<ヨーロッパ大陸から地中海に突き出たイタリア半島は、よくブーツに例えられる。
その中心よりやや上、トスカーナの丘に囲まれた盆地に「フィレンツェ」はある。
名前は古代の「花の女神」に由来。
別名「花の都」。
600年前の石造りの大聖堂や鐘楼、宮殿。
赤茶色の甍を連ねて建ち並ぶ建物の間を「アルノ川」が滔々と流れる。
確かに、町全体が花のように美しいと感嘆した。>
上記< >内は、20歳過ぎの僕が、
ヨーロッパ旅行の際に付けていた備忘録帳から抜粋した文章である。
長年行方不明になっていたが、先日、発掘。
30数年ぶりに懐かしくページを繰った。
所々、妙に熱っぽい文面が気恥ずかしく、また、よく漢字を使っていて驚く。
キーボード変換が常態になった今、手書きの作文では、とても出来ない芸当だ。
今回は、そんな“欧州旅ノオト”からイタリア・フィレンツェの件を取り上げ、
名画の足元にも及ばない拙作イラストも披露してみたいと思う。
どうか、ご笑覧くださいませ。
ほんの手すさび 手慰み。
不定期イラスト連載 第二百九弾「オマージュ~ヴィーナスの誕生」。
<2月10日 曇り
安宿でサラミとパンだけの朝食を食べ、早速「ウフィツィ美術館」に向かう。
(旅行の)オフシーズンのお陰か、左程、並ばずにチケットが購入できた。
中も、割合空いていて(じっくり鑑賞するのに)助かる。
独・仏・英・日、4ヶ国語(が一体になった)パンフによれば、ウフィツィは役所のこと。
16世紀の役所を美術館に転用している。
故に「Galleria degli Uffizi」を直訳すると「お役所美術館」となり情緒に欠ける。
しかし、彫刻や絵画などの展示品は、どれも素晴らしい。
一番のお目当てはもちろん「サンドロ・ボッティチェリ」の「ヴィーナスの誕生」。
雑誌や美術カタログで何度も目にしている名画だが、
肉眼で観たそれは--- 圧巻!の一言。
元々、縦172cm、幅278cmと大きい絵だが、
存在感は実際を越えて巨大だ。
数百年経っても褪せないテンペラの色彩!
艶めかしい女神の微笑、西風になびく髪。
精密さ!迫力!ルネサンスの息吹!!
暫くヴィーナスの前から動くことができなかった。>
※< >内、欧州旅ノオト「旅の日々」より抜粋/引用( )内加筆
「ヴィーナスの誕生」は、ルネサンス最盛期を代表する名画として著名な作品。
オリジナルはコチラである。
題材はギリシャ神話。
物語では、女神ヴィーナスは海の泡から成人の姿で生まれてきたとされる。
絵画には、大きなホタテ貝の上に乗った彼女が風に吹かれ、
地中海最奥に浮かぶキプロス島へ流れ着いた一節が描かれている。
構図は、いわゆる「三分割法」。
@センターは主役のヴィーナス。
@向かって左が、風を送る「西風の神・ゼフロス」と口から花を蒔く「妖精・クロリス」。
@向かって右は、女神の裸体をくるむマントを手にして駆け寄る「時の女神・ホーラ」。
3つの要素が三角形の位置関係にあって、安定感抜群。
更に、左から右へ時の流れを表現することで、ストーリー性を強調している。
今回改めて名画を鑑賞するうち、僕は、こう思うようになった。
「ボッティチェリ」は、時系列も、全ての登場人物も、
「一枚の絵に盛り込まざるを得なかった」から 、
「正面から全身を描くしかなかった」のではないか。
そして、この神話のワンシーンを別角度から眺めてみたくなり、
筆を執って前掲の拙作を描いた次第。
今回は、歴史的名画のオマージュ。
何とも無謀な試みと言えるのである。
--- さて、結びにフィレンツェを離れる前夜の記述を紹介したい。
<2月15日 曇り時々雨
明日、列車に乗りベネチアへ向かう。
先ほど、宿への支払いを済ませた。
女主人は僕の身体を抱き何事かつぶやく。
おそらく「よい旅を」と言った感じの挨拶だろう。
僕も日本語で「ありがとう、さようなら」と返した。
フィレンツェでは、沢山歩き、沢山見物した。
詳しくは前のページに譲るが、大聖堂をはじめ名所は素晴らしかった。
また(おそらく一般住宅と思われる)建物と建物に挟まれた路地を彷徨うのも楽しかった。
手にした地図と見比べ近道のつもりで進み、結果、遠回り(になる事もしばしば)。
無駄は多いが、嬉しい出会いもあった。
一昨日、迷った挙句、何本かの路地が交差する小さな広場に出た。
(広場の)面積に不釣り合いに大きいドームへ入ると、そこには「ダビデ像」が!
本物は「アカデミア美術館」にあるからレプリカ。
実物に比べやや小さいが、ドーム頂上の小窓から差し込む自然光を浴びて佇む姿は、
やけに神々しく見えた。
そして、最後に「お役所美術館」を再訪。
どうしても「ヴィーナスの誕生」を見納めておきたかった。
二度目の鑑賞は、なぜか一度目以上の感傷に溺れる。
絵の前を去りがたく、閉館までの1時間余り、彼女と見つめ合った。>
※< >内、欧州旅ノオト「旅の日々」より抜粋/引用( )内加筆
30年前のりくすけさん、ヨーロッパひとり旅、とても逞しく感じます。
日本から出られなかった臆病者の僕とは,雲泥の差です。
どこが、どうだと言うことではないのですが、やっぱり今のりくすけさんに繋がるものを感じます。
意味不明のコメント、失礼いたしました。
では、また。
おっしゃる通り、ノートを読み返して、
僕も過去の自分を逞しく感じました。
ノートを書いた若者と、
こうしてキーボードを叩くオジサンは
確かに同一人物なのですが、
不思議と別人にも思えました。
これが年を取るという事なのかもしれません。
繋がるところ、似たところは当然あります。
今も旅は好きですし、絵も好きです。
時代も、世代も、感性も、
違いが出ているのかなと思います。
では、また。
30数年前の僕と、今の僕。
体重がまったく違います。
体格は「別人」でした(笑)
では、また。