計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

満を持して、大学院の教壇に立つ。(2回目)

2009年12月11日 | 気象情報の現場から
 今日は先週に引き続き、片道2時間近く掛かる大学院にて「計算局地気象学特論 ─ 気象学基礎および風況予測への乱流解析応用 ─」と題して講演2回目(全2回)を実施しました。
 
 今回の主な内容はこんな感じです。

【第2回】局地気象モデリングと風況予測への乱流解析応用

 (3)局地気象の基礎知識
  ・温位(ポテンシャル温度)の導入と大気の安定・不安定
  ・山越え気流の基本構造
 (4)物理現象モデリングの考え方
  ・シミュレーション(仮想実験)の2つの形
  ・モデリングの流れと考え方
  ・複雑な流れ解析の問題点
  ・局地気象の解釈と基礎方程式
 (5)山形県置賜地方の冬季局地風の解析
  ・実際の気象データのモデリング
  ・シミュレーション解析結果と局地気象特性の知見
 (6)天気予報の仕組みとその課題
  ・実際の天気予報における数値予報と予報技術者の役割
  ・これからの気象情報と気象予報士の可能性

 このように今回もまた「90分」と言う限られた時間の中に、かなりの内容を圧縮しました。実際の気象は様々な時空間スケールの現象が複雑に重なり合い、互いに影響を及ぼしあっている「多重時空間スケール構造」でありますが、このような多種多様な現象の「コラボレーション」をどのように整理して「解析モデル」の形に表現し、そして解を得る事ができるのか、というのが今回のメイン・テーマでした。

 まずは温位(ポテンシャル温度)の導入です。温位は「エントロピーと同様に変化の経路によって左右されず、その時の状態の条件によって一義的に定まる(そのまま数学的演算が可能)状態量の一種である」ものと認識しております。断熱的に空気塊を鉛直方向に上下させると、この空気塊は断熱的に膨張・圧縮するため、空気塊自身の温度は変化します。しかし、あくまで断熱変化なので、空気塊自身とその周囲の間では熱エネルギーの授受は一切ありません。従って、断熱的に空気塊を鉛直方向に上下させた場合、「見た目?」の温度は確かに変化しますが、空気塊の持つ潜在的な熱エネルギーの総量は変わることはありません。この温位と言う概念は、私も当初は「空気塊を断熱的に基準気圧(=1000hPa)の高さに持ってきた時の空気塊の温度」と、教科書通りの解釈を暗記していたのですが、最近になって漸くその物理量のレーゾンデートルの真意を理解している所です。

 そして複雑な局地気象と言うこの「物理現象」を、どのように整理して「解析モデル」の形に表現し、そして解を得る事ができるのか。この部分はかなり私自身も悩んできた部分だったので、思わず力が入りました。まず、気象の数値シミュレーションの方向性については当ブログ「これからの新しい気象予報士の姿とは?(2009年11月13日)」の内容を踏襲して解説し、実際に解析を行う段階では、フルード数とNavier-Stokesにおける浮力項の考え方も重要になってくる所です。これまで色々と試行錯誤を重ねてきた集大成を見る事ができた気がします。天気予報の仕組みとその課題では、実際の予報の流れや気象庁の数値予報モデルも紹介し、今後の局地気象に関する気象予報士のアプローチの可能性を熱く語り、最後の締めくくりとなりました。

 今回は、一連の準備を通じて今まで取り組んできた内容を改めて体系的に整理する事ができました。限られた時間の中では、今までの知識や経験の全てを出し切る事は出来ません。それでも、その中の特にコアとなる部分を抽出して重要な部分・エッセンスについては一通りお話する事は出来たように思います。

 最後に、自分達が思っている以上に、自分達の学んでいる知識が、いろんな場所で、いろんな形で、社会の役に立っていると言う事を感じ取ってもらえれば・・・そんな想いで教壇に立ちました。・・・でも、実感するのは実際に社会に出て、色々な経験を積んでからになるのでしょう・・・。

 これで、1ヵ月半に及ぶ準備と2回に渡る講義(講演)は無事、終了しました。

コメント
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