エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

2-XIII-8

2024-12-15 15:11:20 | 地獄の生活
「そりゃそうかもしれないけど、そんな人がどこにいるのさ?」
ド・コラルト子爵の口調はますます重みを増した。
「いいか、よく聞くんだ。こんなことは他の誰にもしないのだが、君のためだけにしてあげようと思うことがある……。君の立場に興味を持ってくれそうな友人がいるんだ。彼に話してみてあげよう。財産もあり、人脈も豊富な名前の通った一流の人物だ……ド・ヴァロルセイ侯爵という……」
「競走馬の馬主の人?」
「そのとおり」
「で、君が僕を彼に紹介してくれるの?」
「そうだ。明日十一時、準備しておけ。君を迎えに来るから、一緒に侯爵邸に行こう。もし侯爵が興味を持ってくれたら、成功したも同然だ……」
ウィルキー氏が夢中になって礼を述べていると、子爵は立ち上がって言った。
「私はもう帰らなくては。いいか、また新たに馬鹿なことをやらかすんじゃないぞ……それじゃ明日!」
もう既にウィルキー氏は、彼の最も目立つ特徴である驚くべき変わり身の早さで、自分の犯した『ヘマ』から殆ど立ち直った気でいた。ド・コラルト氏を迎えたときは、敵に対するように身構え、挑戦的な態度だったのに、彼を送り出す際には、どこまでも卑屈でおもねる態度になっていた。まるで救世主に対するように……。ド・コラルト子爵が何気なく漏らした一言が、この態度の急変をもたらすのに貢献したことは間違いないだろう。
「分かってるだろうな」と彼は言った。「もしド・ヴァロルセイ侯爵が君の話を聞いて味方になってくれれば、大船に乗ったも同然だ。訴訟ということになったとしても、そのために必要な資金を快く前貸ししてくれるだろう……」
そんな言葉を聞いた後ではウィルキー氏が安心するのも無理なかろう! この夜は暗い予感に満ちて始まったのに、その後に目も眩むような希望をもたらす新事実が舞い込むとは……。ド・ヴァロルセイ侯爵のような名士に紹介して貰えると考えただけで、先ほどまで彼を悩ませていた苦い失望を忘れ去ってしまうのに十分だった。数々の浮名を流し、優れた競走馬を所有する財産家である、かの有名な貴族に……。このような華々しい人物の友達になれるとは、夢のような話ではないか! 光り輝く星の周りにいれば、彼もその光のおこぼれに与るのではないだろうか? そうなれば、彼も世間から一目置かれる存在になるだろう。彼は自分が五十センチほども大きくなったように感じていた。もしここにコスタールとセルピオンが尋ねてきたとしたら、如何ほど尊大な態度で彼らを迎えたことやら。12.15
コメント    この記事についてブログを書く
« 2-XIII-7 | トップ | 2-XIII-9 »

コメントを投稿

地獄の生活」カテゴリの最新記事