アンドレス・バルバ『きらめく共和国』
カバーのイラストは、児童書かと見紛う明るさと楽しさ。帯を外すと、蛇に巻き付かれて死んだ少女が地底に横たわっている。しかしこの死体を見てもなお、穏やかな童話を思い浮かべていたぼくは、この物語に登場する大人たちと一緒だ。
目に入っているのに見えていないのは、無意識のうちに排除しているから。あるいは都合よく解釈しているからだろう。
物語は、亜熱帯の街へ赴任してきた男の視点で語られる。
初めて訪れた街は、南国の強烈な色彩に溢れ、住人たちの貧しさを消した。しかも男は、地元出身の美しいシングルマザーと結婚をしたばかり。
路上で暮らす子どもたちの姿を目にしても、先住民ゆえの窮状として気にしていなかった。街の住人もまた、そんな子どもたちを見ていなかった。彼らが事件を起こすまでは。
大人たちは、子どもたちを捕まえようと躍起になる。しかし、独自の言葉を話し獣のように潜む彼らを見つけることができない。
男の語りは22年後のもので、記憶と記録を頼りに昔を振り返っている。
子どもたちの行く末は最初に知らされる。その結末に向かい、大人たちがどのように翻弄され混乱していくかの過程を明らかにしていくのだが、要領を得ない印象がつきまとう。
解決したようで、実は何もわかっていない。そんなすっきりしない読後感は、まるで熱帯の湿気に取り巻かれているように、いつまでも体から離れていかない。
装画は原裕菜氏、装丁は藤田知子氏。(2021)