アイリス・オーウェンス『アフター・クロード』
表紙いっぱいに、女性の顔写真が入っている。
気怠そうな表情で、瞳をじっと見ているうちに囚われてしまいそうになる。
目の下にあるタイトル『After Claude』のAが涙のように見え、女性が泣いているような錯覚をする。
どうしようもない奴だな、しっかりしろよ。
読み進め、彼女の人となりがわかってくると、そう声をかけたくなる。
もしも彼女が友人なら。
でも友人にはなれそうもない。
下品な言葉を振り回し、他人を攻撃する女性。
幼馴染のアパートへ突然転がりこみ、歓迎されていないと感じるや「あたしの受難は始まった」と被害者づらをする。
当然の権利のように、快適に眠れ、ひとりになれる静かな場所を要求する。
幼馴染の作った料理を勝手に食べておきながら謝らない。
感謝しない、手助けしない、でも中傷する。
幼馴染に対する悪意に満ちた描写は、読んでいてうんざりするが、よくまあ次から次へとと感心もする。
上製本なので、本を広げていると、両脇に3ミリ程度カバーの折り返し部分が見える。自然と目に入ってくるその強烈なピンク色が、彼女が見ている独特の世界へ引っ張りこむ。
おそらく事実を歪ませた、偏見に満ちた世界へ。
カバーの女性は泣いていない。泣いているように一瞬見えたが、きっと嘘泣きだ。
彼女の言葉を信じてはいけない。
カバーの写真は1950年代の著者。装丁は山田英春氏。(2021)