ケイレブ・アズマー・ネルソン『オープン・ウォーター』
ああ、そういうことではないんだね。
話し相手の表情を見て悟ることがある。
ぼくの発言は、相手が言おうとしていることとは微妙に違ったのだと。
この小説が語る真意は、ぼくには本当には理解できないのかもしれない。
ガーナ出身の黒人がロンドンで暮らすということ。
受けた差別と、その経験が引き起こす苦しみは。
でもわかることもある。
愛する人にさえ言えないこと、愛するゆえに言いにくいこと。
ぼくは恋愛マスターではないけれど。
カバーの写真は夕刻のロンドン橋。
ガラスに映るオレンジ色のライトが優しい。
帯を外した時の白、穏やかな黄色の文字「Open Water」。
それらは、ロンドンに行きたいと思わせるくらい魅力的だ。
繊細で脆く壊れてしまいそうな恋人たちの関係が描かれた物語。
ときおり垣間見える強さは、愛なのか。
装丁は鳴田小夜子氏。(2023)