ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

クララとお日さま

2021-03-28 16:40:16 | 読書
 ガズオ・イシグロ『クララとお日さま』





 小説の舞台となる世界は、ぼくが住んでいるこの世界とは少しだけ違うところだ。

 少し未来で外国で、その場所での共通の知識、常識が、ぼくにはわからない。

 この小説は、その違いを説明しない。

 ルールを知らない異空間で、不安な思いを抱き、それは何だろうと考えながら歩き続けるような読書。

 そのことが、物語の細部を深く心に印象づける。道に迷ったとしたら、電柱の表示さえも見逃さないように注意するだろう。


 読後、誰かと話し合いたい気分になる。一方で、自分一人の心に留めておきたいとも思わせる不思議な本。


 カバーのイラストが持つ優しい雰囲気は、物語の本質を見失わせないためかもしれない。

 悪意を含んだ物語ではなく、愛に満ちているのだと、ぼくは信じたい。


 装画は福田利之氏、装丁は坂川朱音氏+鳴田小夜子氏。(2021)


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