ジョン・ターク『縄文人は太平洋を渡ったか』
日本の縄文人と思われる人骨が、アメリカのワシントン州で見つかった。
サイエンス・ライターで冒険家の著者は、彼らが丸木舟に乗って北太平洋を横断して来たのだと考える。
なぜ寒さの厳しい北極地方へ、故郷を捨てて旅立ったのか。
そこに戦争や飢饉など実用主義ではない理由があったのだと著者は感じる。
そして彼らに近づこうと、実際にカヤックで航行を試みる。根室からアラスカを目指して。
1999年の旅だ。
GPSを持ち、最新の道具を揃えている。
海岸に沿って進み、夜は岸に戻ってキャンプをする。
海を知らない人間には、さほど危険はなさそうに思えたのだが、とんでもなかった。
潮の流れに翻弄され、深い霧で何も見えず、断崖が続いて接岸できない。
冒険家とはいえ著者は50代半ば。
体のあちこちが炎症を起こしている。
旅の間、著者は縄文人の移住を何度も夢想する。
旅に駆り立てられた彼らは、自分と同じ変わり者だったのだろうと考える。
上陸した先で出会う貧しいロシア人たちは、海から突然現れたアメリカ人を気持ちよく迎え入れる。
あなたたちは吟遊詩人(プティシェストヴィニク)だと言って、なけなしの食材を振舞ってくれる。
カムチャッカ紀行としても、とても面白い本だ。
装丁は高麗隆彦氏。(2021)