ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

戦下の淡き光

2020-08-22 11:29:25 | 読書
マイケル・オンダーチェ『戦下の淡き光』





 グレーのカバーの中央に、あかりの灯ったランプが描かれている。ランプがあることで、このグレーが真っ暗ではないものの、暗い場所だと感じられる。それは周囲の気配がわかる程度の暗さ。

 タイトル、著者名、帯の文字までもが細い明朝体で、目立たぬよう、タイトルの「戦下」を、戦時中の灯火管制を表しているようだ。

 とても地味なカバーなのに、マイケル・オンダーチェだと書店で見た瞬間にわかった。前作『名もなき人たちのテーブル』はターコイズブルーが明るく美しいカバーだったが、2冊には共通する静けさがあるのだ。


 語り手はロンドンに住む14歳の少年。

 1945年のあるとき、両親が仕事の関係で外国へ長期間いくことになり、2つ違いの姉とともに家に残される。母は同僚の男に姉弟の世話を頼み、男は間借り人として家に住むことになる。

 2人は男のことをどういうわけか犯罪者だと疑っている。

 実際、男は何をしているのかよくわからない上に、勝手に怪しげな人たちを家に連れてくる。

 正体がはっきりしないというだけで想像を膨らませているうちは、まだ無邪気な子どもの遊びだ。

 ところが、母親が諜報員らしいということがわかってくると、現実の形が曖昧になり、親に捨てられたのかと不安になる。

 やがて少年は、家に来ていた怪しい男の非合法な仕事を手伝うようになり、いつしかその男に、父親に対するような感情を抱くようになる。

 少年はこのとき、その束の間の楽しさの下で何が起こっているのかを知らない。


 物語の後半では、大人になった少年が、少しずつ当時のことを振り返っていく。

 子どもの頃の出来事を大人の視点で考えると、見えてくるものが違う。

 それは読者としてのぼくも同じで、最初に少年の視点から読んだ物語を、再度冷静に大人の視点で読むと、少し違ったものが見えてくるのだ。

 こんなに静かなのに、こんなに激しい物語だとは。


 装丁は水崎真奈美氏。(2020)


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