アントワーヌ・ローラン『赤いモレスキンの女』
アントワーヌ・ローランの日本語訳本は、とてもお洒落なカバーを身につけている。
『ミッテランの帽子』も『赤いモレスキンの女』も、持っているだけで楽しくなる。それは、センスのいいイラストと色のためだろう。
『赤いモレスキンの女』に使われている赤は暗めの落ち着いた色。モレスキンのノートと同じ赤なのか、手元にノートがないのでわからないが恐らく近い色のはずだ。
原題は「赤いノートを持つ女性」でモレスキンは入っていない。モレスキンがあることで、知的で上品な女性を連想させる。カバーに描かれた女性が手に持つノートには何が書かれているのか、ミステリアスな魅力も感じる。
イラストには黒猫も描かれている。この猫は単なる飾りではなくて、物語の中で重要な役割を果たす。
物語は、想像できない展開をしていく。細部にまでセンスの良さが行き渡り、読んでいて心地よい。
実在する作家パトリック・モディアノが心憎い登場の仕方をする。この本が執筆された当時、モディアノはゴンクール賞作家だったが、その後ノーベル賞を受賞した。ノーベル賞作家としてのモディアノでも、この本に登場したのだろうか。この小説にはゴンクール賞作家の方がお洒落で似合っている気がするのだ。
イラストは北住ユキ氏、装丁は新潮社装幀室。(2021)