アヴァターラ・神のまにまに

精神世界の研究試論です。テーマは、瞑想、冥想、人間の進化、七つの身体。このブログは、いかなる団体とも関係ありません。

正受慧端

2023-10-03 03:56:48 | ジェイド・タブレット

◎ジェイド・タブレット-03-03

 

思春期からの水平の道の2例目は、正受慧端。彼は、白隠(臨済禅中興の祖)の師である。

正受慧端は、1642年信州松代藩主真田信之(真田幸村の兄)の庶子として生まれ、飯山城主松平忠倶侯に養われていた。正受13歳のころ、城下の曹洞宗大聖寺の奪心禅師の登城した時に、侯の子供達が、禅師に紙を差し出し仏名を書いて頂いていた折り、正受も請うたところ、禅師は「正受には観世音がついておられるので、仏名を差し上げられない」と断られた。

正受がその意味を問うと、禅師は「自分に訊いてみなさい、他人に問うてはならない」と戒められた。この時正受は、将来の自分の成道の予感を持つことになる。

 

以後、出家こそしていないが、修行に専念するようになり、しばしば寝食を忘れ、大疑団に集中し、立っては坐ることを忘れ、坐っては立つことを忘れ、城内で行方不明になることも多く、雪隠(トイレ)で発見されることが多かったので、松平忠倶侯は、正受のことを強情な白痴だろうと言うほどであった。

正受16歳の時、たまたま2階に上がろうとして、階段の半分位のところで、立ったまま定に入り、階段から転げ落ちて、気絶した。

人々が驚いてこれに水をかけて呼ぶと、蘇生して、手を打って大声で笑いだしたので、人々はこれは発狂したのだと思ったが、実は小悟したのであった。

その後19歳の時、江戸に出て、菰一つだけで寝たり坐ったりする極貧の、麻布の至道無難禅師について出家した。(いつの世も、極貧な道場が本物のサインであって、豪壮な本部ビルを構えている本物はまずない。マンモンの神は本物には寄りつかない。)

大器は、遅くとも思春期のころから悟りのボーダーにいる。思春期の頃から無常を生きているわけだから、生きるのはつらいものだと思う。また部屋住みとはいえ、藩主の子が出家するのはなかなかの覚悟がなければできることではない。

実母も長生だったようだから、覚者によくある両親の早世というインパクトがなくても、充分にこの世の思い通りにならぬことを骨身にしみて承知していたからこそ、16歳で覚醒したということだろう。

 

正受は、師家の至道無難に付いて修行を続けていたが、ある日屋根の修復を命じられた。正受が屋根に登ったところで、師家は、下から杖を伸ばして正受の足を突いて、『香厳の樹上の公案はどうだ、さあ正しい見解を言ってみろ、言ってみろ。』と責めたてた。

香厳の樹上の公案:

口に枝をくわえてぶら下がっているところで、正しい見解を言わねばならないという公案。何か言えば枝から落下して大けが、言わねば修行としては不合格。

こうした厳しい修行を経て、正受慧端は20歳で大悟し、 至道無難の印可(大悟したという証明)を受けた。

中国古代の聖天子の一人、舜は、やはり屋根の上で、下から火をつけられたが、屋根の上で足を突かれる話は、それに比べるとましかもしれないが、危機の中に陥れるという点では、十分な鍛え方と言えよう。

 

そんなある時、無難禅師が、和文で書いた法語冊子を出して、正受に与えて言うには、「これは、私の睡眠中のたわごとである」と。

そこで正受は、これを開いて2~3枚読むと、立ち上がって、炉の中に投げ入れてしまった。

無難が「何をする」と言うと、正受は「老師こそ、何をなさいますか」と答えたところ、無難も黙ってしまった。

一人でも半人でも、得道した人間を育て上げるのは、得道した人間の使命であり、かつその育て上げた弟子は、師匠のレベルを上回っていなければならないと聞く。

 

現代では、飢え死にする危険はほとんどないけれども、いまや小学校でも三分の一が片親家庭、失業率も高く、うつ病の生涯有病率は8人に一人と、充分に不安定な精神の者が大量に出現する時代。物質的にはそこそこで、精神的には不安定、そんな現代の環境は正受の生い立ちによく似ている。よって自覚さえあれば、大悟への道は開けやすいとも言える。

 正受は、16歳で立ったまま定に入ったりして既に水平の道の有想定、無想定には達しており、坐ったと思ったら4、5時間経過していたというような深まり方だったのではないだろうか。思春期にして水平の道を進むモチベーションは十分だったのだ。

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