計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

巨大なゾウと小さなアリ

2008年03月21日 | 気象情報の現場から
 学会誌「天気」がそろそろ溜まり始めています・・・。届いても届いても読むスピードが追いついていません・・・A(^^;)。最近は少しずつですが・・・学会誌の記事に目を通すようにしています。教科書で学ぶ気象学でさえ難しいのに、学会誌に掲載される記事は更に難しい・・・でも、確かに最先端の動きを知る事はできます。例え時間は掛かっても、何とか喰らいついて行かなければ・・・そう思っています。研究が進むにつれて、勉強すべき事が膨大だなあ・・・と最近つくづく感じています。

 広大な気象学の世界において、私が研究している領域と言うのは、それこそ重箱の隅を突くようなものです。言ってみれば、私の研究は気象そのものの真理を解き明かすものではありません。飽くまでも「精度の高い局地予測を実現するためのノウハウ」に他なりません。例えば、観測データをどのように数学的処理を行えばより適切な予測モデル式が得られるかであったり、独自の乱流数値シミュレーションを駆使して局地的な気象特性とそのメカニズムを解明し、独自の予報則に反映していくと言う事です。これはある意味、曖昧模糊とした現象の中に何とかして法則を見出すようなものです。

 現在の気象学の中でホットな話題を見ても地球規模の巨大なスケールの内容が多いです。私にとってホットなテーマは、やっぱり局地気象の微小なスケールの内容です。まるで巨大なゾウと小さなアリ程の隔たりがあります。しかし、「小さなアリ」だからと言って自分の研究を卑下している訳ではありません。誰もやっていないのであれば、そこにチャンスがあると言う事です。巨大なゾウは誰の目にも見えやすい一方、小さなアリはうっかり見落とされてしまうのです。この小さなアリは、その小ささ故に見向きもされませんが、しかしその研究テーマの奥深さは巨大なゾウにも決して引けをとりません

 さて、2月22日の記事で山形県米沢市周辺の冬季の局地気象特性について簡単にお話しました。雪の降り方については上空の寒気を指標とするのは天気予報の常套ですが、この地域の場合は更に下層の季節風の強弱も考慮した方が良いかも知れない、とこれまで言及してきましたものです。米沢市の場合は下層の風が弱い場合には(冬型の気圧配置となるような日であっても)午前中には晴れると言う事もありました。このような場合は、午前中は晴れてお昼頃から吹雪を伴うようになる天候の急変のパターンが見られました。

 このメカニズムについても漸く一つの可能性が見出されつつあります(そもそも、この為にシミュレーション研究を始めたのです)。この場でその詳細を述べる事は致しませんが、何らかの形で学会発表に持ち込みたいと考えています。ただ一つ言える事は、局地気象に根ざした独自のシミュレーション環境を開発できたからこそこの知見が見出せた、という事です。今後、更なる裏付けの研究が続きます。時折、熱ロスビー波の再現等で遊んでみたりもしてますが、少しずつ局地気象特性について計算気象という切り口からアプローチを進めています。更には、独自の予測モデル式の形にインプリメントする事で、局地予報のQTAT化の実現に結び付けて行きたいですね。(LESをそのまま実行すると途轍もなく計算時間が掛かるので・・・)

 広大な気象の世界において、私は一匹の小さな小さなアリです。しかし・・・
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