ニューズウィークによると、スーパーコンピュータの競争相手は、量子コンピュータではなく、分散コンピュータであるという。Folding@homeというプロジェクトで、新型コロナウィルスの解析で70万人の技術者やプログラマーが参加し、富岳の6倍の速度で計算したという。ただ、分散処理でよければの話で、実時間処理ではやはり量子コンピュータがスーパーコンピュータを駆逐するのは明白。しかし量子コンピュータが実用化されるにはまだ時間がかかる。というわけで、ここしばらく現在の方式のスーパーコンピュータの必要性が高まるばかりで、その中、米中スパコン戦争が過熱する中、「富岳」突出した成果を出し、その結果、今後のスーパーコンピュータの開発においては、日英共同開発の可能性出てきたのではないかと解説している。なぜかというと、富岳のプロセッサーは、ソフトバンク傘下のイギリスのARMコンピュータのアーキテクチャを使っているから、日英共同開発と想起したという。
「ものづくり日本」の底力を世界に示した意義は小さくない Reuters-YouTube
[ロンドン発]米中が世界一のスーパーコンピューター開発にしのぎを削る中、スパコンの性能を比較する専門家プロジェクト「TOP500」の計算速度ランキングで日本の新型機「富岳」が世界一を達成した。昨年運用を終えた理化学研究所計算科学研究センター(神戸市)のスパコン「京」が2011年に世界一になって以来9年ぶりの快挙である。人類の科学技術がいかに進もうとも超高層ビルが天に届かないのと同じように半導体の微細化も限界に近づきつつある。「半導体の集積率は1年半ごとに2倍になる」というムーアの法則の終わりが囁かれる。グーグルは昨年10月、最先端スパコンが約1万年かかる問題を量子コンピューターが3分20秒で解き「量子超越性」を証明したと発表した。
スパコンのライバルは研究開発中の量子コンピューターだけではない。米ワシントン大学医学部に拠点を置く分散コンピューティング・プロジェクト「Folding@home」は4月13日、世界トップ500のスパコンの演算能力を合わせたよりも速い2.4エクサフロップスを達成したとツイートして世界を驚かせた。
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「Folding@home」はインターネットで世界のパソコン利用者の余っているCPU(中央処理装置)やGPU(グラフィックス処理装置)をつないで活用するプロジェクト。新型コロナウイルスと闘うため構造を解明するのを手伝ってと呼びかけたところ、4月3日時点で、モンスターのようなパソコンを自宅に設置するゲーマーら約70万人が参加した。
スパコンはなぜ必要か
スパコンの世界では「エクサスケール」を実現することが大きなメルクマールとされる。単位は1000倍になるごとにキロ、メガ、ギガ、テラ、ペタ、エクサと変わっていく。1エクサフロップスは1秒間に100京回の浮動小数点演算が可能なことを示す。スパコン「京」の名前は1京回(10ペタフロップス)の演算を達成したことに由来する。
「富岳」の演算性能は1エクサフロップスの半分に満たない415.53ペタフロップス。「Folding@home」の約6分の1に過ぎない。
スパコン開発には莫大なカネがかかるが、膨大なデータをリアルタイムで処理しなければならない天気予報などには不可欠だ。一方、低予算の分散コンピューティングはインターネットを使った通信に時間がかかり、合計した電力消費量も多い。量子コンピューターの実用化はまだこれからで、用途が限られている。それぞれ長所と短所を抱えている。
国費だけで1100億円もの開発費をかけた国家プロジェクト「富岳」の世界一にはどんな意味があるのだろう。次の「TOP500」が発表される時には「富岳」は世界一の座から引きずり下ろされている可能性が高いものの、衰えが隠せない「ものづくり日本」の底力を世界に示した意義は決して小さくない。
米中のスパコン開発にはサイバー空間を行き交う情報の暗号化や解読技術の獲得、核兵器の近代化や貯蔵という国家安全保障上の活用が念頭に置かれている。しかし日本のスパコン開発は以下の平和利用に限定されている。
(1)健康長寿社会の実現(革新的創薬、統合計算生命科学)
(2)防災・環境問題(地震・津波、気象・地球環境)
(3)エネルギー問題(エネルギー創出・変換・貯蔵、クリーンエネルギー)
(4)産業競争力の強化(新機能デバイス・高性能材料、革新的設計・製造プロセスの開発)
(5)基礎科学の発展(宇宙)
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単純化して言うと、演算能力が倍になれば創薬や新素材、新製品の研究開発スピードも倍になり、「ものづくり日本」の研究開発力は倍化する。ウイルスのタンパク質の構造を正確に把握できれば、ワクチンや治療薬がどのような条件でよく働くかを知ることができる。パンデミックのように時間が限られている時ほどスパコンは威力を発揮するのだ。
ソフトバンク傘下の英ARMの貢献
筆者は英国に暮らしているので、ソフトバンクグループが2016年に買収した英半導体設計大手ARMの果たした役割にも注目したい。
ARMは性能が増しても回路の複雑さを増やさない設計で消費電力を抑え、携帯電話の普及とともにシェアを拡大してきた。スパコンにも進出し、「富岳」にもARMの設計が採用された富士通のプロセッサーが使われている。
「富岳」の演算能力は2位サミット(米IBM)の約2.8倍。コア数はそれぞれ729万9072個と241万4592個で3倍の開きがある。コア数が勝負を分けたと言っても差し支えあるまい。業界関係者は「富岳は世界一の性能を28メガワットで実現した。これを分散コンピューティングで行った場合100メガワット程度の電力が必要になる」と指摘する。
第二次大戦で解読不可能とされたナチスドイツのエニグマ暗号機を解き明かし、コンピューター開発の扉を開いたのは英国の数学者アラン・チューリングだ。新型コロナウイルスのワクチン開発のスピードを見ても、英国の大学力と研究開発力は突出していることが分かる。
グレート・デカップリング(米中分断)が急激に進み、新冷戦の様相が強まる中、「富岳」は日本のスパコン技術やプロセッサーが世界レベルを維持していることを示した。また米国の重要なジュニアパートナーである日英の技術が融合してスパコン世界一を達成したことは、両国の技術協力の未来を開く可能性としても注目される。