ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

拝啓、本が売れません

2020-08-09 16:44:04 | 読書
額賀 澪『拝啓、本が売れません』





 書店で見かけた文庫本のカバーに見覚えがあった。

 手に取り、カバーを外してみる。

 カバーと同じデザイン。表紙のフォーマットをそのままカバーに使ったのだ。

 生半可な覚悟では、このデザインを採用することはないだろう。この本はベスト・オブ・文春文庫だと公言しているようなものだ。


 なぜ本は売れないのか、どうしたら売れるのか。

 デビュー3年目の若い作家が、その答えを求めて編集者、書店員、デザイナー、さらにはWebコンサルタント、映像プロデューサーらに話を聞きに行く。

 著者本人が自著の初版部数を減らされ、将来の不安を抱えている。

 ノンフィクションライターが多くの人に取材をし、データを読み解き、冷静に書き記すものとは違う。著者の場合、教師に教えを請うようだ。著者の必死さが伝わってくる。

 取材先は行き当たりばったりだ。たまたま知り合った人、たまたま雑誌で見た人。その臨場感が、現場へ同行しているような感覚を生む。

 そして最後には、思いもよらなかった感動のフィナーレへと向かう。物語を書いている作家ならではの構成だが、「おまけ」に至ってはあまりに出来過ぎではないかと疑問を感じないでもない。でも事実だろう。


 どうしたら本が売れるのかはぼくにもわからない。ただ、本が好きな人が想像するよりも読書という趣味は、世間一般からしたらマニアックなものになっているのだと思う。小説を読むのが好きですと誰かに言っても、味気ない反応しか得られない。もともとそれほど売れる商品ではないのだ。

 だからどの書店に行っても、同じような売れている本ばかり目につくのは仕方がない。ベストセラーの間に、自分好みの本を見つけることが、マニアの楽しみなのだ。出版点数が多くなって、ますます好みの本が見つけにくくなっても、それは難攻不落の敵陣に向かうのと同じで文句は言わない。

 マニアになればなるほど、自分の専門分野に深くこだわるようになる。ぼくの好みの分野からすると、額賀澪氏の小説は範囲外で、この先読むことはないかもしれない。でも『拝啓、本が売れません』を偶然手に取ったように、書店では何が起こるかわからない。


 装丁は城井文平氏。(2020)