クリスティーヌ・サイモン『嘘つき村長はわれらの味方』
カバーのイラストの楽しい雰囲気は、そのまま小説の世界。
さまざまな場面が描かれていて、読み終わってみると、どれもが正確に物語を描写しているとわかる。
イラストレーターはきちんとこの本を読んだのだろう。
ゴチャゴチャした印象もあり、それもまた小説そのものなのだ。
イタリアの小さな村が舞台。
水道管が老朽化し、期限までに修理の費用が出せなければ村の水道が止められてしまう。
高額な費用を捻出するあてはなく、村長一人がその問題を抱えたまま村人の誰にも言えずにいる。
お金を落とす観光客を呼び込むために、有名な俳優が村で映画の撮影をすればいいのではと考えた村長だったが。
タイトルに「嘘つき村長」とあるが、村長は嘘をつくつもりはなかった。
勝手に勘違いした人たちが、勝手に盛り上がっていく状況を見ながら訂正しないのは、正直ではないだけ。
でもそれで必要なお金が入ってくるとなると、なおのこと嘘だとは言い出せない。
嘘だと言わない嘘。
内緒にする嘘。
その程度の嘘なら、ぼくも何度か経験がある。
身の破滅につながるほどの嘘は、いまのところない。
装画は中島ミドリ氏、装丁は岡本歌織氏。(2023)