済東鉄腸『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』
驚くほど長いタイトルの本だ。
それでも、表紙の文字を目で追っていくと、自然と正しく読める。
驚くほどの可読性。驚異的なデザイン。
タイトルがほぼ内容を表している。
ただそこから受ける印象と少し違うのは、著者は「引きこもり」なのに、積極的に他人とコミュニケーションを取ろうとするところだ。
ルーマニア語を学ぶために、Facebookで4000人のルーマニア人に友達申請をする。
「あなた、誰?」なんて反応は歯牙にも掛けない。
鉄のメンタルだ。
ルーマニア語を学ぶうちに、著者は日本語で書いていた小説を自分でルーマニア語に翻訳するようになる。
書き上げた小説を知り合いのルーマニア人に見せると、作家でもあるその人は作品を文芸誌に送ってくれた。
そして、著者はルーマニアで作家デビューを果たす。
この本に含まれる熱量の高さは尋常ではない。
おそらく、著者の盛んな知識欲の発露のためだろう。
日本語で書かれた小説が、いつの日か日本の書店に並ぶようになるのだろうか。
新しい表現を作り出しても、外国人だからという理由で認められない悔しさを味わっている著者が本領を発揮するのは、日本語の小説のような気がするのだが。
装画は横山祐一氏、装丁は木庭貴信氏+青木春香氏。(2023)