ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

星の時

2022-11-14 16:54:46 | 読書
 クラリッセ・リスペクトル『星の時』





 カバーの端、かすかに見えるピンクの表紙に、小さな青い点が散らばっている。

 カバーにも同じ大きさの点が全面に撒かれていて、タイトル『星の時』の星をイメージしているとわかる。

 カバーを外して表紙を見ると、当然ここにも青い点が印刷されている。

 表紙のクロスが、宇宙というより、室内の装飾を思わせる。

 カバーがまとっている壮大な宇宙感が、突然貧弱になる。

 カバー紙の質感は、どことなく包装紙を感じさせる手触りで、本全体が本とは異なる物の匂いを漂わせている。


 物語に登場するのは、タイピストの女性マカベーアとその彼氏オリンピコ、彼女の同僚グローリアなど少ないが、それぞれが強烈な印象を与える。

 そこに作者がちょくちょく現れ思索をする。

 マカベーアが初めてオリンピコに会ったとき、名前を聞かれ答えると、「病気の名前みたいですね。肌の病気の」と言われる。

 鼻持ちならないオリンピコの言いようだが、マカベーアの返答は頓珍漢だ。

 無知で孤独なマカベーアを可哀想に感じ同情しそうになるが、作者はそんな気持ちを許さない。

 描写を重ね、さらにつまらない女性にする。

 その一方、作者は「マカベーアに恋している」と言う。

 「みにくさに、まったく取るに足りないところに恋している」と。


 作者の自分語りは、最初のうちは鬱陶しく感じるのだが、次第に待ち望むようになる。

 何を読まされたのだ? という疑問が残るのに、後味は悪くない。


 装丁は佐々木暁氏。(2022)



コメント
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