わたしの好きになる映画。
何度か言いましたが、それらの映画には共通項があります。
男たちが
チームで
何かの目標を達成する
これだけなら大抵の戦争映画はこれに当てはまってしまうので、さらに絞り込むと、
史実をモデルにしたもの、あるいは実在の人物を演じたもの
恋愛はメインではない 女性が出て来ない方が良し
音楽が特に良い
そしてサブキャラクターに魅力的な人物がいる
紫電改のタカでも米田二飛曹が好きだったように、エリス中尉はサブキャラ好き。
例えば「炎のランナー(チャリオッツ・オブ・ファイア)」のリンジー卿、
アポロ13のケン・マッティングリー、K-19のラドチェンコ中尉など、
興味深い脇役がいることも重要な要素の一つ。
本日画像は、映画「劒岳 点の記」で、主人公柴崎芳太郎のライバル、
登山家小島鳥雨を演じた仲村トオル様のお姿。(何故か様付け)
そう、この仲村トオルが、今回の「わたしの好きな映画の殿堂入り」の決め手となりました。
この新田次郎原作の山岳小説のストーリーについては実際に観ていただくかウィキで調べていただくとして、
結論から言うと、非常に「価値のある」映画であると思います。
「これは撮影ではなく『行』である」
筆舌につくせぬ困難の末に完成したこの映画を、監督の木村大作氏はこう称しました。
あまり筆舌に尽くせないので、メイキングを別の映画にしてしまったというくらいの筆舌に尽くせなさです。
そのメイキングの予告編を観ましたが、それを観ただけで、何故この映画の二つのパーティ
(陸軍測量部と山岳会)の人々が、最後そのシーンでそれまでのライバルを
「仲間」と呼んだのかが、分かるような気がしました。
そして、この映画のエンドロールにおいて出演者スタッフ全てが「仲間たち」と称されているのかも。
この過酷な体験を共有することで得られる一体感は、
まさに「仲間」という言葉でもなければ言い表わせなかったのかもしれません。
全身真っ白のまま吹雪の中立ち尽くして経文を唱えたり、(夏八木勲)
雪の中大きな荷物を背負って崖登りは勿論、雪に埋まったり、転がり落ちたり、
勿論エキストラにとっても大変な現場になったに違いありません。
中でも信役の松田龍太郎は、雪崩に巻き込まれ雪から掘り起こされるるシーンで、
なんと酸欠で本当に失神していたそうです。
ラストシーン、手旗で互いの健闘を称えあう両パーティ。
在りがちなこういう「ぐっとくるシーン」も、実際にあのような思いがあってこそ共感をうるのです。
映画を最初から観ている観客であればこのころには素直に「ぐっと」きてしまうでしょう。
しかしその修羅のような現場も、スクリーンではバッハ、ヴィバルディ、そしてヘンデルのバロックが流れる冴え冴えとした立山連峰の静謐に全て飲み込まれています。
特にヴィバルディの「四季」が各場面にまったく自然に寄り添っており新鮮でした。
「良い音楽」の条件を満たしていますね。
大自然に挑戦する人間ものというとえてして「ファイトー一発!」調の体育会的なものとなり、
人間関係や、おのおののキャラクター描き分けに関しては二の次三の次になりがちですが、
この映画はおそらく原作に忠実に登場人物の個性をきめ細かく描写しているのでしょう。
そのせいか、陸軍の文官、測量技師の柴崎芳太郎を演じた浅野忠信、
そしてこの小島鳥水(うすい)を演じた仲村トオル両人には、つい目を引き付けられました。
陸軍の命令で地図測量のために三角点を設置する為に、いわばお役所仕事で峰を制覇する測量部。
対する小島鳥水は、有り余る資産にものを言わせて前人未到の劒岳を制覇することだけが目的の、
いわば「貴族アルピニスト」。
パーティが水場で合流したとき、鳥水は芳太郎に外国から来たクッキーを勧めます。
「ヨーロッパでは登山技術が進歩していましてね」
珍しいテント(天幕)、みたことのないハイカラな登山用具。
文学者でもあり、チェンバレンやウェストンとも交流のあった後の山岳協会会長の勧める
見たこともない菓子を芳太郎は丁寧に断り、その様子を、横にいる案内人の長次郎(香川照之)は
「けーっ」
というような顔で眺める、というシーンが二人の立場をよく表していると思うのですが、
でも、この「クッキーを勧める仲村トオル」に、脇役好きの血がつい騒ぎ・・・、
加えてこの!
冒頭画像の仲村トオル様の登山スタイルに注目ー!
画像の色を再現するのに神経を払ったのはこのセイジ・グリーンのジャケット。
何とも言えない、ブルーグリーンを帯びた美しい色で、
良く見ると袖にはネイビ―ブルーのラインがアクセントに入っています。
コート下のジャケットは黄土を帯びたクリーム色。
フェルトの登山帽に見えないソフト、革ベルトの装具とのマッチングはすでに完璧。
同系色で無難にまとめて終わるのが普通のコーディネートですが、
あえて反対色の赤いシルクのマフラーを合わせ、アクセントにしています。
襟元を詰めずに下の方で結び、シャツの白を見せているのも心憎い計算。
(この稿、タグをファッションに変えようかしら)
・・・・・明治時代に本当にこんなスタイルで山を登ったのか?
と、つい疑ってしまうのですが、まあ、それもよし。
きっとわたしのようなサブキャラ好き(と仲村トオルファン)を狙った確信犯的時代錯誤でしょう。
昨今は登山女子を「山ガール」と称するようですが、山ガール的にもこの着こなしは
参考にされていいのではないかと思われます。
お洒落な山女のための登山専門雑誌「Y・A・M・Aガール」
11月号の特集記事
「登山服?いいえ、アルペン・モードです!
映画『劒岳』出演仲村トオルさんの着こなしがお手本!
リュクスな素材感と洗練された色調!
ヨーロッパの名門メゾンならではの登山ジャケットを徹底比較研究」
という広告がつい脳裏をよぎりました。(よぎり過ぎ?)
この映画に華を添える女優は、フジテレビ(製作協力)お気に入りの宮崎あおい。
芳太郎の新婚早々の若妻に扮しています。
「今日の夕飯、なに?」
「んー。お肉とお魚、どっちがいいですか?」
「・・・魚かな」
「じゃ、おさかなで」
という会話などのように
「明治時代に夕食を直前に魚か肉か選べるわけないだろうがっ!冷蔵庫もないのに」
とマッハで突っ込んでしまうテレビ的甘さが見られないわけでもありません。
が、この二人のアツアツぶりがなかなか微笑ましい。
宮崎あおいという女優さんをどちらかと言えばどこがいいんだろうと思ってきたのですが、
初々しい髷姿や湯上りの洗い髪姿が実にかわいらしい。
芳太郎が何もないのにふと手を伸ばして、かわいくて仕方がない、といった風情で
髪に触ったりしてしまうのがよおおおくわかります。
男の人だったら、こんな若妻が「じゃ、おさかなで♥」とか言ってくれたらさぞ嬉しかろうなあ。
そしてそういった二人のほのぼのシーンにもヴィバルディの四季は良く合います。
「何故人は山に登るのか」。
この永遠の問いが劇中読み上げられる元測量部技手の古田(役所広司)の手紙で問いかけられます。
同時に何故人は地図を作るのかという問いにかれはこのように言います。
「ひとが地図で自分の存在する場所を知りたいと思うのは、
自分がその場所にとって何なのかを知りたいという欲望なのではないでしょうか。
それは自分は何なのかを知ることにもつながるからです」
プロデューサーの亀山千広は「世界の亀山ブランド」と逆説的に揶揄され、
「しょうもない映画をパッケージと宣伝で売り出す天才」と言われているようですが、
(例:アマルフィ)
この映画に関しては一言で言って、全てのアラを「自然」がカバーしてあまりあるといった感あり。
劒岳の厳しい自然が、全ての人の世の俗や愚昧さを全てその懐に包みこむように。
・・・・・・・なーんて。
でも、皆さん、これを観るときはできれば大画面でね。
パソコンの液晶ではさすがに再生能力に限界があり過ぎて、
スタッフの艱難辛苦に対して真に申し訳なく感じました。
それからこの映画唯一の「悪役」は、新聞記者。
両パーティをちょろちょろ行き来して、互いの情報を吹きこみ、必要以上に競争をあおり、
面白おかしくそれを報道する。
当時からマスコミはマスゴミだった、ってことはよくわかりました(笑)