕業だった。国籍も年齢もバラバラの5人で構成される国際援助活動家“国境なき水と衛生管理団”は、死体の引き上げを試みるが、運悪くロープが切れてしまう。やむなく、武装集団が徘徊し、あちこちに地雷が埋まる危険地帯を、1本のロープを求めてさまようが、村の売店でも、国境警備の兵士にもことごとく断られ、なかなかロープを手に入れることができない。そんな中、一人の少年との出会いがきっかけで、衝撃の真実と向き合うことになる……。

キャスト
ベニチオ・デル・トロ『ボーダーライン』/ティム・ロビンス『ショーシャンクの空に』/オルガ・キュリレンコ『007/慰めの報酬』メラニー・ティエリー『海の上のピアニスト』/フェジャ・ストゥカン/セルジ・ロペス
スタッフ
監督・脚本:フェルナンド・レオン・デ・アラノア/原作:パウラ・ファリアス/撮影:アレックス・カタラン・A.E.C/美術:セザール・マカロン/編集:ナチョ・ルイス・カピヤス/音楽:アルナウ・バタレル
ロープ 戦場の生命線
それは、紛争地帯のありふれた一日。豪華オールスターキャストで描く、停戦直後のバルカン半島。国際援助活動家たちは、そこで何を見たのか!
1995年、停戦直後のバルカン半島。ある村で井戸に死体が投げ込まれ生活用水が汚染されてしまう。それは水の密売ビジネスを企む犯罪組織の仕業だった。国籍も年齢もバラバラの5人で構成される国際援助活動家“国境なき水と衛生管理団”は、死体の引き上げを試みるが、運悪くロープが切れてしまう。やむなく、武装集団が徘徊し、あちこちに地雷が埋まる危険地帯を、1本のロープを求めてさまようが、村の売店でも、国境警備の兵士にもことごとく断られ、なかなかロープを手に入れることができない。そんな中、一人の少年との出会いがきっかけで、衝撃の真実と向き合うことになる……。

パリの窓から : ワクチン・薬品をビッグファーマから取り戻そう

2021年05月18日 | 情報


 第76回・2021年5月18日掲載

ワクチン・薬品をビッグファーマから取り戻そう


*サノフィの従業員のデモ「薬品は商品ではない。健康は投資の製品ではではない。闘う従業員たち」

 

 フランスは新型コロナによる3度目のロックダウン(2度目のゆるい制限)の制限を5月3日から徐々に解除し、19日以降は劇場・映画館、美術館、商店、テラスが再開する予定だ。第3波の初期に学校閉鎖など厳しい制限措置を施行した国々では、フランスに先立ち解除が始まっている。英国変異種による感染の凄まじい波及に昨年末から見舞われ、多数の死者を出したイギリスでは、感染と死亡者数が激減した。

 ヨーロッパ諸国はそれぞれ感染の広がった時期や制限措置が異なるので比較は難しいが、イギリスの特徴は、制限措置と同時にワクチン接種のスピードが際立って速かったことであり、それが急速な感染後退に影響したとみられる。5月14日現在、イギリスで少なくとも1度ワクチン接種を受けた人の割合は人口の53,5%(2度終わった人は29%)、続くドイツが36,3%でフランスは29,2%だ。46,7%のアメリカ合衆国(2度は36%)でも感染は同様に激減したが、イギリスでは毎日の新たな感染者数が、感染者や死者数が桁違いに少ない日本より減ったほどだ(英国公衆衛生局PHEの調査によると、1度の接種でも症状を60〜65%抑えられ、家庭内感染などがかなり減るという)。

 ワクチンに関しては様々な問題がこれまで指摘されているが、新型コロナによる急速な開発・製造はワクチンをはじめ医療品がいかに大製薬企業(ビッグファーマ)の利益追求と大国(経済力がある国)の支配下におかれているかをあらわに示した。昨年9月すでに、欧米など金持ちの国(世界人口の13%)は、まだ試験中のワクチンの半分以上の量を予約購入した。貧困と闘うONEというNGOによれば、今年の3月までに、アメリカ合衆国、イギリス、EU、オーストラリア、カナダ、日本は、30億回分以上のワクチンをキープした(必要な量を10億回分超える)。残りは25億回分で、貧乏な国の多数の住民は今年中に接種を受けられない。世界じゅうのあちこちにワクチン接種を波及しなければ、パンデミックは収まらない(より強力な変異種がどんどん生まれる危険性)のに、金持ちの国々は愚かなエゴイズムからワクチンを買い占めたのだ。


*街中の薬局が歩道に設置した抗原検査用テント。予約なしで30分以内に結果が出る。PCRより信頼度は低いがこれも無償。

 この不平等を想定し、2020年5月に世界各地の(元)政治家や国際機関関係者、学者など130人がWHOの会合を前に声明を発表した。WHOの指導・管理のもと、新型コロナの検査、ワクチンや治療薬を万民が速やかに無償で受けられるように、各地の科学研究の成果やテクノロジーを共有し、富裕な国が資金を提供し、特許を放棄せよという内容だ。しかし、強国は貧しい国92か国の人口のたった2割分のワクチン購入援助(つまりビッグファーマへの支払い)の機構Covaxを作っただけで、特許やワクチンを買い占めた。南アフリカ共和国とインドは10月2日、WTO(世界貿易機関)でコロナ用ワクチンの特許の一時的放棄を要請した。昨年末にはアムネスティーやオックスファムなど国際NGOもワクチンの特許放棄、テクノロジーと製造ノウハウの共有を製薬会社と強国に求め、国際署名や汎EU署名が始まった。今年の1月にはルーラなど南アメリカの政治家、アミナタ・トラオレなどアフリカの政治家、フランスのジャン=リュック・メランションなどが同じ呼びかけを行い、3月初めにWHOの事務局長もワクチンの一時的放棄を呼びかけた。

 しかし、ビッグファーマはさることながら、欧米や日本など強国はずっとそれに反対し続けている。したがって、5月5日に特許の一時的放棄を呼びかけたアメリカのバイデン大統領の発言は、「革命的」と評されたほどだ。翌日、WHOとEU、国内でも特許放棄に反対し続けてきたフランスのマクロン大統領と閣僚は突然、「バイデンの提案に好意的」と前日までの立場をひるがえしたが、これは国内向けのいつもの虚言パフォーマンスにすぎない。続くEU首脳会議では、ワクチン開発と接種実践の勝ち組である英米がワクチンの流通を止めていると批判し、「賛同するが特許放棄では問題は解決できない」と、実は自国の巨大製薬企業サノフィ(コロナ用ワクチンはまだ作れていないが)を代弁する論理を展開した。ドイツのメルケル首相も(ビオンテックがワクチンに成功しただけに、より正直に)自国の製薬企業を代弁して反対したので、EUで特許放棄は進まない。(ふだんアメリカに追随する日本政府は、ワクチンの特許放棄についてどんなコメントをしたのだろうか。)

 特許放棄だけでは世界じゅうにワクチンが行き渡らないのはたしかで、レシピだけでなく製造ノウハウの細かい部分まで伝達し、各地の工場で急いで生産体制を整えなければ、十分な量のワクチンはつくれない。しかし、「特許を放棄したら今後、研究開発資金が出せない」というビッグファーマや強国の政府の言い分は、「盗人たけだけしい」と言わざるをえない。ファイザー=バイオンテックのワクチンはドイツのスタートアップの成功物語として紹介されたが、バイオンテックはドイツの公費3,75億ユーロ以上、欧州投資銀行から1億ユーロ以上の投資を受けた。モデルナはアメリカ国立衛生研究所NIHの機構を利用し、アメリカ生物医学先端研究開発局BARDAから9,53億ドルを受けた。アストラゼネカ(イギリスの製薬企業)のワクチンはオックスフォード大学の研究機構と、アメリカ生物医学先端研究開発局BARDAの10億ドル超の出資から生まれた。そして何より、mRNAにせよベクター型にせよ、昨年3月のWHOのパンデミック宣言後、急スピード(8か月)でワクチンが開発できたのは、公共研究機関による20年来の研究開発のおかげなのだ。アメリカ国立衛生研究所NIHだけでも20年間に172億ドルを研究に投じたと、科学雑誌「ワクチン」の今年4月の記事が述べている。

 一方、ビッグファーマはここ10年以上、自ら研究に資金を投じるよりスタートアップなどが開発した薬品やワクチン、検査の特許を多額で買いあさり、それを人件費の安い国の工場で製造して利潤を上げることに力を注いできた。フランスのサノフィもその典型的な例だ。

 元は石油会社エルフの子会社(衛生・健康部門)として1973年に設立されたサノフィは、1928年創立のローヌ・プーランクを吸収したアヴァンティスと2004年に合併した。フランスのワクチンや薬品研究・開発の歴史的2大リーダーは、パスツール研究所(1888年創立)とメリユー研究所(1897年創立)である。経営困難に面したパスツール研究所は1960年代後半に国の援助を受けて製造部門を分けて設立し、その会社は1970年代からサノフィの傘下に入った。一方、メリユー研究所は1967年にローヌ・プーランクの傘下に入り、ローヌ・プーランクは経済的困難を1982-1992年の国営化によって切り抜けた。こうして経営困難時は国のおかげで存続できたメリユーとパスツール研究所のノウハウを、買収・合併を経てサノフィは手中に収め、世界各地に研究所と製造工場を持つ有数のビッグファーマになった。

 ところが、そのサノフィはいまだ新型コロナのワクチン製造に成功していない。それもそのはず、2009年からこの多国籍企業は研究開発部門を縮小し続け、フランス国内の研究者数は6200人強から半数以下になったのだ。モンペリエに2012 年に完成した新しい研究所は一度も使われずに5年後に壊され、研究・開発の数も薬品の数も減った。儲からない研究と薬品はとりやめ(雇用削減)、特許購入や買収でサノフィの利潤と株主配当は増え続けた。

 破廉恥なことにサノフィはその間、国から「研究助成金」を毎年1,2〜1,5億ユーロ受け続けたのだ。昨年はコロナ危機にもかかわらず、トランプがコロナ治療に使った薬などで儲けて前年比340%増、123億ユーロの利益を上げた。新型コロナ用のワクチン開発援助金も受けたが、現在まだ2段階目の試験期間中だ。それでも今年、40億ユーロを株主に配当し、フランスでまた400雇用を削ると告げたので従業員のストが起き、市民団体や野党に糾弾された。ちなみにサノフィは、妊婦が服用すると子どもに奇形や早期神経発達障害などの疾患が起きる抗てんかん薬のデパキンを、1980年代からその事実を知りながら隠して売り続けた。被害者家族が長年をかけてようやく訴訟を勝ち取り、サノフィは有罪を言い渡されたが非を認めず、賠償金の支払いを拒否して上訴した(cf.『裏切りの大統領 マクロンへ』フランソワ・リュファン著、拙訳)。

 その間、国は大学の研究所や公共機関への予算をどんどん削ったため、雇用が稀で給与が低いフランスから多くの若い科学者が国外に流出した(昨年ノーベル化学賞を受けたフランスの女性科学者も、自国では自分がしたい研究ができないので外国で働き続け、現在はドイツ)。また、2003年のSARS以降、フランスの公共機関でコロナウイルスを研究していた科学者は、近年予算を得られなくなって研究を中断せざるをえなかった。ドイツのSARS共同発見者のドロステン氏(ベルリン、シャリテ大学病院)は、新型コロナのPCR検査を最初に開発し、第1波の速やかな対応に貢献したが、フランスはPCR検査もすぐに開発できなかった。

 つまり、検査やワクチン、薬品の開発・発見の多くは、公共機関による長年の基礎研究を土台にして生み出されるが、商品化された後の利益は特許によって高い製品を売るビッグファーマが取得し、株主が潤う。彼らは公共の助成金を受けるのに、ワクチンや薬品の成分や原価を明かさない。ワクチンや薬品は健康保険で還付されるが(フランスでは新型コロナのPCR検査やワクチンは還付100%で無償)、私たちは実は公共予算(税金)と健康保険(分担金)をとおして、製薬企業に二重に支払っていることになる。そして、サノフィのように薬品の害が立証されて有罪になっても、被害者の救済を国(つまり私たち)に押し付けようとするのだ。

 3月にワクチンの一時的特許放棄を呼びかけたWHOの事務総長は5月14日、大人へのワクチン接種を終えて子どもに接種を始めようとする金持ちの国々に対して、その分のワクチンを貧しい国(医療スタッフ用ワクチンさえ不足)に譲ってほしいと訴えた。そして各地にワクチンが行き渡らない限り、新型コロナによる今年の死者は昨年を超えるだろうと警鐘を鳴らした。フランスでは1959年まで、ワクチンは特許の対象ではなかった。「公益」という公衆衛生の原理と倫理は、資本主義と市場経済の圧倒的な成長の中で忘れ去られたのだ。

 健康と公衆衛生は、万民が享受できる権利のはずだ。したがってこの部門は、利潤追求だけが目的の市場経済から除外すべきではないだろうか。コロナ危機は、必要な検査、薬品、反応体、ワクチンなどを自国で供給できない現代の資本主義体制の欠陥をあらわにした。また、特許などによる薬品・ワクチン価格の異常な上昇により、C型肝炎など治療薬が高価すぎて、健康保険ですべての患者を治療できないという問題が起きている。この状況に対して、「薬品政策の透明性監視局」というNPOは、「公共薬品局」を設け、開発・製造と価格をコントロールすべきだと主張している。左派野党「屈服しないフランス」の政策綱領にも「公共薬品局」の設置が含まれているが、私たちは破廉恥な略奪者のビッグファーマの手中から、医療品を取り戻す時に来ているのではないだろうか。

 2021年5月17日 飛幡祐規

 

「日本が売られる」って、どういうこと? ジャーナリスト・堤未果さんが指摘する、民営化と規制緩和のワナ

2021年05月18日 | 日本低国

発行部数20万部に迫るベストセラー『日本が売られる』(2018年、幻冬舎新書)。毎日目まぐるしく流れるニュースの陰で粛々と進められている法改正や規制緩和が、社会の在り方やわたしたちの暮らしを根本から変えてしまいかねないことを本書は指摘する。「このままでは、わたしたちが当たり前のように享受していた公共の資産やサービスに値札がつけられ、お金がないと買えない『商品』になってしまいますよ」と話すのは、本書の著者で国際ジャーナリストの堤未果さん。今、日本で何が起きているのだろうか。

個々を追うだけでは見えない全体像

――『日本が売られる』では、水、土地、種子から教育、医療まで、18にも及ぶテーマを挙げて、次々に改正される法律や規制緩和について論じています。これだけたくさんのテーマを1冊にまとめようとしたのはなぜですか?

 初めはいくつかのテーマに絞って書くつもりだったのですが、途中で構成を変えたんです。というのも、ここで取り上げたテーマはすべて、根っこがつながっているからです。その背景には、国境を超えて市場拡大を進めるグローバル企業群と投資家、そしてそこに忖度する政府、という構図がある。そこをまず理解してもらうのが先だ、と気がついたので。

――すべてが、ですか?

 そうなんです。なかなか分かりにくいのですけどね。食とか医療とか、個別の問題については関心が高くても、テーマをまたいで考えてみる人は意外と少ないですから。個々に追っているだけでは、全体像がなかなか見えてきません。

 このまま木ばかりを見て森を見なければ、気づかぬうちにわたしたちの暮らしが足元から崩されてしまう。そんな危機感から、一つの現象を、過去からの流れや他の国での事例などと比べながら、点と点をつないで線にし、面にし、立体にして、今起きていることが本当は何を目指した流れなのかを示したいと考えました。

日本が売られる

写真=深澤慎平

根っこの思想は、「今だけ、カネだけ、自分だけ」

――すべてのテーマをつなぐ全体像とは、どういうものですか?

 一言で言うと、「国家まるごと民営化」ということです。

 水や医療、農業、食といったわたしたちの命や安全・安心を支えている公共の資産やサービスが、四半期利益や株主利益を優先するグローバル企業に切り売りされている。本来国民の命や暮らしを守る立場にある政府が外資を中心にした大企業や投資家に忖度し、それを次々に実行しているのです。

――それは聞き捨てなりませんね。もう少し詳しく説明してください。

 これまでは公的資産やインフラは、国民全体に漏れなくその恵みが分配されるように、法律や規制によって市場原理や競争から守られてきました。

 ところが一方で、これらは枯渇すればするほど高い値段がつく、まさに理想的なビジネスモデルでもあるんです。だって、生きるために必要なのだから、人は高い値がついても手に入れようとしますよね。そこにグローバル企業が目をつけた。

 相次ぐ法律の改正や規制緩和は、グローバル企業に背中を押された政府が、企業のためのビジネスしやすい環境を整えているということなのです。

堤未果さん

写真=深澤慎平

――なるほど。そうした全体像が分かってくると、個々の問題の見方も変わってきますね。

 それがこの本の狙いでした。今目の前で起きていることだけでなく、このビジネスモデルがどうやって生まれ、世界各地にどう広がって行ったのかを時系列で見てもらう。そしてその根底にある「今だけカネだけ自分だけ」の価値観が暴れまわる中、日本が置かれている危機を、一人でも多くの国民に気づいて欲しかったのです。

世界の流れに逆行し、「水道民営化」にかじを切る日本

――2018年12月には「改正水道法」が成立しましたね。政府は「民営化ではない」と言っていますが、どうなのでしょうか。

 今回の改正は、自治体が公共インフラである上下水道などの施設を所有権したまま、運営権(通常15~20年)を民間企業に売却するという、民営化の一つの形である「コンセッション方式」の導入を促進する内容です。

 コンセッション方式は、すでに2011年に水道事業を含めたさまざまな公的事業で可能でしたがなかなか進まなかった。そこで改正水道法では、災害時の水の安定供給の責任は自治体が負う、届けさえ出せば厚労省の認可なしで企業が水道料金を変更できるなど、民間企業にとってより都合がよい形にして、導入しやすくしたのです。

――民間企業の参入は増えると思いますか?

 はい。すでに大阪市、奈良市、宮城県(県と村田町)、静岡県(伊豆の国市)、浜松市などが、上水道にコンセッション方式導入に動き始めています。2018年6月には「コンセッション方式を導入した自治体には地方債の元本一括返済の際に最大で利息の全額を免除するという改正PFI法(※1)も公布されましたから、今後コンセッション方式を導入する自治体は増えてゆくでしょう。

水道の蛇口

写真=happyphoto / PIXTA(ピクスタ)

――先に水道事業を民営化した海外の自治体では、再度公営に戻すという動きが見られると聞きました。民営化の何が問題だったのですか?

 世界各地で水道民営化の動きが広がったのは1990年代ですが、水道民営化に関する調査機関PSIRU(公共サービス国際研究所)のデータによると、2000年から2015年の間に、37か国235都市が、一度民営化した水道事業を再び公営に戻しています。民間企業に運営権を持たせたことによる料金高騰や水質悪化、サービスの低下などの問題が次々に出てきたからです。

 中でも最大の理由は、住民のいのちに関わる公共インフラにも関わらず、企業の運営状況を自治体がチェックしきれなくなくなることでした。

 例えば、ボリビアでは2年で35%、オーストラリアは4年で200%、フランスでは24年で265%、イギリスでは25年で300%と、どの地域も料金が跳ね上がっています(※2)。ボリビアでは、採算の取れない貧困地区の水道管工事は行われず、水道料金を払えない住民が井戸を掘ると井戸使用量が請求され、公園の水飲み場も使用禁止になりました。他の地域でも、水質が悪化しようが水道管が老朽化しようが修理は後回しということが起きています。

堤未果さん

写真=深澤慎平

――そんなことになったら、安心して暮らしていけませんね。

 国民に安全な水を供給することを目的とする公営水道と違い、民間企業にとっての最優先事項は、いかにコストを下げ、株主への配当を増やすかということですからね。

 再公営化に際しても、得られるはずの利益を侵害したとして企業側から訴えられたり、莫大な賠償金を請求されたりしています。それでも、公営化に戻したいという自治体が後を絶たない。このことが何を意味するのかを考えないといけません。

※1:民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(PFI法)の一部を改正する法律

※2:ボリビア:the Bulletin of Latin American Research、シドニー:3rd World Water Forum、パリ:Asanga Gunawansa、Lovleen Bhullar、Water Governance、イギリス:Service International Research Unit)

公教育も「売られる」?

――「学校が売られる」というテーマもショッキングでした。公教育もまた、市場開放や規制緩和の対象になっているのですね。

 はい。2013年に、「世界で一番ビジネスをしやすい環境づくり」を目的に成立した国家戦略特別区域法(※3)のもとに展開された規制改革メニュー(※4)の中に、「公立学校運営の民間への開放」も含まれています。

 現行の日本の法律では「公立学校は自治体が運営し、その教育は公務員が行う」と定められているのですが、国家戦略特区内では、教育委員会の一定の関与を前提に、公立学校の運営を民間に開放することが認められます。2019年4月には、大阪市が約60億円をかけて建設し、民間企業に運営を委託した「公設民営」の中高一貫校が開校しました。

学校の教室

写真=EKAKI / PIXTA(ピクスタ)

――公教育に「投資」という概念が持ち込まれると、具体的にはどんなことが懸念されますか?

 公教育は、子どもたちが等しく教育を受ける権利を行使できる場ですよね。そもそも効率とか採算とは別の次元で語られるべきものだと思うのです。

 アメリカの例を見ると、1980年代から「チャータースクール」と呼ばれる公設民営学校を政府が推進し、全米に広がりました。成績の悪い学校は容赦なく閉鎖されてしまいます。そのため、運営側の企業は教員に厳しいノルマを課し、成績を上げられなければ減給や解雇も辞さない。全米教員連盟の調査によると、2008年からの10年間で廃校になった公立学校は4,000校以上、毎年30万人の教員が職場を去っています。うち3分の2はまだ定年前なのです。

堤未果さん

写真=深澤慎平

 効率や利益を優先し、事業のように学校を運営すれば、しわ寄せがいくのは子どもたちです。特別な支援を必要とする障害を持った子どもがチャータースクールへの入学を拒否されたり、廃校になった学校に通っていた子どもが教育難民になるなど、アメリカのリアルな事例を見れば、教育制度や環境は違えども、公教育をビジネスにすることのリスクは容易に想像できるでしょう。

※3:地域や分野を限定することで、大胆な規制・制度の緩和や税制面の優遇を行う規制改革制度に関する法律。

※4:国家戦略特区規制改革メニュー

「売られたもの」を取り返す

――『日本が売られる』の第3章では、グローバル化に対抗する世界各地の取り組みや運動がレポートされていますね。

 わたしたちは、グローバル企業や政府の強大な力を前にすると、つい無力感にとらわれがちですが、世界では奪われたものを市民の力で取り戻そうとする新しい流れが次々に生まれています。ぜひ、そのことを伝えたいと思いました。

 例えば、すでに25年も水道事業を民間に委託していたフランス・パリでは、水質悪化やサービスの低下に市民の不満が爆発して、ついに2009年、市長選で再公営化を公約に掲げた候補を当選させました。再公営化の際には、水道事業を自治体に丸投げするのではなく、市民も当事者として水道料金など重要事項の決定に参加するなど、運営の民主化も図られています。

参考記事:みんなの水が、企業のものになったらどうなる? 「水道民営化」を世界の事例から考える(KOKOCARA)

――アメリカのお母さんたちによる遺伝子組換え食品表示を求める運動「マムズ・アクロス・アメリカ」にも勇気づけられました。

 マムズ・アクロス・アメリカの創設者、ゼン・ハニーカットさんは、もともとアレルギーに苦しむ息子さんたちのために食べ物を調べ始めたことから遺伝子組換えの問題に気づきました。ゼンさんがSNSなどを駆使して呼びかけた結果、今や活動は世界にも広がり、各地に支部ができています。

 マムズ・アクロス・アメリカの活動に参加している女性の一人を取材した時に言っていた、「食べ物を選ぶ権利を守るために大人が声を上げることは、子どもたちが大きくなったときに安心して暮らせる社会を渡してあげるために絶対必要なこと」という言葉に深く揺さぶられました。わたしたち大人が、よりよき社会を次の世代に残すために今すぐできる事があるんだ、と。そこには難しい理屈も国境もない、必要なのは意思だけなんですね。

 これをきっかけに意気投合したゼンと、今では家族で仲良くしていますよ。芯の強い素敵な女性です。マメに連絡を取り合い、女性を中心にこうした問題提起を広げてゆく事について話しています。

 ゼンさんたちの活動に後押しされるように、日本でも市民や国会議員の間で取り組みが始まっています。

参考記事:遺伝子組換え食品から子どもを守る! 全米各地で動き出したママたち(KOKOCARA)

アピール行動する人々

写真=「マムズ・アクロス・アメリカ」ホームページより ©Moms Across America

――協同組合によって食や暮らしの安全・安心が支えられているスイスの事例も素晴らしいですね。

 本当にそう思います。「一人はみんなのために、みんなは一人のために」といった理念を前提とする協同組合なんて、マーケットから見たら無駄だらけでしょう。でもスイスでは、小売業全体の売り上げの半分以上を二つの生協が占め、徹底して国産の農産物を扱うことで、国内の農家を守っている。農家を守ることが自分たちの命や暮らしを守る「安全保障」だと、皆が分かっているからです。

 グローバル企業より協同組合のほうが雇用が20%も増えるというILO(国際労働機関)のデータもあります。これから先、「今だけ、カネだけ、自分だけ」とは対極にある協同組合は、わたしたちが売られたものを取り返すための重要なツールになるでしょう。

自分の足元から、小さなうねりを

――日本に暮らすわたしたちも、グローバル化に対抗するうねりを起こすことができるのでしょうか。

 もちろんです! 私が国内外を取材して確信したことは、人間には欲もあるけれど、同時に、どんな苦しい状況でも、自分のためだけじゃなく目の前で苦しんでいる他者に手を差しのべたり、子どもたちを慈しみ、幸福な社会を手渡したいと望む「よきもの」も持っているということ。そんな場面に出会う度に、暗い世界に植えつけられた自分の中の「ステレオタイプ」が壊される、それがジャーナリストという仕事の、素晴らしさかもしれません。

 最大の敵は特定の政治家やグローバル企業じゃなく、自分たちの中にある「変えられない」という無力感だからです。

 企業を経営する人が、株主配当や利益を優先するのは、ある意味当たり前のこと。でも、わたしたちは選ぶことができる。わたしたちが「買わない」という選択をして、業績が下がり株価が下がれば、企業もやり方を変えざるをえなくなります。

 一人一人が自分はどういう未来を願うのかを真剣に考え、それぞれが自らの足元から小さな変化を起こしていけば、必ず状況は変わるとわたしは信じています。

堤未果さん

写真=深澤慎平

――最後に、わたしたちが日々の暮らしの中でどう行動したらいいのか、アドバイスをお願いします。

 例えば、買い物をするときに、これを買うことが社会に対してどう影響するのかを考える。自分の子どもがこういう成分のものを食べるというのはどういうことか、安い輸入品ばかりを買っていたら地元の小さな農家さんはどうなるのか、考えを巡らせる。単なる消費者ではなく、市民として消費行動をとることです。

 地方の政治に関心を持つことも大切です。水道や種子など生活に密着した問題は、自治体に権限がゆだねられていることが多く、条例でより厳しく規制することもできます。だから、地域の中で顔を合わせて話し合い、市長や県知事、市議や県議に、「わたしたちはこういう社会にしたい」「こういう未来を作りたい」という要望をぜひ直接伝えてください。

 実際、静岡県浜松市では、水道事業にコンセッション方式が導入されようとしていたのですが、市民の運動によって導入が延期されました。ローカルに小さくという運動が、世界でも日本でも結果を出し始めています。

――あきらめなければ、「日本が売られる」流れにブレーキをかけることはできるのですね。

 わたしは、この本のタイトルを『日本が売られた』ではなくて、あえて『日本が売られる』としました。それは、真実を知ることから、違う未来が開けるからです。一瞬一瞬のわたしたちの選択が世界を変えている。いつでも、出発点は「今」なんです。


動画公開 : スリランカ人女性ウィシュマさんの葬儀

2021年05月18日 | 気狂い国家

情報提供 : 高賛侑

 昨日(5月16日)、スリランカ人女性ウィシュマさんの葬儀を取材した映像をユーチューブにアップしました。ぜひご覧ください。

動画(5分43秒)

 今年3月に名古屋入管で死亡したウィシュマさん(享年33)の葬儀が5月16日に名古屋市の葬儀会館で営まれた。ウィシュマさんは17年6月に来日し、日本語学校で学んでいたが、学費を払えなくなり退学。留学ビザが切れたという理由で20年8月に名古屋入管に収容された。その後、急速に体調が悪化したが、点滴さえ受けられないまま3月6日に亡くなった。
 葬儀には遺族や支援者約80人および多数の報道陣が参列した。来日した妹のワヨミさんは「なぜこんなことが。悲しくて耐えられない」と嗚咽しながら、「もう2カ月たったのに亡くなった理由は何も分かっていない」と原因究明を訴えた。日本政府は真相を隠す一方、今国会でさらなる入管法改悪を強行しようとしている。外国人差別政策撤廃の声を!

 

Created by staff01. Last modified on 2021-05-17 12:49:13 Copyright: Default


ルートヴィヒ デジタル修復版

2021年05月18日 | 映画

19世紀、18歳でバイエルン国王に即位したルートヴィヒ2世は音楽家ワーグナーに傾倒し、国の予算を危険にさらすほどの援助を施す。従姉のエリーザベト皇后に恋い焦がれるもその恋は叶わず、彼女の妹ゾフィーと婚約するもこれを破棄。さらに戦争を嫌った彼は前線に弟のオットーを送り出すもののその弟は帰国後、精神を病んでしまう。数々の苦渋に苛まれた彼はいよいよ厭世的になり、美男の従僕たちとの退廃的な暮らしに耽溺。国王の役目を果たさないことに業を煮やした官僚たちは、彼から王位を引きはがそうと画策し始める……。

キャスト
ルートヴィヒ:ヘルムート・バーガー ワーグナー:トレヴァー・ハワード エリーザベト:ロミー・シュナイダー ゾフィー:ソーニャ・ペドローヴァ
スタッフ
監督・脚本:ルキーノ・ヴィスコンティ 撮影:アルマンド・ナンヌッツィ 美術:マリオ・キアーリ 衣装:ピエロ・トージ 音楽:シューマン ワーグナー オッフェンバック
ルートヴィヒ デジタル修復版
巨匠ヴィスコンティが悲劇の大帝ルートヴィヒ二世を描ききる、総尺4時間に迫る超大作!
19世紀、18歳でバイエルン国王に即位したルートヴィヒ2世は音楽家ワーグナーに傾倒し、国の予算を危険にさらすほどの援助を施す。従姉のエリーザベト皇后に恋い焦がれるもその恋は叶わず、彼女の妹ゾフィーと婚約するもこれを破棄。さらに戦争を嫌った彼は前線に弟のオットーを送り出すもののその弟は帰国後、精神を病んでしまう。数々の苦渋に苛まれた彼はいよいよ厭世的になり、美男の従僕たちとの退廃的な暮らしに耽溺。国王の役目を果たさないことに業を煮やした官僚たちは、彼から王位を引きはがそうと画策し始める……。

羽田空路変更から1年2か月。このままでいいのか?!

2021年05月18日 | 情報

羽田空路変更から1年2か月。このままでいいのか?!

動画(1分6秒)

羽田空路変更(昨年2020年3月29日)から1年2か月がたった。私は品川区在住、私の住むマンション(7階)から見ると航空機は斜め上の方向を通る。初めは、本当にびっくりいしたが、自宅の真ん前を国道が走るので、騒音的には気にならなくなった。そして、今は慣れてしまっている自分がいる。

ふと今日、JR大崎駅を歩いていたら、真上を航空機が通過した。しかも、3分間隔でである。新羽田ルートは2ルート(下図)。南風時の時に午後3時から午後7時ぐらいまで新ルートで航空機が羽田空港に進入する。大崎駅上空では、高度約300メートル。車輪が完全に出され、着陸態勢に入っている。高度は、さらに下がりJR大井町駅上空から大田区大森へ。住宅密集地の上空を通過し羽田空港に着陸する。
↓羽田新空路(2019年3月29日~)

↓羽田旧空路

今、改めて感じる。空路の真下ではとても怖い、とてもうるさい。そして重要なことは、コロナがあけたら国際線が再開され、こんなもんじゃなくなるということだ。なぜ、コロナで本数が減っているはずなのに、むりやり新空路を飛ばしているのか。やはり、羽田新空路は再検討すべきだ。7月4日に都議会議員選挙がある。この問題を政策に掲げない政党には、都政を語る資格はない。(湯本雅典)

 

 

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おおキューバ!異郷の駅前食堂 愛媛&キューバ 2つの異郷を放浪の旅 2021年5月13日

2021年05月18日 | キューバ!

【毎週木曜 よる9時00分 BS朝日で放送】 愛媛・内子駅 ◎歴史的な街並みが残る愛媛県の内子駅。路地裏を抜けると、目の前に巨大な木造建築が。いったい何でこんなに大きな建物がここにあるのか?実はこの街、昔ある産業ですごく栄えたのだという。その産業とは? ◎店先で、昔ながらの焼き方で魚を焼いている男性を発見。巧みな話術で試食させてもらうことに成功したヒロシさん。この地方の郷土料理の珍しいお寿司や惣菜を一緒に購入、店内の一角は豪華な食卓状態に… キューバ・11月19日駅 ◎キューバ・ 11月19日駅は、ラテンアメリカ最初の鉄道路線開業日が、その名前の由来。通りで見かけたキューバ革命前から走る、古いアメ車にヒロシさんも大興奮! ◎首都のど真ん中なのに、お店らしいお店が何一つ見つからない…街には食堂の看板が全く見当たらないという普段とは違う大ピンチにヒロシさんがとった作戦は?

【BS朝日】迷宮グルメ異郷の駅前食堂
それは遥か遠くへの独り旅…日常生活からの逃避行。異世界への放浪の旅を、木曜の夜にお届けします。
世界の鉄道で旅をして、ふらりと降りた駅前の絶品グルメを異郷で探すふれあいの旅。 言葉もわからない土地で、ジェスチャーと勘だけで地元の人に愛される駅前食堂を探し、 人生で味わったことのない美味いモノと、人情に出会います。
【BS朝日】迷宮グルメ異郷の駅前食堂
それは遥か遠くへの独り旅…日常生活からの逃避行。異世界への放浪の旅を、木曜の夜にお届けします。
世界の鉄道で旅をして、ふらりと降りた駅前の絶品グルメを異郷で探すふれあいの旅。
言葉もわからない土地で、ジェスチャーと勘だけで地元の人に愛される駅前食堂を探し、
人生で味わったことのない美味いモノと、人情に出会います。