今年は数値予報が現業化されて50周年に当たります。要するにコンピュータによる数値計算で未来の天気の動きを予測し、その予測(計算)結果が天気予報に活用されるようになって50年と言う年なのです。
計算シミュレーションと言うと、如何にも難しそうですが(確かにそれは否定しません)、その正体は「予め与えられた計算の手順に従って、ただひたすら加減乗除の四則計算を繰り返すもの」に他なりません。
何やら複雑な基礎方程式を数値解析で解くと言っても、基礎方程式を離散化して、加減乗除の四則演算の組合せに書き直して、さらに計算の手順書(要するにプログラム)の形に落とし込むのは他ならぬ人間です。また、基礎方程式や基礎理論は、物理学を始めとする自然科学の基礎法則や様々な知見を基に構築され、複雑な方程式の形で記述されます。
また、計算シミュレーションと言うと何やら凄いもので、どんな物理現象でも予測でき、どんな仮想実験でも出来てしまう、といったイメージをもたれる事もあるようです。しかし、基礎理論や解析モデルの不完全性や数値計算上の様々な制約・限界ゆえに、計算シミュレーションもまた自ずと限界があります。計算シミュレーションと言えども、決して「魔法の玉手箱」ではないと言う認識を持って扱わなければなりません。
むしろ、計算シミュレーションはそれまで解明できなかった問題に対し、新たな知見を見出すためのツールと捉えるのが良いと考えています。実際に数値実験を行う事で、様々な新しい知見や情報を得る事ができ、それによって現象に対する理解を深める事ができます。勿論、詳細な挙動についても予測する事が可能となります。とは言え、計算シミュレーションも完璧ではありません。
計算シミュレーションに際しては「何を明らかにしたいのか」と言った目的を明確にし、その目的に見合った解析モデルを構築して、その限界を理解した上で、数値計算を行う事が望ましいのではないかと思います。
さて、堅苦しい話はこのくらいにして、ちょっと変わった解析モデルの話を書いてみます。局地気象の熱流体数値モデルもさることながら、それ以外の工学問題に関する解析モデルも検討しています。そんな中から、今回は人体熱収支解析モデルについて書いてみようと思います。
恒温動物としてのヒトは、環境温度の変化に対して優れた体温調節能力と環境適応能力を有しており、体温の恒常性は生体恒常性(ホメオスターシス)の典型です。すなわち、周囲の温度、湿度、気流、放射熱に応じて、作業などの代謝活動により体内で発生した熱を体外に放出するような調節のメカニズムが働くのです。そして、脳・心臓・胃腸、その他内臓などの体幹部の温度を常に36~37℃の一定の範囲に保つように調節しています。一方、その周囲を囲む筋肉や皮膚等の外殻と呼ばれる体表に近い部分は体幹部よりも温度の変動が大きいのが特徴です。
体温は生体の熱平衡によって決定されます。この体熱平衡は、熱産生量と熱放散量の平衡によります。もし、代謝による熱産生量が対流、放射、蒸発による熱放散量と等しくなると、37℃の正常体温が保たれるのです。この時の体熱平衡式は次の式で表されます。
M=R+K+E
※ここで、Mは代謝量、Rは放射による熱放散量、 Kは対流による熱放散量、 Eは蒸発による熱放散量です。
尚、この式では体表面から空気への熱伝導による熱放散量を加えておりません。これは空気への熱伝導は僅かである上、体で温められた空気は対流を起こすので、Kに含めて考えたためです。
一方、生体が定常状態に置かれていない時は、外部へ熱を放散したり、外部から熱を獲得するから、上の式の平衡を保つためには非定常項として生体の蓄熱量を導入しなければなりません。従ってこの場合は次のように変形できる。
M=R+K+E+S
※ここで、Sは蓄熱量です。
このため、熱放散量が熱産生量より大きいと生体は熱を失うのでS<0となり体温が低下します。逆に、熱放散量が小さいとS>0となり体温が上昇します。
以上から、体温を一定に保つ仕組みは、熱産生量と熱放散量の変化に集約する事ができます。すなわち、環境温度の変化に対して体温のホメオスターシスを維持するためには、その変化に応じて熱産生量と熱放散量を加減して新たな平衡状態を作り出さねばならないのです。
環境温度が低下すれば、人体からの熱放散量は増大します。このため、皮膚近傍の血管を収縮して血流量を減少させ、体表面、特に四肢の皮膚温を低下させます。これにより平均皮膚表面温は低下し、K、R、Eを減少させます。さらに代謝の促進等によりMを増す事で体温の低下を防ぎます。このような寒さに対する調整を対寒反応と言います。一方、暑さに対する調整は対寒反応と逆の方向に起こります。すなわち、皮膚血管を拡張させ、血流量を増加させ、皮膚温度を上昇させる事により、R、Kが増します。さらに発汗が起こってEが増加する。このような暑さに対する調整を対暑反応と言います。
これらの事を踏まえて、ある環境条件下に置かれた人体の熱収支を解析モデルを構築しようと考えています。熱と言う事でまず思い浮かぶのは、熱伝導方程式の利用です。熱伝導方程式は次のように書き表されます。
ρ(∂T/∂t)=∇(∇T)+q
※ここで、ρは密度、Tは温度、tは時間、qは外界との熱の授受を表します。
非定常項がS、qがMおよびR+K+Eからなる物理量と考えて・・・∇(∇T)については簡単のため考慮しないとすれば、何となく、方程式が出来そうな気がしてきます。しかし、重要な拘束条件を付加しなければなりません。ホメオスターシスの機能です。体幹部ではTの値は大きくは変動する事ができません。一方、外殻(要するに末梢部etc.)ではTが大きく変動します。この影響をどのように反映するか・・・。
考えれば考えるほど・・・複雑になってしまいます。ちなみに、実用化の目処は・・・全然、先の話です!。生気象学に独自の数値モデルで挑みたいとは思っていますが、果たしてどうなることやら(爆)。
計算シミュレーションと言うと、如何にも難しそうですが(確かにそれは否定しません)、その正体は「予め与えられた計算の手順に従って、ただひたすら加減乗除の四則計算を繰り返すもの」に他なりません。
何やら複雑な基礎方程式を数値解析で解くと言っても、基礎方程式を離散化して、加減乗除の四則演算の組合せに書き直して、さらに計算の手順書(要するにプログラム)の形に落とし込むのは他ならぬ人間です。また、基礎方程式や基礎理論は、物理学を始めとする自然科学の基礎法則や様々な知見を基に構築され、複雑な方程式の形で記述されます。
また、計算シミュレーションと言うと何やら凄いもので、どんな物理現象でも予測でき、どんな仮想実験でも出来てしまう、といったイメージをもたれる事もあるようです。しかし、基礎理論や解析モデルの不完全性や数値計算上の様々な制約・限界ゆえに、計算シミュレーションもまた自ずと限界があります。計算シミュレーションと言えども、決して「魔法の玉手箱」ではないと言う認識を持って扱わなければなりません。
むしろ、計算シミュレーションはそれまで解明できなかった問題に対し、新たな知見を見出すためのツールと捉えるのが良いと考えています。実際に数値実験を行う事で、様々な新しい知見や情報を得る事ができ、それによって現象に対する理解を深める事ができます。勿論、詳細な挙動についても予測する事が可能となります。とは言え、計算シミュレーションも完璧ではありません。
計算シミュレーションに際しては「何を明らかにしたいのか」と言った目的を明確にし、その目的に見合った解析モデルを構築して、その限界を理解した上で、数値計算を行う事が望ましいのではないかと思います。
さて、堅苦しい話はこのくらいにして、ちょっと変わった解析モデルの話を書いてみます。局地気象の熱流体数値モデルもさることながら、それ以外の工学問題に関する解析モデルも検討しています。そんな中から、今回は人体熱収支解析モデルについて書いてみようと思います。
恒温動物としてのヒトは、環境温度の変化に対して優れた体温調節能力と環境適応能力を有しており、体温の恒常性は生体恒常性(ホメオスターシス)の典型です。すなわち、周囲の温度、湿度、気流、放射熱に応じて、作業などの代謝活動により体内で発生した熱を体外に放出するような調節のメカニズムが働くのです。そして、脳・心臓・胃腸、その他内臓などの体幹部の温度を常に36~37℃の一定の範囲に保つように調節しています。一方、その周囲を囲む筋肉や皮膚等の外殻と呼ばれる体表に近い部分は体幹部よりも温度の変動が大きいのが特徴です。
体温は生体の熱平衡によって決定されます。この体熱平衡は、熱産生量と熱放散量の平衡によります。もし、代謝による熱産生量が対流、放射、蒸発による熱放散量と等しくなると、37℃の正常体温が保たれるのです。この時の体熱平衡式は次の式で表されます。
M=R+K+E
※ここで、Mは代謝量、Rは放射による熱放散量、 Kは対流による熱放散量、 Eは蒸発による熱放散量です。
尚、この式では体表面から空気への熱伝導による熱放散量を加えておりません。これは空気への熱伝導は僅かである上、体で温められた空気は対流を起こすので、Kに含めて考えたためです。
一方、生体が定常状態に置かれていない時は、外部へ熱を放散したり、外部から熱を獲得するから、上の式の平衡を保つためには非定常項として生体の蓄熱量を導入しなければなりません。従ってこの場合は次のように変形できる。
M=R+K+E+S
※ここで、Sは蓄熱量です。
このため、熱放散量が熱産生量より大きいと生体は熱を失うのでS<0となり体温が低下します。逆に、熱放散量が小さいとS>0となり体温が上昇します。
以上から、体温を一定に保つ仕組みは、熱産生量と熱放散量の変化に集約する事ができます。すなわち、環境温度の変化に対して体温のホメオスターシスを維持するためには、その変化に応じて熱産生量と熱放散量を加減して新たな平衡状態を作り出さねばならないのです。
環境温度が低下すれば、人体からの熱放散量は増大します。このため、皮膚近傍の血管を収縮して血流量を減少させ、体表面、特に四肢の皮膚温を低下させます。これにより平均皮膚表面温は低下し、K、R、Eを減少させます。さらに代謝の促進等によりMを増す事で体温の低下を防ぎます。このような寒さに対する調整を対寒反応と言います。一方、暑さに対する調整は対寒反応と逆の方向に起こります。すなわち、皮膚血管を拡張させ、血流量を増加させ、皮膚温度を上昇させる事により、R、Kが増します。さらに発汗が起こってEが増加する。このような暑さに対する調整を対暑反応と言います。
これらの事を踏まえて、ある環境条件下に置かれた人体の熱収支を解析モデルを構築しようと考えています。熱と言う事でまず思い浮かぶのは、熱伝導方程式の利用です。熱伝導方程式は次のように書き表されます。
ρ(∂T/∂t)=∇(∇T)+q
※ここで、ρは密度、Tは温度、tは時間、qは外界との熱の授受を表します。
非定常項がS、qがMおよびR+K+Eからなる物理量と考えて・・・∇(∇T)については簡単のため考慮しないとすれば、何となく、方程式が出来そうな気がしてきます。しかし、重要な拘束条件を付加しなければなりません。ホメオスターシスの機能です。体幹部ではTの値は大きくは変動する事ができません。一方、外殻(要するに末梢部etc.)ではTが大きく変動します。この影響をどのように反映するか・・・。
考えれば考えるほど・・・複雑になってしまいます。ちなみに、実用化の目処は・・・全然、先の話です!。生気象学に独自の数値モデルで挑みたいとは思っていますが、果たしてどうなることやら(爆)。