ラシャムジャ『路上の陽光』
顔の中で鼻は、ほかの部位より日焼けしやすい。
太陽に近い分、浴びる日射しの強さが違うのだ。
数センチにも満たない差でこうなのだから、4000メートルも太陽に近づいたら、どれだけ強烈なのだろう。
チベット、ラサを舞台にした8編の小説集。
表題作「路上の陽光」は、川の水面に反射する光に、思わず目を細めてしまうような眩しい世界。
容赦なく降り注ぐ日差しは、人のやる気や覇気を削いでしまうのか。
仕事のない若者たちは、橋の上で日雇いの声がかかるのをぶらぶらしながら待っている。
ランゼーは、風で飛ばされた帽子を取ってきてほしいと傍らにいるプンナムにお願いするが、彼は気怠そうにしたまま動こうとしない。
日当でやっと手に入れた赤い帽子は、川に落ち流されていく。
プンナムに「きれいだね」と言われたくて買ってきたのに、彼はインドまで流されてインドの洗濯娘がかぶるかもと、ふざけたことを言う。
お互い気がある2人なのに、些細なことで離れてしまう。
それは貧しさが原因なのか、思いやる気持ちが足りなかったからなのか。
それとも、適切な瞬間にふさわしい言葉がかけられなかったからなのか。
タイミングを外してしまうと、もう二度と元には戻らないこともあるのだ。
装丁は成原亜美氏。(2023)