マイケル・オンダーチェ『名もなき人たちのテーブル』
ターコイズブルーの紙が美しいカバーは、書店の棚で目を引いた。
表紙には、金色のタイトル、著者名と、重厚な雰囲気の客船のイラストが慎ましく置かれている。
静かな物語の始まりを思わせる。
読み進めるうちに、カバーは地中海の色だろうと気づく。
1954年、スリランカからイギリスへ3週間の船旅。
語り手は、当時11歳の少年。
離婚した母のもとへ、一緒に暮らすため、一人で向かうのだ。
身を寄せていた親戚から放り出されたように見え、しかも長らく会っていない母との再会には、漠然とした不安しかない。
そんな彼は、幸いにも船で同じ年頃の少年二人と仲良くなり、毎日を小さな冒険で満たしていく。
船中で出会うさまざまな人たちに、子どもらしい興味の持ち方で接していく彼らの姿は楽しい。
ところが、読み進むうちに、不意に大人になっている現在の話が挿入されると、戸惑う。
幼い頃の一時期が、いっそうキラキラ輝いて見えるのと同時に、それは子どもで理解できていなかったことがあるからだと気づかされる。
時代を行きつ戻りつしながら、少しずつ明らかになっていく事実、想いに、深いため息をつきたくなる。
表紙にある原題『THE CAT’S TABLE』の、アポストロフィと後ろのSの間が、不自然に空いているのが気になっていた。
あえて空けているのだとしたら、「S」を孤立させるため。
常に一人だということなのか、いずれは誰かと共になるという暗示なのか。
装丁は水崎真奈美氏。(2019)