ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

アフター・クロード

2021-11-10 19:23:44 | 読書
 アイリス・オーウェンス『アフター・クロード』



 表紙いっぱいに、女性の顔写真が入っている。

 気怠そうな表情で、瞳をじっと見ているうちに囚われてしまいそうになる。

 目の下にあるタイトル『After Claude』のAが涙のように見え、女性が泣いているような錯覚をする。


 どうしようもない奴だな、しっかりしろよ。

 読み進め、彼女の人となりがわかってくると、そう声をかけたくなる。

 もしも彼女が友人なら。

 でも友人にはなれそうもない。

 下品な言葉を振り回し、他人を攻撃する女性。


 幼馴染のアパートへ突然転がりこみ、歓迎されていないと感じるや「あたしの受難は始まった」と被害者づらをする。

 当然の権利のように、快適に眠れ、ひとりになれる静かな場所を要求する。

 幼馴染の作った料理を勝手に食べておきながら謝らない。

 感謝しない、手助けしない、でも中傷する。

 幼馴染に対する悪意に満ちた描写は、読んでいてうんざりするが、よくまあ次から次へとと感心もする。
 

 上製本なので、本を広げていると、両脇に3ミリ程度カバーの折り返し部分が見える。自然と目に入ってくるその強烈なピンク色が、彼女が見ている独特の世界へ引っ張りこむ。

 おそらく事実を歪ませた、偏見に満ちた世界へ。


 カバーの女性は泣いていない。泣いているように一瞬見えたが、きっと嘘泣きだ。

 彼女の言葉を信じてはいけない。


 カバーの写真は1950年代の著者。装丁は山田英春氏。(2021)