ドナテッラ・ディ・ピエトラントニオ『戻ってきた娘』
表紙に描かれた2人の少女は、目が消されている。
口元で1人は微笑んでいるのがわかるが、椅子に腰掛けているもう1人の感情は読めない。
2人の手の繋ぎ方には、同い年の友人というより年の差を感じる。信頼と愛情も見える。
年上らしき少女の心はここにはないようで、何を悩んでいるのか気になる。
「戻ってきた娘」とは、育ての親から産みの親のもとへ「戻された」少女のこと。
13歳の少女は、産みの親の記憶はなく、自分が物のようによそへ出された過去を知らず、また、なぜ突然返されたのかの理由をも知らされない。
それまでひとりっ子として何不自由なく大切に育てられてきた少女が、兄弟の多い貧しい家庭に放り込まれる。実の家族はがさつで、両親は少女に無関心だ。
戸惑う少女にとって、懐いてくれる3つ下の妹だけが救いだった。
そのときの少女には見えていないことがある。
育ての親の本当の姿、実の親の愛情。
それは、育ちが良く世間知らずのためだろう。
貧困のなかでたくましく育った妹のように、真実を知る頃には少女も強くなっている。
イタリアを舞台にしているので、方言のニュアンスを伝える日本語訳は難しいのかもしれない。最初のうち違和感があったが、次第に妹の話す言葉は可愛らしく思えてきた。
装画は小山義人氏、装丁は川名潤氏。(2021)