ローベルト・ゼーターラー『ある一生』
冠雪した山と、山小屋、緩い斜面を杖を手にして歩く老齢の男性。
表紙のイラストからは、雪山の楽しさではなく、厳しさがかすかに感じられる。
帯に「アルプスの山」とあるのを見て、ハイジのおじいさんが一瞬浮かんだ。
アニメの印象を引きずったまま読み始めてすぐに、これはまったく違うのだと知る。短絡的な発想を恥じる。
アンドレアス・エッガーは、ひたすら耐える。
読む者に同情させず、黙々と苦難を乗り越える。
ひどい人生だったのか。
それとも満ち足りた人生だったのか。
その判断は、傍らで見ている人間にはできないことなのだ。
ただ生きるために生きる。
そんな人生を前にしたら、どんな言葉も、力なく消えてしまう。
イラストは野田あい氏。(2019)