そもそも、彼女を自分たちの家に引き取るとは何たる大胆さというか、軽率さであろうか。かの大金のたとえ一部でも着服したのが真実ならば、その金を使うことにより彼らの犯罪が明るみに出てしまう危険があるというのに……。
「あの人たちは完全に頭がおかしいんだわ」と彼女は考えた。「そうでなければ、私は目が見えず、耳も聞こえず、この地上で生きている誰よりも騙されやすい人間だと思っているのよ」
次に、何故彼らはあれほどまでに息子のギュスターブ中尉と彼女を結婚させたいのだろうか?
「一件が露見した場合に備えて防御方法を準備しているのかしら?」
フォンデージ夫妻に警戒心を起こさせてはならない、と彼女は心配していた。抜け目ない人間であれば、負債をそっと目立たないように返済してしまうことなど何でもない。そして殆ど目につかぬようなやり方で出費を増やして行くことも容易なことであろう。
しかし、やがて起きた出来事で、彼女の不安は雲散霧消することとなった。この日、日曜日であるにも関わらず、金を孕んだ雲が『将軍』邸の上ではじけたのであった。午後いっぱい、マダム・レオンの言葉を借りると、玄関の呼び鈴は鳴りっぱなしで冷める暇もないぐらいであった。あらゆる種類の業者が引きも切らず押しかけてきた。あたかもフォンデージ氏が彼の債権者全員に召集命令を出したかのようだった。やって来たときの彼らは怒りも露わに傲慢な態度で、帽子を脱ごうともせず、突慳貪で、自分の貸金は返って来ないものと半ば諦めているが、それでも支払いを無作法に求める人間のそれであった。彼らはサロンに居る『将軍夫人』の面前に案内され、五分か十分そこに留まり、帰るときは晴れやかな顔で口元には卑屈な笑みを浮かべ、背中は輪のように丸くし、帽子は床を掃くほどに低く持った姿勢であった。つまり、彼らは支払いを受けたのだ……。そしてまさにマルグリット嬢に確証を与えるかのように、貸し馬車の経営者に支払いを済ませる際、彼女はその場に立ち会ったのだった。フォンデージ夫人が彼を迎えたときの高慢な様子はちょっとした見ものであった。
「ああ、あなたね!」彼が現れた途端、彼女はこの上なく無礼な調子で叫んだ。「あなたのところの御者たちにお客を侮辱するようにと教育しているのは! まぁほんとに、上得意を開拓するにはもってこいのやり方だこと! 私どもでは一頭立ての馬車を月極めで契約していたわね。ある日、私が二頭立ての馬車に乗るからって、差額を要求するってどうなの!そんなに信用できないんなら、前払いにしたらいいじゃないの!」
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